罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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由奈の章 甘えたがりな義妹

待ち構える高藤の仕掛け、自走式スタンプ台!

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 ──彼方──


 由奈の模擬店を出たあと、暇つぶしに付属中学の中をぶらぶらと歩いていると、昇降口のあたりで、生徒会執行部の人からスタンプラリーの紙を渡された。

 内容としては指定された教室に行ってスタンプを貰う、そしてスタンプが全て集まったら記念品としてオリジナルアクセサリーが貰えるというよくあるスタンプラリーだ。

 そのスタンプもらえる場所が、体育館、3年C組、保健室、家庭科室、そしてグラウンドの5カ所にあるらしい。

(どうしようかな……せっかくだから由奈と回ってみようかな……)

 僕はそう思いながら裏を見てみると生徒会執行部の横に"協力:本校2年B組、高藤先輩"と書かれていた。

「……は?」

 はあぁぁぁぁぁーーーーーー……っ!?

 それを見た僕は思わず心の中で絶叫する!

 なんであいつ高藤が付属中学の学園祭に協力してるんだよ……!
 これを由奈と共に回る……?冗談じゃない……!
 アイツのことだ、何を仕掛けているか分かったものじゃない……!

 僕はスタンプラリーの紙をくしゃくしゃに丸めようとするとスマホが鳴り始めた。

(誰だろう……?)

 見てみると由奈からの着信だった。

「もしもし由奈……?」

『あ、彼方さん?あたしのシフトが終わったよ!彼方さん今どこにいるの?』

「えっと……今昇降口の辺りだけど……」

『わかった!それじゃすぐに行くね!』

 由奈はそれだけを言うと電話を切る。

 しかし……このスタンプラリーはどうしようか……。

(……まあ、後で考えるか)

 そう思いながらも僕は由奈が来るのを待つことにした。


 待つこと少し……。

「彼方さんお待たせ~!」

 制服へと着替えた由奈が小走りで僕へと向かってくる。
 メイド服じゃないことに少し残念に思いながら僕は手を振る。

「由奈、おつかれさま」

「えへへ♪」

 僕は抱きついてきた由奈の頭を優しく撫でると目を細めて笑みを浮かべていた。

「さて、由奈どこに行こうか」

「それなんだけどさ、彼方さんこれ一緒にやらない?」

 そう言って由奈が僕へと見せてきたのは例のスタンプラリーの紙だった。

「え……?由奈もその紙もらったの……?」

「うん、学園祭の前にクラスで配られたんだよ!」

「……そっか」

 由奈の手元の紙を見た瞬間、僕の心はざわついた。

(由奈はまだ気づいてない……この紙の裏に書かれた協力:"高藤”の意味を……)

「彼方さん、どうしたの?なんか顔こわいよ?」

「いや……なんでもない。ちょっと、スタンプラリーの内容が気になってさ」

 僕は笑顔を作ってごまかす。
 由奈に余計な警戒心を与えたくない。
 でも、僕の中ではすでに警報が鳴り響いていた。

(高藤が関わってるってことは、普通のスタンプラリーじゃない。絶対、何か仕掛けてる)

「ねえ、最初はグラウンドから行ってみようよ!近いし!」

「……うん、そうだね。行こうか」

 由奈の笑顔に引っ張られるように、僕は歩き出す。
 でも、心の中では覚悟を決めていた。

(由奈を守る。何が起きても、絶対に)

 そして僕らは、グラウンドへと向かう……。
 そこには、すでに“高藤的カオス”の第一の試練(?)が待ち構えていた。


 ◆◆◆


 グラウンドへとやって来ると、なぜかど何人かの生徒が台を走って追いかけていた。
 ……が、誰も捕まえられずに諦めて去っていく。

「彼方さん、スタンプラリーの場所ってここだよね……?」

「そうみたいだね……。とりあえずあの台に行ってみよう」

 僕と由奈は台に向かって近付く……。
 台の足元にはキャスター、そして上部にはカメラが取り付けられていた。

(……カメラにキャスター?)

 僕は首をかしげつつ、慎重に近づいた。

 すると突然その台が僕から逃げるように走り出す。

「台が逃げた……っ!?」

 突然動く台に驚いた僕は追いかけるように走ると、さらに台は逃げていく……!

 なんで台が逃げるのさ……っ!?

「彼方さん、待って!それ、スタンプ台なんだよね!?」

 由奈の声が背後から聞こえるが、僕はそれどころじゃなかった。  

 台はまるで意思を持っているかのように、ジグザグに逃げ回り、僕を翻弄した。

 僕は必死に追いかけるが、キャスターの性能が異常に良いのか、なかなか追いつけない。  
 しかも、台の上のカメラが僕をしっかり捉えている。

(これ……撮られてる!?)

 その瞬間、台の側面に貼られた紙が目に入った。

 ──はーはははは……っ!この自走式スタンプ台を捕まえてみろ!ただし……一人では難しいぞ……?by 高藤──  

「やっぱりお前か……!」

 僕は叫びながら加速する。  
 高藤……!お前、どこまでふざければ気が済むんだ……!

「彼方さんあたしも手伝う!」

 由奈も台を追って走り出すが、台はさらに加速して逃げていく。

「くそ……!全然捕まえられない……!」

「彼方さんどうしよう……!」

「由奈、挟み撃ちで捕まえよう……!」

「わかった彼方さん!」

 僕と由奈は左右に分かれて台へと走る!

 そして……。

「……捕まえた!」

 僕と由奈が同時に掴むと台が止まり、カメラがピピッと音を鳴り、台の上部からスタンプと紙がせり出してきた。
 そしてその紙にはこう書かれている。

 ──ははははは……っ!その台を捕まえるとは見事だっ!そんな君に敬意を称してここのスタンプを押すことを認めようではないかっ!by 高藤──

 ……と書かれていた。

「はぁ……はぁ……!あいつ……絶対楽しんでるだろ……っ!」

 僕は息を整えながらもスタンプラリーの紙へとグラウンドのスタンプを押す。  
 由奈が僕のすぐ横へと寄ってきて、僕の背中をぽんぽんと叩いた。

「やったね、彼方さん」

「……うん、ありがとう。由奈がいなかったら全然捕まえられなかったよ」

 僕はスタンプのインクが乾くのを待ちながら、由奈の笑顔を見つめる。  
 彼女は汗をぬぐいながら、少しだけ息を切らしていた。

「でもさ、これって……普通のスタンプラリーじゃないよね?」

「うん。完全に高藤の仕業だよ。あいつ、スタンプ台にキャスターつけて逃げさせるとか……発想が異常すぎる」

「でも……なんか楽しかったかも」

 由奈がそう言って笑う。  
 その笑顔を見ていると、胸の奥がじんわりと熱くなる。

(……高藤の仕掛けはふざけてる。だけど、由奈の笑顔が見られるなら……悪くない……かもしれない)

「次はどこに行く?体育館?それとも保健室?」

「体育館にしようか。近いし、涼しいかもしれないし」

「そうだね」

 僕はスタンプラリーの紙を見つめながら、次の高藤の試練に備える。  
 グラウンドのスタンプは、ただの序章……。

 由奈と並んで歩きながら、僕は心の中で再び誓う。

(何が起きても、由奈を守る。高藤の罠がどれだけふざけていても、絶対に)

 そして僕らは、体育館へと向かう。  
 次なる試練の扉が、静かに開こうとしていた……。
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