罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

焦りと後悔、疑念と怒り

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 昼休み、彼方に電話をかけたけれど、応答はなかった。

 仕方なく放課後に会って話がしたいという内容のメールを送ると、静かにため息をついた。

「はぁ……」

「……どうしたのよ、ミレイ?ため息なんかついて」

 すると、同じクラスにいる姫野が話しかけてきた。

「いや……、なんでもない……」

 私は姫野に返事をするとがっくりと肩を落とす。

「いやいや、それなんでもないって顔じゃないでしょ。ていうか、ミレイ、学園祭以来ずっと御堂くんと一緒じゃないよね?次の日にでもケンカでもした?」

 ケンカ……彼方からしたら似たようなものなのかもしれない。
 でもここは姫野に相談してみるのもいいかもしれない、そう思った私は口を開く。

「姫野、ミレイは彼方との時間を作りたくて、生徒会の仕事を必死にこなしてきたのに——こなせばこなすほど、次々と新しい案件が舞い込んできて彼方との時間が作れないんだ。ミレイは……どうすればいいだろうか……」

 私は手を握りしめ、肩を少し震わせながら姫野に相談すると、姫野は堪えきれずに、机に突っ伏して笑い出した。

「あははははは……っ!」

「姫野……!笑わなくてもいいだろ……!ミレイは……本気でどうすればいいのか悩んでいるのに……」

 姫野の笑い声が教室に響く中、私はひとり、笑い声の中で、じわりと滲む涙をこらえていた。

 笑われるほど、私は不器用なんだ——そう思うと、胸が痛み、ジワリと涙が滲んでくる。

「ごめんごめん、ミレイは生徒会長としては優秀かもしれないけど、それ以外は本当にポンコツよね?それなら御堂くんと一緒に業務にあたればいいじゃない?確か彼はミレイを支えるって言って生徒会に入ったんでしょ?なら支えてもらえばいいんじゃないかな?」

「で……でも……、それだとミレイは彼方に甘えてしまって業務が滞ってしまうかもしれない……」

「いいじゃない、普段ミレイは頑張ってるんだし、少しくらい彼氏に甘えちゃいなよ。それで業務が滞ったら2人揃って副会長の弟くんに怒られればいいじゃない」

「姫野……!そんな他人事みたいに……」

「まあ、私からしたら他人事だし?でも、ミレイは御堂くんの事が好きなんでしょ?ならちゃんと捕まえておかなきゃ。じゃないと離れて行っちゃうわよ?」

 彼方が私から離れる……。
 姫野の言葉に今朝の彼方の私を見る目を思い出すと、胸が締め付けられる。

「それだけは、絶対に嫌。今日こそ、彼方とちゃんと向き合う。そして——ちゃんと謝る。」

「うん、それがいいと思うよ。もしそれでフラれたらあたしが慰めてあげるから」

「ありがとう、姫野」

 私は滲んでいた涙を拭うと、未だ暗い画面のスマホを見つめる。
 彼方はきっと来てくれる……、そう信じて午後の授業を受けた。


 ──彼方──


 先輩と別れたあと、教室に入った僕は先ほどのことを思い出しながらぼんやりと時計を眺めていた。

(どうして、あのとき“如月先輩”なんて呼んでしまったんだろう……)

 心の中で後悔するとともに、ミスコンのときに聞こえた、あの言葉がふと頭をよぎる。  

『生徒会長って、仕事が趣味みたいな人?』

 僕は頭を振るとその言葉を振り払おうとする。

 でも……もし本当に先輩が僕よりも仕事のほうが大事という人だったら……?
 僕のことなんて気にすることもなく淡々と仕事をこなす先輩……。

 違う……!先輩はそんな人じゃない!

 僕は必死にそれを否定しようとするも、一度思い浮かんだ疑心暗鬼はなかなか消えてくれない。

(わからない……!僕、先輩が分からなくなったよ……!)

 僕は如月・ミレイ・柚葉と言う人のことを見失ってしまっていた。


 昼休み、誰とも会いたくなかった僕は屋上で一人弁当を食べていた。
 空を見上げると、雲がゆっくりと流れていた。
 何もかもが、自分を置いていくように見えた。

(雨でも降れば気にすることなく泣けるのに……)

 僕はそんな事を思いながら晴れた空を見つめる。

 と、その時僕のスマホの着信が鳴る。
 画面を見ると、相手は先輩だった。

 電話に出るかどうか悩んでいるうちに、着信は切れてしまった。

 代わりに届いたのは、一通のメール。
 差出人は——先輩だった。
 メールには、こう書かれていた。

『放課後、屋上で待ってる。……話がしたい』

 そのような感じの文面だった。

(何を今更……!)

 胸の奥に、じわじわと怒りが湧いてくる。

 僕が誘ったときは忙しいから無理と言ってたくせに、自分は当たり前のように誘ってくるなんて……!

「……じゃあ、なんで僕のときは断ったんだよ!」

 なんで、僕が言ったときに「分かった」って言ってくれなかったんだよっ!

 僕は誰もいない屋上で悲痛の叫び声をあげる。

 ……兎に角、放課後に先輩が話がしたいというのなら行ってみよう。
 そして、そこで僕のことをどう思っているのか……それをきちんと聞いてみる必要がある。

 場合によっては……この関係を、終わらせることになるかもしれない。
 それでも、答えを聞かなきゃ前に進めない。

 スマホを握りしめたまま、僕はもう一度空を見上げた。
 晴れ渡る空が、やけに遠く感じた。
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