罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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由奈の章 甘えたがりな義妹

オバケよりドキドキする気持ち

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 ──由奈──


 クレープを食べ終わったあたしは、お兄ちゃんに触れる事もなく少しだけ距離を開けて歩いていた……。
 その理由は先ほどの事故……。

(ど……どうしよう……、わざとじゃないにしても、お兄ちゃんと間接キスしちゃった……)

 あたしの胸はドキドキと高鳴る……。
 途中からクレープの味なんて全然しなかった……。

 頭にあったのはお兄ちゃんと間接キスをしたと言う事実だけ……。

(でも……お兄ちゃんは少しはあたしなこと……意識してくれた……かな……?)

 あたしはチラッとお兄ちゃんの顔を覗き見るもいつもと変わらないお兄ちゃんの表情に、何を考えているのか伺いしれない……。

(どうしようかな……、折角のお兄ちゃんとの学園祭デート……もっと仲を深めたいよ……)

 あたしはなにかないかとあたりを見渡すと、お化け屋敷をしている教室を見つけた。

 これだ……!
 こわいけど……だからこそお兄ちゃんとなら……。

(お化け屋敷……! 怖いけど……でも、怖いからこそ……!)

 あたしは一歩、二歩とお兄ちゃんに近づいて、そっと腕に手を添えた。
 さっきまで少し距離を空けていたのに、今はもう、くっついて歩いている。

「ねえ、お兄ちゃん……あたし、あそこ行ってみたいな」

 指さした先には、黒い布で覆われた教室。入口には“恐怖!地獄の迷宮”と手書きの看板がぶら下がっている。

「え、お化け屋敷? でも由奈ちゃん、怖いの大丈夫なの?」

「えっと……苦手だけど……だからお兄ちゃんと一緒に入りたいかなって……ダメ……?」
  
 あたしは抱きついているお兄ちゃんの腕にぎゅっと力を込めながら上目遣いで見る。  
 お兄ちゃんの表情が一瞬だけ固まったのを、見逃さなかった。

(……やっぱり、ちょっとは意識してくれてるのかな?)

「……わかったよ。じゃあ、行こうか」

 お兄ちゃんは少し照れたように笑って、あたしの手を握り返してくれた。

 その瞬間、あたしの胸のドキドキは、さっきの間接キスよりもずっと強くなった。

(怖いのは、お化けじゃなくて……お兄ちゃんとの距離、かも……)

 あたしはそう思いながら、お化け屋敷の模擬店へと向かう。
  
「すいません、2人いいですか?」

「ええ、いいですよ!二人で600円です。」

 お兄ちゃんが受付の女の先輩に入場料を払おうとするのをあたしは制した。

「お兄ちゃん、ここはあたしがだすよ」

「え……?でも……」

「さっきクレープのお金を出してもらったからね。お兄ちゃんばかりに出させたら悪いし……ね♪」

 あたしはお兄ちゃんへとウインクをすると、顔を赤くして目を逸らすお兄ちゃん。
 ……その照れた顔がちょっとだけ嬉しい。

「わ……分かったよ……。ならここは由奈ちゃんにお願いしようかな……」

「うん!」

「お二人様ご案内~!」

 あたしは受付の先輩へとお金を支払うとお化け屋敷へと入る。


 教室を使ったお化け屋敷は、思っていたよりも本格的だった。  
 黒い布で天井まで覆われていて、足元にはうっすらとスモークが漂っている。
 さらにおどろおどろしいBGMのオマケ付きという念の入れよう……。

 教室の中に足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。
 ひんやりとした冷気が肌を撫で、背筋がぞくっとしたあたしは思わずお兄ちゃんの腕にしがみついた。

「うわ……本気だ……」

 お兄ちゃんがぽつりと呟く。
 その声が、いつもより少しだけ低くて、あたしの心臓が跳ねた。

(……お兄ちゃんの声、こんなに近かったっけ……)

 通路は狭く、二人並んで歩くにはちょっと窮屈。  
 自然とあたしはお兄ちゃんの後ろに回って、背中にぴったりくっつくように歩いた。

「由奈ちゃん、後ろからくっつきすぎじゃ……」

「だって……怖いんだもん……」

 あたしはお兄ちゃんの制服の裾をぎゅっと掴んだ。  
 その瞬間、教室の奥から「ギャアアアアア!」という叫び声が響いて、あたしは思わずお兄ちゃんの背中に顔を埋めた。

「うわっ、びっくりした……!」

 お兄ちゃんも驚いたみたいで、肩が跳ねる。  
 でも、すぐにあたしの手をそっと握ってくれた。

「大丈夫だよ、僕がいるから」

 その言葉に、あたしの胸がまたドキドキと高鳴る。  
 怖いはずなのに、なんだか嬉しくて、顔が熱くなる。

(お兄ちゃん……、優しい……)

 暗闇の中、あたしはお兄ちゃんの手を握り返した。  
 その手の温度が、あたしの不安も、照れも、全部包み込んでくれる気がした。

 そして、次の角を曲がった瞬間——  
 突然、壁の隙間から白い手が飛び出してきて、あたしの肩に触れた。

「きゃあああああっ!!」

 あたしは反射的にお兄ちゃんに抱きついた。  
 腕の中に飛び込んだ瞬間、お兄ちゃんの体がびくっと硬直するのがわかった。

「ゆ、由奈ちゃん……!?」

 あたしは顔を上げることができず、ただお兄ちゃんの胸元にしがみついたまま、小さく震えていた。

(ごめんね、怖いのは本当なんだけど……でもそれは口実で……今だけは……このまま……)

 あたしの心の中で、さっきの間接キスよりもずっと強い“想い”が、静かに芽吹いていた。  
 この距離、この温度、この鼓動……。

 やっぱりあたしはお兄ちゃんが好きなんだ……。
 でも……もしあたしがこの気持ちをお兄ちゃんに言ったらどうなる……?

 今まで通り義理とは言え、兄妹の関係じゃなくなる……?
それとも……。

 怖いのは、やっぱりお化けじゃなくて……。
 ……お兄ちゃんとの"関係が変わる事"なのかもしれない。
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