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第11話 エリーゼ、覚醒して真実を知る
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エリーゼの覚醒と真実
右腕と左足に、焼けつくような痛みが走った。
意識を刈り取るような苦痛の中で、エリーゼは、確かに"声"を聞いた。
『そなたの右腕と左足は、もはや使い物にならぬ。
代わりに我らを、そなたと融合させ、復活させよう――』
声とともに、エリーゼの傷口から、何かが侵食するような感覚が生まれた。
右腕に、左足に、異質なものが溶け込んでいく。
鋭い痛みに必死で堪え、エリーゼは地面に倒れながら歯を食いしばった。
どれほどの時間が過ぎたのか。
やがて、痛みはふっと引き、代わりに不思議な熱が全身を巡り始めた。
ふらりと身を起こし、自らの体を見る。
白かった右腕は、今やまばゆい金色に輝いていた。
左足は、銀の光をまとい、まるで異世界の神器のような美しさを放っていた。
「……これは……?」
戸惑うエリーゼの前に、二つの光が現れた。
ひとつは金色の鱗に覆われた小型な竜、エンシェントドラゴンの形をした精霊。
もうひとつは銀色の毛並みを持つ子狼、フェンリルの形をした精霊。
二体は厳かに頭を垂れ、エリーゼを見下ろす。
『我らは、そなたの亡き母より託された者なり』
重々しい声が、エリーゼの頭に直接響く。
「母……? でも、私の母――アルセリア侯爵夫人は……生きています。
あなたたちが言うこと、意味が分かりません……!」
エリーゼの声は震えていた。
痛みと疲労と、そして何よりも、"母"という存在への疑念に。
しかし、二体の精霊は静かに告げる。
『違う。侯爵夫人は、そなたの"育ての母"だ』
「――え……?
エリーゼは目を見開いた。
頭が真っ白になる。
そんなこと、ありえない。侯爵家の令嬢として育てられてきた自分が……
『真実を知る覚悟があるか?』
問う声に、エリーゼはぎゅっと唇を噛み締めた。
全身が震えていた。
それでも、逃げたくなかった。
自分が誰なのか、知りたかった。
「……教えて、ください」
ゆらり、と金色と銀色の光をまとった二体の精霊が舞い降りる。 厳かに、穏やかに、それでいて揺るぎない真実を語るように――。
『聞け、エリーゼ。そなたの母は、アルセリア侯爵夫人ではない。 真の母は、フリューゲン王国の第一王女、マリーネット殿下だ』
「……そんな……」
エリーゼは頭を抱えた。 自分がフリューゲン王国の王女の血を引くなど、信じられなかった。
『そなたが生まれる少し前―― マリーネット殿下は、外交の名目でレインハルト王国を訪れていた。 そのとき、アルセリア侯爵と出会ったのだ』
精霊たちの声は、かすかに憐れみを帯びていた。
『マリーネット殿下は、侯爵の持つその美しいピンク色の髪と、優雅な立ち振る舞いに心奪われた。 侯爵も、殿下に甘い言葉をささやき、誘った。 殿下は信じたのだ――愛されているのだと。 そして、そなたを宿した』
金色の竜――エンシェントドラゴンが、静かに空を仰ぐ。
『だが、それはすべて――策謀だった』
「……策謀……?」
エリーゼの口から、震える声が漏れる。
『この大陸の三大強国であるフリューゲン王国。 特に、マリーネット殿下の父君――王配である剣聖カール=キリトの存在は、レインハルト王国にとって脅威だった。 王は考えたのだ。 マリーネット殿下を籠絡し、その子を王妃にすることで、フリューゲン王家と強固な関係が築けないかと』
銀色の狼――フェンリルが、静かに言葉を紡いだ。
『アルセリア侯爵もまた、その計画に加担していた。そなたの母を愛していたかどうかはわからない。ただ、そなたの母を、利用しようとしたのは確かだ』
エリーゼの胸が痛んだ。 身体ではない、心が――裂けるように。
『マリーネット殿下は、エリーゼ、そなたを産んだ後、真実を知った。 侯爵には既に妻――アントワーヌという女がいた。 今の侯爵夫人だ。婚姻届は偽物、届け出もされていなかった』
「そんな……そんなの、あんまりです……!」
エリーゼは震えながら叫んだ。 これまで侯爵令嬢として厳しかったが、愛されていると思っていた。 だが、それは全部……偽りだった。だから、あんな理不尽なことを。
