罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

守りたいという想い

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 ──彼方──


 学園祭が始まり、各クラスの見回りに向かおうとした僕の肩を、高藤が突然掴んできた。

「さて、御堂行くぞ」

「行くってどこにさ……?」

「決まってるだろ?ミスコンの会場、体育館だ。特別審査委員長としての役割……果たしてもらうぞ?」

 いや……、僕そんなの引き受けた覚えないんだけど……。

 僕は高藤に連行されるかたちで体育館へと向かう。


 ◆◆◆


 体育館に足を踏み入れると、そこは熱気とざわめきに包まれていた。  
……主に男子生徒の熱狂で。

「さて、御堂は最前列に座ってもらおうか」

「何で最前列なの?」

「特別審査委員長だからな、公平なジャッジを頼むぞ?」

 高藤はニヤリと笑みを浮かべるとどこかへと去る。

(……まあいいけど)

 そう思いながらステージを眺めていると、いよいよミスコンが始まる。

『皆様お待たせ致しました!いよいよ第一回、青葉ケ丘学園ミス・コンテストを開始します!では一番、風原亜希さんステージの前へどうぞ!』

 司会の言葉とともに、亜希がステージの前に進んでくる。

『では、風原さん。自己紹介をお願いします』

「はい……風原亜希、二年B組です」

『ありがとうございます。では、趣味や特技などを教えてください!』

「特技は……料理です」

 亜希が特技を答えると、会場からは男子生徒を中心とした感嘆の声があふれる……が、僕は内心苦笑していた。

(亜希……それ、嘘だよね)

 亜希は料理が全くできない。
 でも、見栄っ張りで完璧女子を演じる亜希は料理を特技と答えたようだ。

(亜希、嘘はいけないよ)

 僕は口パクで言うと、亜希からジロっと睨まれる。

(もしかしてバレたっ!?)

 冷や汗をかいていると、亜希は僕から目を逸らしたため、ホッと胸を撫でおろす。

『二番、柊澪さんステージの前へどうぞ!』

「……はい」

 司会の人に呼ばれた柊さんは返事をするとステージへと向かう。

 柊さんは僕を見つけると静かに微笑みかけてくる。

「柊澪、2年B組です……。趣味は読書……」

 柊さんは淡々と話し終えると軽く一礼をする。
 ただそれだけなのに、なぜか澪コールが巻き起こる。

(柊さんって意外と人気?)

 しかし、そんな中でも柊さんは無表情で立っていた。

『三番、早乙女瀬玲奈さんステージの前へどうぞ!』

「は~い!」

 早乙女さんは元気よく答えるとステージの前へと向かっていく。

「三番!2年B組の早乙女瀬玲奈ですっ!趣味は……ゲームかな?最近ゲームのし過ぎで成績が下がったことを親に怒られました、テヘ♡」

 早乙女さんのスピーチが終わると、会場からは大きな歓声が上がる。

 早乙女さんのことはよく知らないけど……陽キャ的な人なんだな……。


 そして他にも何人かの女子たちがスピーチを終えていくとついに先輩の出番がやってくる。

『では次に如月・ミレイ・柚葉さんステージへどうぞ!』

 如月先輩は、硬い表情のまま、ゆっくりとステージへと歩み出た。

(そう言えば、先輩の趣味ってなんだろう……?)

 僕は先輩に注目した、しかし……。

『3年D組、如月・ミレイ・柚葉です!趣味は……』

 そこで先輩の言葉が止まった。

(先輩……?)

 僕は立ち上がりそうになるのをぐっと堪えると、周囲からざわめきが巻き起こる。

「趣味は……ありません」

 先輩が答えると会場からはどよめきと落胆の声が聞こえてくる。

「え……?生徒会長って無趣味なの?」

「もしかして、仕事が趣味みたいな人?」

「俺、如月先輩推しだったけど……なんか違ったな」

 僕の耳に趣味からの先輩に対する否定的な声が聞こえてくると、僕は手を握りしめる。

(違う……!先輩はみんなのために生徒会長として頑張っているんだ!その一生懸命さが先輩の長所なんだ……!)

 しかし、そのことを理解せずにただ面白がるように笑う声が体育館のあちこちから聞こえてくる。

 僕は、拳を握ったまま先輩の姿を見つめていた。

 ステージの上で、先輩はまっすぐ立っていた。  
 でも、その肩はほんの少しだけ震え、唇を噛んでいた。
 その小さな震えが、僕の胸の奥をぎゅっと掴んだ。

(……先輩は、こんな場所に立ちたくて立ったわけじゃない)

 高藤の企画に巻き込まれて、無理やり出場させられて……それでも逃げずに、ちゃんとステージに立ってる。

 それだけで、十分すごいのに。

 僕は、何もできなかった。
 ただ見ているだけで、何も言えなかった。

 先輩の視線が、一瞬だけ僕の方を向いた。  
 その瞳に浮かぶ、かすかな不安と寂しさに、僕は息を呑んだ。

(……僕が、守らなきゃいけなかったんじゃないのか)

 その後の体操服審査でも、先輩は何もできずに、ただ立っていた。  
 他の出場者たちが笑顔でポーズを決めたり、特技を披露したりする中で、  
 先輩だけが、まるでそこに“居場所がない”ように見えた。

 観客の視線が、先輩から離れていくのがわかる。  
 誰もが、先輩を“つまらない”と決めつけて、興味を失っていく。

 でも、僕は違った。  
 僕だけは、目を逸らせなかった。

 先輩の震える指先も、伏せたまつげも、  
 何もできずに立ち尽くすその姿も——全部、目に焼きついていた。

(……先輩)

 僕は、心の中で名前を呼んだ。

(……彼女を守りたい)

 そう思った瞬間胸が熱くなるのを感じる。

 なぜそこまで僕は先輩の事が気になるのか、なぜここまで周囲に対して憤りを感じるのか、その理由が今わかった。

 僕は——如月・ミレイ・柚葉という“ひとりの女の子”が好きなんだ。
 生徒会長でも、先輩でもなく、ただ彼女自身を特別な女の子として見ていたんだ。


 そして、結果発表。  
 優勝者として呼ばれたのは、早乙女さんだった。

 気がつけば先輩の姿がステージになかった。
 会場が歓声に包まれる中、僕はただステージにいない“彼女”の姿を探していた。

(もしかしたら外に出たのかな……)

 そう思った僕は体育館を出ると先輩を探す。
 そして、体育館裏——涙をこぼす彼女の姿を、僕は見つけた。
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