罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

柊さんの意外な一面

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 猫カフェを出た僕は、柊さんと一緒に商店街を歩きながら、昼食の店を探していた。

(柊さんってどんなのが好きなのかな……?イメージとしてはパスタとか、パンケーキとか好きそうだけど……)

 ……考えてても仕方ない、聞いてみるしかないか。

「柊さん、お昼は何がいい?」

 僕は柊さんへと問うと、彼女は顎に手を当てて少し考えたあと、少し先に見える店を、静かに指さした。

「……あれがいい」

 あれ……?

 柊さんの指さした店を見るとイタリアンなお店のようだ。

 やっぱり柊さんもイタリアンが好きなのかもしれない。
 そう……この時までは普通にそう思っていた……。


 店に入ってすぐのことだった……。

 僕は自分のお皿にミートボロネーゼのパスタとパンをお皿に入れて席へと戻ると、柊さんの持ってきた料理に愕然とした……。

 この店はビュッフェスタイルらしく、割と手頃な値段で食べれる……のはいいのだけど、柊さんの持ってきた量が尋常ではなかった……。

 大きなお皿に盛られた魚介のトマトクリームパスタ、その上にチーズハンバーグとミートボールのトマト煮……。
 さらに別のお皿にはパンとサラダがかなりの量が盛り付けられていた。

「……柊さん、それ全部食べるの?」

 僕は我が目を疑った……。
 見た目が細い柊さんの体のどこにこれだけの料理が入るっていうのっ!?

「うん……、ここの料理……おいしい……」

 柊さんは僕の問いに頷くとモクモクと食べ始めると、みるみるうちに、皿の上の料理が消えていく。

 ……柊さんってもしかして隠れ大食い?

 しかし、柊さんは太ってもいないし、食べた栄養はどこに消えるのだろう……?

 ふと視線が、柊さんの胸元に向かってしまう。

(……胸に栄養がいってるとか?)

 いやいやいや……、仮にそうだとしてもあまり女性の胸を見るわけにはいかないな……。

 そう思った僕は視線を上げると柊さんと目が合う。

「御堂君食べないの……?口に合わない……?」

「そ……そんなことないよ……!」

 僕はミートボロネーゼのパスタを口へと入れると、ミートソースとはまた違う肉々しい味わいが口に広がる。

「おいしい……」

 僕は思わず声を漏らすと、柊さんは微かに笑みを浮かべた。

「御堂君の口にあってよかった……。わたしこのお店にはお母さんとよく来る……。だから御堂君に気に入ってもらえて嬉しい……」

 僕はパスタを口に運びながら、ちらりと柊さんの皿を見る。  
 さっきまで山盛りだった料理が、もうほとんど残っていない。

「……すごいね、柊さん。全部食べちゃったんだ」

「うん……。わたし食べるの好き……。それに、今日は御堂君と一緒だから……いつもよりおいしく感じる……」

 その言葉に、僕の心臓が少し跳ねた。

 柊さんはそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、無表情のままだけど、どこか満足げに水を飲んでいる。

 何ていうか……柊さん食べる時もあまり表情を出してないけど、満足げなようにも見えるかな……。

「……御堂君、わたしおかわりしてくる」

「え?う……うん……」

 どうやらまだ食べるらしい……。
 空になったお皿を手に持って席を立つ柊さんの背中を、僕は目で追った。  
 ノースリーブから伸びる腕が、さっきよりも軽やかに見える。  
 ……なんだろう、さっきまでの“爆食”の印象が強すぎて、今の柊さんが少しだけ遠く感じる。

 でも、すぐに戻ってきた彼女の手には、ふわふわのパンケーキが乗った皿があった。  
 ホイップクリームとベリーが添えられていて、見た目も可愛い。

「……今度はパンケーキ?」

「うん……これもおいしい……。御堂君のも持ってきたけど……食べる……?」

「あ……ありがとう……」

 僕は苦笑しながらもパンケーキを一口食べる。
 甘さが口に広がるたびに、柊さんの横顔が少しだけ柔らかくなる。

「甘いの食べると……心が幸せになる……。御堂君はどう……?」

 柊さんはパンケーキを食べながら微笑みかけると、僕はまた心臓が跳ねた。  

(これって、やっぱりデート……なんだよな)

 パンケーキの甘さが広がるたびに、柊さんの横顔が少しずつ柔らかくなる。  
その笑顔に、僕は言葉を忘れて見とれていた。


 ◆◆◆


 昼食を終えた僕たちは店を出て、商店街の中心あたりで足を止めた。

「御堂君……今日は楽しかった……」

「うん、僕も楽しかったよ」

 柊さんの意外な一面をいくつも知れて、なんだか濃密な時間だった気がする。

 でもまあ……大食いだったのには驚いたけど……。

 ふと彼女のお腹に目をやると、ほんのり膨らんでいた。

(……あの細い体にあれだけの量が入るんだから凄いよな)

「また今度御堂君と一緒に出かけたい……」

「うん……、今日は柊さんに任せっぱなしでごめんね……?」

「ううん……今日は昨日のお礼……。でも……次は御堂君にお任せする……」

「その時は任せてよ」

「うん、楽しみにしてる……。それじゃあ、わたしはこれで帰るね……」

「家まで送ろうか……?」

「……送り狼は次に期待してる」

 柊さんはほほ笑むと家があると思われる方向へと歩いていった。

 送り狼って……いや、そんなつもりじゃないけど。
 柊さんの言葉、冗談なのか本気なのか……やっぱり掴みづらい。

 僕はその背中を見送る。
 ノースリーブの白が、夏の陽射しに溶けていくようだった。  
 さっきまで一緒にいたのに、急に遠く感じる。

(……送り狼って、次もあるってことだよな)

 その言葉を思い出すだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 柊さんは振り返らない。
 でも、歩き方がどこか軽やかで、嬉しそうに見えた。

 彼女の背中が見えなくなるまで、僕はただ黙って目で追い続けた。
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