罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

文字の大きさ
165 / 223
柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

関係を守るはずだった選択の代償

しおりを挟む
 朝の空気は澄み渡り、通学路には鳥のさえずりが静かに響いていた。
 昨日までの重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなったような気がして、僕は前を歩く柚葉先輩の背中を見つけると思わず駆け寄った。

「柚葉先輩……、あの今日の放課後会えますか?話がしたいんですけど……」

「……彼方、今日も無理だ」

「なんでですか……?僕たち、付き合ってるんですよね……?なのに、なんで話もできないんですか……!?」

「……すまない、分かってくれ」

 先輩の言葉を聞いた瞬間……僕の中で何かが崩れた。

「……わかりました。それじゃ僕もう行きます、"如月先輩"」

 僕の口から出たその言葉は、思っていたより冷たかった。
 でも、止められなかった。

 彼女が、急に遠い存在になった気がした。
 あの距離は、言葉では埋められない。
 僕は、胸の奥が冷たくなるのを感じながら、逃げるようにその場を離れた。


 ──柚葉──


 彼方の声が、遠くに聞こえた気がした。

 彼方の口から出た“如月先輩”という言葉が、胸に突き刺さった。
 それは、彼が私との距離を明確に引いた証だった。

 ショックを受けた私は一人足取り重く学園に向かう。

 学園祭が終わってから、彼方とはほとんど話していない。
 電話にも出ていないし、昼休みも一緒に過ごしていない。
 放課後、生徒会室に来た彼方を、律が追い返したと聞いた。

 全部、私が選んだことだった。

 学園祭が終わったその日に律に言われた言葉が、今も胸に残っている。

『姉さん……、御堂と恋人関係になるのはいいが、生徒会長としての業務を疎かになるようでは困る。それが続くようなら、御堂とは別れてもらう』

 律の言葉は冷静で、正しかった。  
 でも、私には重すぎた。

(彼方と別れるなんて、絶対に嫌だ……)

 だから私は、生徒会長としての業務を優先した。
 生徒会の業務を的確にこなしていけば、律も何も言わない。
 そうすれば、彼方と“別れなくて済む”——そう思った。

 でも、それは彼方との関係を“守るため”に選んだはずの道だった。
 なのに、気づけば彼との関係を“遠ざける選択”になっていた。

 彼方の表情が、最近少しずつ曇っている。
 私に会いに来てくれる頻度も格段に減っていた。

(……私は何を守ろうとして、何を壊しているんだろう)

 生徒会長としての責任。
 恋人としての気持ち。
 どちらも本物なのに、両立できない私はやっぱり、不器用なんだと痛感する。

 でも、私は彼方ならきっと理解してくれると、分かってくれると思っていた。  
 でもそれは私の“甘え”だったのかもしれない。

 先ほど見せた彼の冷たい目……まるで他人を見るような目だった。
 それが私の間違いだったと思い知らされる。

 私は今すぐにでも彼方を追いかけたかった。
 でも……今更私が彼方に何を言えばいいのか……それがわからなかった。


 ◆◆◆


 朝の業務を片付けるため、生徒会室に来てはみたものの、私の手は止まったまま動かない。
 脳裏に浮かぶのは彼方のあの他人を見るような目……。

 仕事を片付ければ時間に余裕ができる、そうすれば彼方に会える。
 そう思っていたけど、仕事は減るどころか次々と舞い込んでくる。

 彼方と会う時間が作れない、しかもその彼方からあのような目を向けられる……。

(ミレイは……何のために頑張ってきたんだろう……?)

 もうわからなくなっていた。

 いっそ、生徒会長の仕事を投げ捨てて彼方に会いに行こうか……?
 いや、それこそ彼方から失望されて今度こそ嫌われるかもしれない。

 生徒会長としての私と、彼方の恋人としての私……2つの自分の間で、私は立ち尽くしていた。

 どちらかを選べば、どちらかを失う。
 そんな気がして、動けなかった。

 そのとき、生徒会室の扉がノックもなく開いた。

「失礼するよ、姉さん」

 律だった。手には分厚い書類の束を抱えている。

「これ、学園祭の後処理の追加資料だ。教頭からの指示で、今日中にまとめて提出してくれとのことだ」

「……わかった」

 私は短く答え、書類を受け取る。
 でも、律はその場を離れず、じっと私を見つめていた。

「……何か?」

「姉さん、顔色が悪い。無理をしているのではないか?」

「無理なんてしてない。ミレイは生徒会長だから、やるべきことをやっているだけだ」

 そう言いながらも、声が震えていたのを自分でも感じた。

 律は少しだけ目を細めたあと、静かに言った。

「……御堂のことだな」

 私は返事をしなかった。  
 でも、それが答えだった。

「姉さん、僕は“生徒会長としての責任”を求めたつもりだった。でも、姉さんが“恋人としての時間”をすべて犠牲にするとは思っていなかった」

「……え?」

「御堂と付き合うことを否定したわけじゃない。ただ、姉さんが“自分を見失う”ような選択をするとは思っていなかっただけだ」

 律の言葉は、静かで、でも鋭かった。

「姉さんが本当に守りたいものは何だ?生徒会長という立場か、それとも御堂との“心の繋がり”か?」

 私は答えられなかった。  
 でも、胸の奥で何かがはっきりと形を持ち始めていた。

(……ミレイは、彼方とちゃんと向き合いたい)

 その想いだけは、確かだった。

「律……ありがとう。少しだけ、考える時間をもらえる?」

「もちろんだ。姉さんが“姉さんらしく”あることを、僕は望んでいる」

 律はそれだけ言うと、生徒会室を後にした。

 私は深く息を吐き、机の上の書類を見つめる。

(彼方……放課後、少しだけでいい。ミレイの言葉をちゃんと聞いてほしい)

 心の中でそう呟いた私は、ようやく止まっていた手を動かし始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...