罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

澪の食欲の理由

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 生徒会長と別れたあとも、澪は買い食いを続けていた。  
僕はその姿を、ただ静かに眺めていた。

「このうどんも美味しい……。彼方くんは食べなくていいの……?」

「僕は澪がおいしそうに食べてるのをみてるだけで十分だよ」

 お腹がいっぱいというのもあるけど、どんなものでも美味しそうに食べる澪の姿に、僕は目を奪われていた。

「……そんなに見つめられると照れる」

 見つめられ、顔を少し赤くする澪に僕は微笑みかける。

「やだ……、僕は澪の彼氏だから澪がおいしそうに食べるところを見るのは僕の特権だ」

「……彼方くんって意外と意地悪」

 澪は頬を膨らませながらもうどんをすする。

「そう言えば澪って嫌いな食べ物ってあるの?」

「……強いて言えば辛いもの。激辛とか無理」

 なるほど。

「甘い物とかは?」

「甘いものは好き……いくらでも食べれる……」

 澪は甘いのが好きなのか……。
 それを聞いた僕はとある意地悪な質問を思いついた。

「じゃあ……甘いものと僕、どっちが好き……?」

 僕は澪へと質問をすると、彼女はじっと僕を見つめる……。

「彼方くんってやっぱり意地悪……。でも……、どちらかと言われると彼方くんのほうが好き」

 澪は顔を赤らめながら、そっと上目遣いで僕を見つめてきたくると、今度は僕の顔が赤くなるのを感じる。

(見事なカウンターをくらってしまった……)

 僕の思っていたことが分かったのか、澪はふふっと笑みを浮かべた。

「あ……!お兄ちゃんだ!」

 と、その時由奈ちゃんの声が聞こえると、彼女は僕へと向かって走ってくる。

「由奈ちゃん?」

「えへへ、お兄ちゃん探したよ!どこに行ってたんだよ!……ところでその人は?」

 由奈ちゃんは頬を膨らませながら僕へと文句を言ったあと、澪へと視線を向けると、すこしだけ彼女の顔が曇ったような気がした……。

「わたしは柊澪……、彼方くんの彼女……」

「か……彼女……?」

 由奈ちゃんは一瞬言葉を失い、僕と澪を交互に見つめる。

 その瞳には、驚きと戸惑い——そして、隠しきれない寂しさが滲んでいた。

「うん……。彼方くんと付き合ってる……。これがその証拠……」

「え……?澪……っ!?」

 澪は僕のネクタイを掴むと自分の方へと引っ張った。
 そして……。

「ん……」

 澪は突然僕へとキスをする。
 今日の彼女のキスは……ほんのり鰹出汁の味がした……。

 澪の唇が離れたあと、僕は一瞬何も言えなかった。
 由奈ちゃんもまた突然の事にこの場を失っていた。 
 
「……彼方くんの味、好き」

 澪はそう言って、僕の唇にそっと舌を滑らせたあと、澪は無表情のまま器を置いた。

 澪の唇が離れたあと、僕はただ呆然としていた。
 けれど、彼女の瞳の奥に何か揺れるものを感じていた。

(み……澪に唇を舐められた……)

 僕の心臓がドキドキと高鳴るのを感じる……。
 由奈ちゃんは何か言いかけるも、言葉を飲み込むと、目を伏せたまま唇を噛んでいた。

「……そっか。澪さんって、そういう人なんだね」

 由奈ちゃんは少しだけ笑ってみせたけど、その笑顔はどこか寂しげだった。

「ごめん、由奈ちゃん……。驚かせちゃったよね」

「ううん。お兄ちゃんが幸せなら、それでいいよ……。そ……それじゃあ邪魔しちゃ悪いからあたしはもう行くね……!」

 由奈ちゃんはそれだけを言うと少しさみしげな笑顔を浮かべたままこの場を走り去っていった。

「……澪、何でさっきあんなことしたの?」

「……ごめんなさい、でも彼方くんが、わたしのものだって……誰にも渡さないって、伝えたかったの……」

 僕は澪へと問うと彼女は顔を俯かせままそれ以降何も言わず、うどんをすすっていた。
 僕はその瞳の奥に、彼女の心の空腹を感じていた……。


 ◆◆◆


 夕暮れの屋上。
 沈む太陽が、澪と僕を静かに染めていた。

「彼方くん……さっきは驚かせて本当にごめんなさい……」

「まあ……、ビックリはしたけど大丈夫だよ」

「……彼方くんにわたしの話を聞いてほしい」

 澪は僕に背を向け、ゆっくりとフェンスへと歩いていった。
 その背中が、少しだけ遠く感じる。

 僕は彼女の後ろをゆっくりと歩きながら澪が口を開くのを待つ……。

「わたしは幼い頃からこんなんじゃなかったの……、昔の私は、活発で、元気で——賑やかな女の子だった」

 澪はポツポツと話し始める……。

「でも……わたしのお父さんはわたしがはしゃぐたび怒鳴られて、時には手をあげられることもあった……。それが嫌でわたしはいつしか今の性格になってしまった……」

 僕は信じられなかった……澪にそんな過去があったなんて……。
 そして、彼女を虐待していた父親に対して激しい憤りを感じる……。

「そんなわたしを助けたいとお母さんはお父さんとが離婚……、でも……わたしの性格は治ることはなかった……。それは付属中学に入っても一緒で男子からはよくからかわれていた……。それがお父さんとに怒鳴られたりしていた過去と重なってすごく嫌で……怖かった……」

 そう言えば付属中学に入った頃……澪は男子からいじめられてたな……。
 僕がその時澪を助けたんだっけ……。

 その時の光景は今も覚えている。

「そのころからだった……食欲が止まらなくなったのは……。わたしは……心の中に空いた穴を埋めるように、私は食べることにしがみつくようになった……。本当は嫌なのに……、いっぱい食べないといけないの嫌なのに……。でも食べないと満たされなくて……さみしくて……悲しくて……」

 澪は自分の肩を抱きしめるようにして、静かに涙をこぼした。

「澪……」

 僕はそっと澪の体を抱きしめる……。
 彼女の小さな体が震えていた……。

 さっき感じた澪の心の中空腹感……多分澪は愛情に飢えているんだ……。
 本当はお父さんからも愛されたかった……でも、愛してもらえなかった……。

 その想いが付属中学の頃に目覚めてしまったんだ……。

「彼方くんおねがい……わたしの心を満たして……」

 澪がそっと僕を押し倒し、唇を重ねてくる……。
 そのキスは、言葉よりも深く澪の心を伝えていた。

「澪……」

「わたしを……愛してほしい……」

 澪の心の空白が、少しでも埋まるように——僕は、彼女の唇に何度も想いを重ねた。
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