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愛されSubは尽くしたい
不穏2
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「Kneel. パパのコネを使って仕事をしていました。すみませんでした、ってな。Say」
──従いたくない。そのCommandには。
心の声と、Glareを与えられて喜ぶSubの本能で、頭の中はぐちゃぐちゃになる。不快さがこみ上げてきて、汐は床の上へ嘔吐してしまった。身体は拒否反応を示しているのに、その男の元へ跪き、言うとおりにしようとしている自分がいる。
「パパの……っ」
汐は唇を噛み締めて、腹の底から沸き起こる衝動を堪える。いくらGlareを放っても怯まないと分かると、本庄は舌打ちをする。
「くっそつかえねーSub。Come. 四つん這いでな」
屈辱的な命令にいっそのこと意識を放り出してしまいたかった。応えようとする本能には抗えず、嬉々としてCommandを受け入れてしまう。
犬のように汐は四足歩行で、主人の後ろをついていく。汐は本庄とともにプレイルームへ入った。
のろのろとした動きに苛立った本庄は、汐の鳩尾を蹴り上げる。ベッドの足に背中を打ちつけた痛みで、呼吸が止まる。
助けを求めるため、汐は通話メッセージのアプリを立ち上げる。配置はある程度覚えている。画面を見ずに、ポケットに入ったままで操作をした。
履歴の一番上は深見のはずだ。
──来てくれるかも分からない。それに、こんなところを見られたら……。
プレイルームに入るには必ずDomとSubの合意が必要だ。明らかなルール違反での事態だが、深見は訝しむしれない。汐が他のDomとプレイをしようとしていたと。
「あ……っ」
躊躇している間に、本庄に見つかってしまう。
スマートフォンの電源を切られ、汐の手の届かないところへ取り上げられてしまった。
──やばいな。
以前までの汐だったら、このくらいのGlareでは脅かされなかった。しかし、深見とのプレイを通じて、少しずつGlareを受け入れるように体質が変化している。Domに応える心地よさを知ってしまったからだ。
「ハイランクって言われてるわりには、ご主人様の言うこと聞けねぇんだな」
「……あんたが雑魚なだけなんじゃないの?」
乾いた笑いの後に、強烈な蹴りが飛んでくる。目的が汐とプレイをすることではなく、ただ痛めつけたいだけだと分かり、汐は内心ほっとしていた。
「その冷めた目が昔から気に食わなかった。なあ、引退したのはSubだって分かったからだろ?」
「……さあ」
その気に食わない目で、さっきから本能を満たせていないDomを睨みつけた。内蔵を圧迫される苦しさと、骨が軋むことで生まれる熱。全て汐には初めての感覚だった。
「はは……マゾには全部ご褒美になっちまうか」
「……そーだよ。ごちそーさま」
ごつ、と鈍い音が脳内で弾けた。ちかちかとした白い火花が目の奥で散る。汐の意識も手足の感覚も、同じ光の中に消えた。
……────。
腹の痛みがずっと消えない。本庄はいなくなっているし、奇跡的にSubdropにもなっていない。しかし、体調は最悪だ。顔や手足には被害はないが、服の下は徹底的にやられている。
──こんな汚い身体じゃ、誠吾さんとプレイ出来ないな……。
シャツの下は酷い有様になっていた。インクが跳ねたみたいにくっきりとした赤黒い痣が、皮膚の上に乗っかっている。汐に対する長年の恨みもあっただろうが、動機はそれだけではないだろう。自分の中のDom性を明らかに制御出来ていなかった。
なるべく痛みを表情に出さないようにして、汐はプレイルームを出る。時刻はとっくに十二時を過ぎていた。昼間はバーのフロアは開いていないので、汐はエレベーターで一階へと降りる。
「あっ、汐。あらあら、お寝坊したのー?」
「まあ……そんな感じ」
島長は今から出勤なのだろう。やたらとにやにやしているのは、汐と会えたからだけではないらしい。
「だれ……彼氏?」
「そっ。かわいーでしょ! 新人の子! こういう仕事は初めてだって言うから、俺が手取り足取り教えてあげてねぇ……俺、ピュアな子好きなんだよねー」
「えっ、本当に付き合ってんの?」
汐は目をぱちくりとさせた。親友の歴代の恋人は、もっと年上で見目にお金をかけている男だったからだ。一歩後ろに隠れているのは、いかにも気弱で控えめそうな子だ。騙されているようで何だか気の毒になる。
「……そいつ、ちゃらちゃらしてるから、真面目に付き合ってるともたないよ」
「ちょっとー。もっと俺のいいところを宣伝してよー」
「例えば? 何かある?」
「エッチがめちゃくちゃ上手いです、とかさー」
はあ、と汐は疑問混じりの溜め息を溢した。そんなことを言って、自分と島長の関係を誤解されても困る。汐は「お幸せにー」と片言な台詞で済ませた。
そのままの足で病院へ行き、鎮痛剤と湿布をもらい帰宅した。両親にこのことが知られたら、サロン通いを止められるかもしれない。会員の月会費を払っているのも創一だ。
──誠吾さんにこんな身体、見せられない。
かと言って事情も話せない。傷の回復を待っている間に、深見は他のパートナーを見つけるかもしれない。送ったメッセージに返信が届いていたが、既読もつけなかったし返さなかった。「明日サロンで会えたら嬉しい」なんて最初から送らなければよかった。