『マリーネット殿下は絶望した。 産後の弱った体で罵倒され、捨てられたのだ。 心身ともに追い詰められ、命さえ危うくなった』
精霊たちは、静かに続けた。
『そのとき、我らが現れた。 もとは、我らはそなたの祖父――カール=キリトに恩義があり、頼まれていたのだ。 万が一、マリーネット殿下に何かあったとき、助けるようにと』
エリーゼは言葉を失った。 自分がこんなにも大きな――深い悲しみと運命の上に存在していたことを、初めて知った。
『我らは申し出た。 力を貸そう、逃げよう、と。 だが、殿下は拒んだ』
「……なぜ……?」
『――「父上に、顔向けできない」と、仰ったのだ』
フェンリルの目が、わずかに悲しみに曇る。
『「私は騙されました……恥ずべき娘です。 このまま消えていくのが、せめてもの償いです。 ただ一つ――娘だけは、どうか……」』
声は、まるでマリーネット自身が語ったかのようだった。
『「娘だけは……幸せに生きてほしい。 どうか、あの子を……」』
契約は、マリーネットの命をかけたものだった。 母が最後に残したのは、自らの命ではなく、娘の未来だった。
エリーゼは、涙をこぼしていた。
「……お母様……」
生まれて初めて、真の母の存在を、その愛を、肌で感じた気がした。
『だから、我らはそなたを見守ってきた。 そして今、傷ついたそなたに、我らの力を与えた』
金と銀に輝く右腕と左足。 それは、母が遺した最後の守護だった。
エリーゼは立ち上がった。 まだ痛みは体の奥に残っている。 だが、それ以上に心は熱く燃えていた。
「……わたし、わたし……!」
涙をぬぐい、エリーゼは空を見上げた。
「わたし、おじいさまに会いたい!」
胸の内から、抑えきれない想いが湧き上がった。 母を愛してくれていた、剣聖カール=キリト。自分を見捨てなかった唯一の家族。
エリーゼは誓った。
「必ず……会いに行きます!」
金色の竜も、銀色の狼も、静かにその決意を見つめ、そして一歩、エリーゼの隣に寄り添った。
『ゆけ、エリーゼ。 そなたは、マリーネット殿下の娘。 カール=キリトの孫娘。 世界に誇る、誇り高き血を引く者』
エリーゼは深く頷いた。 痛みも、悲しみも、今はもう恐れない。
たとえどれだけ苦しい道であろうと。 母が遺した希望を胸に、エリーゼは歩き出した。
――真実を背負い、未来へと。
【エリーゼ=アルセリア】
レベル:12
HP:120
MP:82
攻撃:87
防御:82
早さ:152
幸運:100
スキル:──剣聖──フェンリルの加護 金龍の加護
右腕と左足に、焼けつくような痛みが走った。
意識を刈り取るような苦痛の中で、エリーゼは、確かに"声"を聞いた。
『そなたの右腕と左足は、もはや使い物にならぬ。
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声とともに、エリーゼの傷口から、何かが侵食するような感覚が生まれた。
右腕に、左足に、異質なものが溶け込んでいく。
鋭い痛みに必死で堪え、エリーゼは地面に倒れながら歯を食いしばった。
どれほどの時間が過ぎたのか。
やがて、痛みはふっと引き、代わりに不思議な熱が全身を巡り始めた。
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左足は、銀の光をまとい、まるで異世界の神器のような美しさを放っていた。
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ひとつは金色の鱗に覆われた小型な竜、エンシェントドラゴンの形をした精霊。
もうひとつは銀色の毛並みを持つ子狼、フェンリルの形をした精霊。
二体は厳かに頭を垂れ、エリーゼを見下ろす。
『我らは、そなたの亡き母より託された者なり』
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「母……? でも、私の母――アルセリア侯爵夫人は……生きています。
あなたたちが言うこと、意味が分かりません……!」
エリーゼの声は震えていた。
痛みと疲労と、そして何よりも、"母"という存在への疑念に。
しかし、二体の精霊は静かに告げる。
『違う。侯爵夫人は、そなたの"育ての母"だ』
「――え……?
