罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

関係を守るはずだった選択の代償

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 朝の空気は澄み渡り、通学路には鳥のさえずりが静かに響いていた。
 昨日までの重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなったような気がして、僕は前を歩く柚葉先輩の背中を見つけると思わず駆け寄った。

「柚葉先輩……、あの今日の放課後会えますか?話がしたいんですけど……」

「……彼方、今日も無理だ」

「なんでですか……?僕たち、付き合ってるんですよね……?なのに、なんで話もできないんですか……!?」

「……すまない、分かってくれ」

 先輩の言葉を聞いた瞬間……僕の中で何かが崩れた。

「……わかりました。それじゃ僕もう行きます、"如月先輩"」

 僕の口から出たその言葉は、思っていたより冷たかった。
 でも、止められなかった。

 彼女が、急に遠い存在になった気がした。
 あの距離は、言葉では埋められない。
 僕は、胸の奥が冷たくなるのを感じながら、逃げるようにその場を離れた。


 ──柚葉──


 彼方の声が、遠くに聞こえた気がした。

 彼方の口から出た“如月先輩”という言葉が、胸に突き刺さった。
 それは、彼が私との距離を明確に引いた証だった。

 ショックを受けた私は一人足取り重く学園に向かう。

 学園祭が終わってから、彼方とはほとんど話していない。
 電話にも出ていないし、昼休みも一緒に過ごしていない。
 放課後、生徒会室に来た彼方を、律が追い返したと聞いた。

 全部、私が選んだことだった。

 学園祭が終わったその日に律に言われた言葉が、今も胸に残っている。

『姉さん……、御堂と恋人関係になるのはいいが、生徒会長としての業務を疎かになるようでは困る。それが続くようなら、御堂とは別れてもらう』

 律の言葉は冷静で、正しかった。  
 でも、私には重すぎた。

(彼方と別れるなんて、絶対に嫌だ……)

 だから私は、生徒会長としての業務を優先した。
 生徒会の業務を的確にこなしていけば、律も何も言わない。
 そうすれば、彼方と“別れなくて済む”——そう思った。

 でも、それは彼方との関係を“守るため”に選んだはずの道だった。
 なのに、気づけば彼との関係を“遠ざける選択”になっていた。

 彼方の表情が、最近少しずつ曇っている。
 私に会いに来てくれる頻度も格段に減っていた。

(……私は何を守ろうとして、何を壊しているんだろう)

 生徒会長としての責任。
 恋人としての気持ち。
 どちらも本物なのに、両立できない私はやっぱり、不器用なんだと痛感する。

 でも、私は彼方ならきっと理解してくれると、分かってくれると思っていた。  
 でもそれは私の“甘え”だったのかもしれない。

 先ほど見せた彼の冷たい目……まるで他人を見るような目だった。
 それが私の間違いだったと思い知らされる。

 私は今すぐにでも彼方を追いかけたかった。
 でも……今更私が彼方に何を言えばいいのか……それがわからなかった。


 ◆◆◆


 朝の業務を片付けるため、生徒会室に来てはみたものの、私の手は止まったまま動かない。
 脳裏に浮かぶのは彼方のあの他人を見るような目……。

 仕事を片付ければ時間に余裕ができる、そうすれば彼方に会える。
 そう思っていたけど、仕事は減るどころか次々と舞い込んでくる。

 彼方と会う時間が作れない、しかもその彼方からあのような目を向けられる……。

(ミレイは……何のために頑張ってきたんだろう……?)

 もうわからなくなっていた。

 いっそ、生徒会長の仕事を投げ捨てて彼方に会いに行こうか……?
 いや、それこそ彼方から失望されて今度こそ嫌われるかもしれない。

 生徒会長としての私と、彼方の恋人としての私……2つの自分の間で、私は立ち尽くしていた。

 どちらかを選べば、どちらかを失う。
 そんな気がして、動けなかった。

 そのとき、生徒会室の扉がノックもなく開いた。

「失礼するよ、姉さん」

 律だった。手には分厚い書類の束を抱えている。

「これ、学園祭の後処理の追加資料だ。教頭からの指示で、今日中にまとめて提出してくれとのことだ」

「……わかった」

 私は短く答え、書類を受け取る。
 でも、律はその場を離れず、じっと私を見つめていた。

「……何か?」

「姉さん、顔色が悪い。無理をしているのではないか?」

「無理なんてしてない。ミレイは生徒会長だから、やるべきことをやっているだけだ」

 そう言いながらも、声が震えていたのを自分でも感じた。

 律は少しだけ目を細めたあと、静かに言った。

「……御堂のことだな」

 私は返事をしなかった。  
 でも、それが答えだった。

「姉さん、僕は“生徒会長としての責任”を求めたつもりだった。でも、姉さんが“恋人としての時間”をすべて犠牲にするとは思っていなかった」

「……え?」

「御堂と付き合うことを否定したわけじゃない。ただ、姉さんが“自分を見失う”ような選択をするとは思っていなかっただけだ」

 律の言葉は、静かで、でも鋭かった。

「姉さんが本当に守りたいものは何だ?生徒会長という立場か、それとも御堂との“心の繋がり”か?」

 私は答えられなかった。  
 でも、胸の奥で何かがはっきりと形を持ち始めていた。

(……ミレイは、彼方とちゃんと向き合いたい)

 その想いだけは、確かだった。

「律……ありがとう。少しだけ、考える時間をもらえる?」

「もちろんだ。姉さんが“姉さんらしく”あることを、僕は望んでいる」

 律はそれだけ言うと、生徒会室を後にした。

 私は深く息を吐き、机の上の書類を見つめる。

(彼方……放課後、少しだけでいい。ミレイの言葉をちゃんと聞いてほしい)

 心の中でそう呟いた私は、ようやく止まっていた手を動かし始めた。
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