罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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由奈の章 甘えたがりな義妹

いちごとバナナと……間接キスと……

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 由奈ちゃんと並んで歩き出した瞬間、ようやく“黒髪の天使”という呪縛から解き放たれた気がした。
 ……まあ、由奈ちゃんのスマホにはしっかりツーショットが保存されてるんだけど。

 それはいいのだけど、学園内を歩いていると至る所からその黒髪の天使の話題で持ちきりとなっていた。

「俺、黒髪の天使と5分も握手したぞ!」

「へ……!俺なんか7分だ!」

「でも、2年B組の焼きそば売り切れらしいぞ……?」

「いや……、聞いた話では材料を補充しに行ってるらしいぞ」

「ならまた黒髪の天使と握手が出来るってことか……!なら俺は今度10個買うぜ……!」

 そこら中から聞こえてくる話し声に僕は複雑な気持ちになっていた……。

 確かにクラスの出し物としては大成功と言っても差し支えはないと思う……。
 でも……、僕個人としては恥辱に塗れた感じだ……。

「あはは……、なんかすごい大人気みたいだね……」

 由奈ちゃんも居た堪れなく感じたのか、苦笑していた。

 唯一の救いは正体が僕だとバレていないことくらい……。

「うう……僕もうお婿に行けないよ……。」

「そ……そうだ……!ねえお兄ちゃん、あっちのクラスでクレープ売ってるんだって。行こ!」

 由奈ちゃんは僕を気遣ってか、僕の腕をぎゅっと掴むとクレープの模擬店へと向かった。


「いらっしゃいませ!」

 クレープの模擬店を行っている教室へと入ると、店員役の女生徒が笑顔で対応してくれる。

「由奈ちゃんは何がいい?」

 僕は由奈ちゃんに問うと、彼女はメニューを見ながら難しい顔をしていた。

「う~ん……、いちごと生クリームのやつと、バナナとチョコのやつ……どっちにしようなぁ~……」

 どうやらいちご×生クリームとバナナ×チョコの2つで悩んでいるようだ。

「悩むのなら両方頼んだら?」

 僕は軽い気持ちで由奈ちゃんに言うとキッと睨みつけられた。

「そんなことしたら太っちゃうよ!」

「……ごめん」

 なぜか怒られた……。

 悩むなら両方食べればいいと思うのに……女の子考えることはわからないな……。

「そうだ……!あたしがいちごと生クリームの頼むから、お兄ちゃんはバナナとチョコの頼んでよ!それで半分こするっていうのはどうかな?」

 由奈ちゃんは名案とばかりに僕を見るも、なんか嫌な予感を覚える……。

「え……?いや……それはちょっとヤバいかも……」

「何が?……すみませ~ん。いちごと生クリームのと、バナナとチョコのをください!」

 しかし、そんな僕の思いを他所に、由奈ちゃんは勝手に注文をする。

「ありがとうございます!2つで1,000円ですね」

「だって、お兄ちゃん♪」

 由奈ちゃんはそう言い僕へと手を出す。
 ……まあいいけどね。

 僕は財布からお金を取り出すと女生徒へと支払う。

「ありがとございました~!」


 クレープを買った僕と由奈ちゃんは、校舎裏のベンチへと座りクレープを食べていた。

「お兄ちゃん、口元にクリームついてるよ」

「えっ……どこ!?」

「ここだよ、動かないでね」

 由奈ちゃんは僕の顔にそっと手を伸ばし、指先でクリームを拭った。

 指先が触れた瞬間……距離が一気に縮まり、僕は思わず息を呑む……。

「……ありがと」

「ううん。あたし、今日すごく楽しいよ、えへへ♪」

 由奈ちゃんはそう言って、僕の隣でクレープを頬張った。

「そ……そう……」

 思わぬ由奈ちゃんの行動に僕は動揺し、顔を赤くしながらもぶっきらぼうに答える。

「ねえ、お兄ちゃんのクレープ少しもらうね♪」

 由奈ちゃんは僕の持っていた食べかけのバナナチョコのクレープに顔を近づけると、ためらいなく一口かじった。

「……っ!」

 僕は固まった。

(いやいや……、今のって完全に……!)

「えへへ、バナナチョコも美味しいね。あたしのいちごも食べてみる?」

「いや、ちょっと待って……それ、間接キスじゃ……!」

「え……?あ……」

 自分のした行動の意味を理解した由奈ちゃんは顔を赤くしてそれ以上何も言わなくなった……。

 学園祭の喧騒が遠ざかり、僕たちの静かな時間がそっと流れた……。


 ~サイドストーリー~


 ──澪──


 焼きそばの材料が補充された後、わたしは2年B組の教室の前で延々と握手をさせられていた……。

「握手……お願いします……!」

「焼きそば5個買いました!柊さんと5分握手できますよね!?」

「……はい。では、こちらにどうぞ」

 わたしは無表情のまま、男子の手を淡々と握っていた。

「うわ……俺今柊さんと握手してる……!」

 感動に浸る男子に対しわたしは無表情で注意する。

「……コメントは控えて」

 その一言で男子は黙り込むが、顔は明らかに照れていた。

「……御堂君、帰ってこない」

 わたしはぽつりと呟いたその声は、誰にも聞かれていない。
 高藤君の話では御堂君は付属の子と学園祭を見て回ってるって言ってた……。

 その付属の子というのはきっと風原さんの妹さん……。

「……出し抜かれた」

 わたしは呟いたあと、視線を遠くへと投げた……。
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