エリーゼは目を見開いた。
頭が真っ白になる。
そんなこと、ありえない。侯爵家の令嬢として育てられてきた自分が……
『真実を知る覚悟があるか?』
問う声に、エリーゼはぎゅっと唇を噛み締めた。
全身が震えていた。
それでも、逃げたくなかった。
自分が誰なのか、知りたかった。
「……教えて、ください」
ゆらり、と金色と銀色の光をまとった二体の精霊が舞い降りる。 厳かに、穏やかに、それでいて揺るぎない真実を語るように――。
『聞け、エリーゼ。そなたの母は、アルセリア侯爵夫人ではない。 真の母は、フリューゲン王国の第一王女、マリーネット殿下だ』
「……そんな……」
エリーゼは頭を抱えた。 自分がフリューゲン王国の王女の血を引くなど、信じられなかった。
『そなたが生まれる少し前―― マリーネット殿下は、外交の名目でレインハルト王国を訪れていた。 そのとき、アルセリア侯爵と出会ったのだ』
精霊たちの声は、かすかに憐れみを帯びていた。
『マリーネット殿下は、侯爵の持つその美しいピンク色の髪と、優雅な立ち振る舞いに心奪われた。 侯爵も、殿下に甘い言葉をささやき、誘った。 殿下は信じたのだ――愛されているのだと。 そして、そなたを宿した』
金色の竜――エンシェントドラゴンが、静かに空を仰ぐ。
『だが、それはすべて――策謀だった』
「……策謀……?」
エリーゼの口から、震える声が漏れる。
『この大陸の三大強国であるフリューゲン王国。 特に、マリーネット殿下の父君――王配である剣聖カール=キリトの存在は、レインハルト王国にとって脅威だった。 王は考えたのだ。 マリーネット殿下を籠絡し、その子を王妃にすることで、フリューゲン王家と強固な関係が築けないかと』
銀色の狼――フェンリルが、静かに言葉を紡いだ。
『アルセリア侯爵もまた、その計画に加担していた。そなたの母を愛していたかどうかはわからない。ただ、そなたの母を、利用しようとしたのは確かだ』
エリーゼの胸が痛んだ。 身体ではない、心が――裂けるように。
『マリーネット殿下は、エリーゼ、そなたを産んだ後、真実を知った。 侯爵には既に妻――アントワーヌという女がいた。 今の侯爵夫人だ。婚姻届は偽物、届け出もされていなかった』
「そんな……そんなの、あんまりです……!」
エリーゼは震えながら叫んだ。 これまで侯爵令嬢として厳しかったが、愛されていると思っていた。 だが、それは全部……偽りだった。だから、あんな理不尽なことを。
『マリーネット殿下は絶望した。 産後の弱った体で罵倒され、捨てられたのだ。 心身ともに追い詰められ、命さえ危うくなった』
精霊たちは、静かに続けた。
『そのとき、我らが現れた。 もとは、我らはそなたの祖父――カール=キリトに恩義があり、頼まれていたのだ。 万が一、マリーネット殿下に何かあったとき、助けるようにと』
エリーゼは言葉を失った。 自分がこんなにも大きな――深い悲しみと運命の上に存在していたことを、初めて知った。
『我らは申し出た。 力を貸そう、逃げよう、と。 だが、殿下は拒んだ』
「……なぜ……?」
『――「父上に、顔向けできない」と、仰ったのだ』
フェンリルの目が、わずかに悲しみに曇る。
『「私は騙されました……恥ずべき娘です。 このまま消えていくのが、せめてもの償いです。 ただ一つ――娘だけは、どうか……」』
声は、まるでマリーネット自身が語ったかのようだった。
『「娘だけは……幸せに生きてほしい。 どうか、あの子を……」』
契約は、マリーネットの命をかけたものだった。 母が最後に残したのは、自らの命ではなく、娘の未来だった。
エリーゼは、涙をこぼしていた。
「……お母様……」
生まれて初めて、真の母の存在を、その愛を、肌で感じた気がした。
『だから、我らはそなたを見守ってきた。 そして今、傷ついたそなたに、我らの力を与えた』
金と銀に輝く右腕と左足。 それは、母が遺した最後の守護だった。
エリーゼは立ち上がった。 まだ痛みは体の奥に残っている。 だが、それ以上に心は熱く燃えていた。
「……わたし、わたし……!」
涙をぬぐい、エリーゼは空を見上げた。
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胸の内から、抑えきれない想いが湧き上がった。 母を愛してくれていた、剣聖カール=キリト。自分を見捨てなかった唯一の家族。
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「必ず……会いに行きます!」
金色の竜も、銀色の狼も、静かにその決意を見つめ、そして一歩、エリーゼの隣に寄り添った。
『ゆけ、エリーゼ。 そなたは、マリーネット殿下の娘。 カール=キリトの孫娘。 世界に誇る、誇り高き血を引く者』
エリーゼは深く頷いた。 痛みも、悲しみも、今はもう恐れない。
たとえどれだけ苦しい道であろうと。 母が遺した希望を胸に、エリーゼは歩き出した。
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