──従いたくない。そのCommandには。
心の声と、Glareを与えられて喜ぶSubの本能で、頭の中はぐちゃぐちゃになる。不快さがこみ上げてきて、汐は床の上へ嘔吐してしまった。身体は拒否反応を示しているのに、その男の元へ跪き、言うとおりにしようとしている自分がいる。
「パパの……っ」
汐は唇を噛み締めて、腹の底から沸き起こる衝動を堪える。いくらGlareを放っても怯まないと分かると、本庄は舌打ちをする。
「くっそつかえねーSub。Come. 四つん這いでな」
屈辱的な命令にいっそのこと意識を放り出してしまいたかった。応えようとする本能には抗えず、嬉々としてCommandを受け入れてしまう。
犬のように汐は四足歩行で、主人の後ろをついていく。汐は本庄とともにプレイルームへ入った。
のろのろとした動きに苛立った本庄は、汐の鳩尾を蹴り上げる。ベッドの足に背中を打ちつけた痛みで、呼吸が止まる。
助けを求めるため、汐は通話メッセージのアプリを立ち上げる。配置はある程度覚えている。画面を見ずに、ポケットに入ったままで操作をした。
履歴の一番上は深見のはずだ。
──来てくれるかも分からない。それに、こんなところを見られたら……。
プレイルームに入るには必ずDomとSubの合意が必要だ。明らかなルール違反での事態だが、深見は訝しむしれない。汐が他のDomとプレイをしようとしていたと。
「あ……っ」
躊躇している間に、本庄に見つかってしまう。
スマートフォンの電源を切られ、汐の手の届かないところへ取り上げられてしまった。
──やばいな。
以前までの汐だったら、このくらいのGlareでは脅かされなかった。しかし、深見とのプレイを通じて、少しずつGlareを受け入れるように体質が変化している。Domに応える心地よさを知ってしまったからだ。
「ハイランクって言われてるわりには、ご主人様の言うこと聞けねぇんだな」
「……あんたが雑魚なだけなんじゃないの?」
乾いた笑いの後に、強烈な蹴りが飛んでくる。目的が汐とプレイをすることではなく、ただ痛めつけたいだけだと分かり、汐は内心ほっとしていた。
「その冷めた目が昔から気に食わなかった。なあ、引退したのはSubだって分かったからだろ?」
「……さあ」
その気に食わない目で、さっきから本能を満たせていないDomを睨みつけた。内蔵を圧迫される苦しさと、骨が軋むことで生まれる熱。全て汐には初めての感覚だった。
「はは……マゾには全部ご褒美になっちまうか」
「……そーだよ。ごちそーさま」
ごつ、と鈍い音が脳内で弾けた。ちかちかとした白い火花が目の奥で散る。汐の意識も手足の感覚も、同じ光の中に消えた。
……────。
腹の痛みがずっと消えない。本庄はいなくなっているし、奇跡的にSubdropにもなっていない。しかし、体調は最悪だ。顔や手足には被害はないが、服の下は徹底的にやられている。
──こんな汚い身体じゃ、誠吾さんとプレイ出来ないな……。
シャツの下は酷い有様になっていた。インクが跳ねたみたいにくっきりとした赤黒い痣が、皮膚の上に乗っかっている。汐に対する長年の恨みもあっただろうが、動機はそれだけではないだろう。自分の中のDom性を明らかに制御出来ていなかった。
なるべく痛みを表情に出さないようにして、汐はプレイルームを出る。時刻はとっくに十二時を過ぎていた。昼間はバーのフロアは開いていないので、汐はエレベーターで一階へと降りる。
「あっ、汐。あらあら、お寝坊したのー?」
「まあ……そんな感じ」
島長は今から出勤なのだろう。やたらとにやにやしているのは、汐と会えたからだけではないらしい。
「だれ……彼氏?」
「そっ。かわいーでしょ! 新人の子! こういう仕事は初めてだって言うから、俺が手取り足取り教えてあげてねぇ……俺、ピュアな子好きなんだよねー」
「えっ、本当に付き合ってんの?」
汐は目をぱちくりとさせた。親友の歴代の恋人は、もっと年上で見目にお金をかけている男だったからだ。一歩後ろに隠れているのは、いかにも気弱で控えめそうな子だ。騙されているようで何だか気の毒になる。
「……そいつ、ちゃらちゃらしてるから、真面目に付き合ってるともたないよ」
「ちょっとー。もっと俺のいいところを宣伝してよー」
「例えば? 何かある?」
「エッチがめちゃくちゃ上手いです、とかさー」
はあ、と汐は疑問混じりの溜め息を溢した。そんなことを言って、自分と島長の関係を誤解されても困る。汐は「お幸せにー」と片言な台詞で済ませた。
そのままの足で病院へ行き、鎮痛剤と湿布をもらい帰宅した。両親にこのことが知られたら、サロン通いを止められるかもしれない。会員の月会費を払っているのも創一だ。
──誠吾さんにこんな身体、見せられない。
かと言って事情も話せない。傷の回復を待っている間に、深見は他のパートナーを見つけるかもしれない。送ったメッセージに返信が届いていたが、既読もつけなかったし返さなかった。「明日サロンで会えたら嬉しい」なんて最初から送らなければよかった。
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