罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

フリーマーケットのペアカップ

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 商店街を歩いていた先輩が、ふと一軒の店の前で足を止めた。
 ショーウィンドウの奥には、ティーカップが静かに並んでいる。

 白磁に金の縁取りが施されたものや、淡い花柄のもの。
 どれも品があって、値段は少し張るものの贈り物にはちょうど良さそうだった。

「二人でお茶を飲むって言ってましたよね。なら、使うたびに思い出してもらえるかもしれませんし」

 僕がそう言うと、ミレイは少しだけ目を見開いた。

「……いや、あまり高いのを贈ると二人に気を遣わせてしまうし、逆にしまい込まれてしまいかねない。それでは意味がないんだ」

 彼女は腕を組み直し、真剣な眼差しでカップを見つめる。
 その横顔には、いつもの“生徒会長”ではない、ひとりの女の子の素顔が見えた気がした。

 でも、確かに贈る以上使ってもらいたいという如月先輩の気持ちも分かる。
 なるほど、プレゼントを贈るというのも中々大変なんだな……。

「先輩にとってその人って本当に大切な人なんですね」

「ミレイにとって二人は……親代わりみたいな人達なんだ」

「もしよければ詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

「ああ、構わないぞ。その人たちは、誠司さんと志乃さんという執事とメイドの夫婦で——二人には子供がおらず、その事もあり幼い頃から不在がちだったミレイと律の両親に代わって実の子供のように接してくれていたんだ。だから2人はミレイと律にとってはもう一組の両親みたいなものなんだ」

 その言葉には、いつもより少し柔らかい響きがあった。  
 僕は何も言えず、ただ頷いた。

「だから、ミレイは……ちゃんと伝えたい。感謝の気持ちを、形にして……。そしてちゃんと使ってもらえるものを贈りたいんだ」

 彼女の声は小さかったけれど、確かに届いた。
 その言葉に触れた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。

「じゃあ、いくつか見て回りましょうか。きっと、ぴったりのカップが見つかりますよ」

「……そうだな。御堂、今日はミレイに付き合ってくれ!」

「はい、喜んで」

 僕は笑いながら答えると、ミレイは少しだけ照れたように目をそらした。  
 その仕草が、なんだかいつもよりずっと可愛く見えた。


 その後も僕たちは色んな雑貨屋や食器専門店、ギフトショップを見て回ったけど、先輩の気に入るものはなかったらしく、どの店を回っても、如月先輩は首を横に振るばかりだった。
 いくつもの店を巡って、気づけば空は少しずつ赤みを帯びている。

 と、その時1軒のフリーマーケットが目についた。

(フリーマーケットか……、何かいいのがあるかもしれないな……)

 そう思った僕は如月先輩に声をかけてみる。

「先輩、フリーマーケットとかはどうですか?」

「フリーマーケットか……、少し見てみよう」

 僕は先輩と共にフリーマーケットへと向かうと店先には、雑貨や食器、手作りの小物が所狭しと並んでいた。
 その中に一つのペアカップを見つける。

 そのカップは、淡いベージュに木の葉模様が描かれた一品で、派手さはないけれど、どこか温もりを感じるデザインだった。

「如月先輩、これはどうですか? シンプルだけど、温かみがあって使いやすそうですよ」

 僕はそのペアカップを指さすも、先輩は腕組みをしながら難しい顔をして首を傾げる。

「悪くはないが……ミレイの感謝がちゃんと伝わるかどうか……」

 彼女はそう言って、また腕を組む。
 その姿は、まるで難問に挑む学者のようだった。

「先輩、プレゼントって“完璧”じゃなくてもいいと思うんです。大事なのは、気持ちがこもってるかどうかじゃないですか?」

 僕の言葉に、ミレイはふと目を見開いた。
 そして、少しだけ視線を落とす。

「……ミレイは、昔から律の姉として、今は生徒会長として“ちゃんとしなきゃ”って思ってた。失敗したら、誰かに迷惑がかかるって……そう思ってたんだ」

 その言葉の奥に、誰にも見せない彼女の素顔が垣間見えた。
 僕は何も言わず、ただ隣に立ち続けた。

「でも……御堂の言う通りかもしれないな。完璧じゃなくても、気持ちが伝われば、それでいいのかもしれない。すみません、このペアカップをください!」

 先輩は店主の人にお金を払うと笑顔でペアカップを受け取る。
 その笑顔は、いつもの生徒会長の顔とは違って、どこか柔らかかった。

「先輩、いいものが買えましたね」

「ああ!御堂、今日はありがとう。本当に助かった!」

 先輩の屈託のない笑顔を見ると僕の心臓がドキッと跳ねた。

「い……いえ、僕の方こそお役に立ててよかったです」

 僕は少し顔を赤くすると照れ隠しに視線を如月先輩から反らしながら頬を掻く。

「御堂、もしよかったら明日ミレイの家に来てくれないか?今日のお礼がしたい」

「お礼だなんてそんな……、僕はそんなつもりで手伝っていたわけじゃ……」

「しかしそれではミレイの気が収まらない!住所はあとでメールで送るから、必ず来てほしい!それではまた明日な御堂!」

 先輩は一方的に用件を伝えてくると、買ったペアカップを大切に抱きかかえたまま僕へと手を降って夕暮れの街へと消えていった。
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