婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第10話 魔獣の牙、エリーゼを襲う!

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 覚醒──黒魔の森の奇跡

 逃げなきゃ。
 逃げなきゃ、死ぬ──!

 必死に身体を引きずった。けれど、次の瞬間。

「きゃああああっ!」

 激しい痛みが右手に走った。
 鋭い牙が、エリーゼの白い手首を深々と噛み砕いたのだ。

 痛い、痛い、痛い──!
 頭の中が真っ白になる。

 それでも、エリーゼは諦めなかった。震える足で立ち上がり、ふらふらと後退る。
 ──だが、ウルフは逃がさない。

 今度は、じゃれるように左足に跳びかかった。
 がぶり。肉が裂ける鈍い音。
 重さと激痛に、エリーゼは地面に崩れ落ちた。

「っ、ぁ、あああっ……!」

 泥にまみれ、泣き叫びながらもがく。

 死ぬ──。
 もう、ダメだ。
 こんな痛み、耐えられるはずがない。

 ──まるで、あの時みたいだ。

 脳裏をよぎる、別の痛み。
 鈍い衝撃。砕ける骨。流れる血。

(あれ……車……?)

 混濁する意識の中、エリーゼは思い出した。
 ──自分が、「日本」という国にいた女子高生だったことを。

(そうだ……剣道部で……)

 全国大会へ向かう朝。
 浮かれていた自分。
 横断歩道で、赤信号を無視してきた車に跳ねられ──。

(私は、死んだんだ……)

 涙が、こぼれた。

 ここは生まれ変わった世界。
 なのに、また──私は、無力なまま、死ぬのか。

 絶望に沈みかけた、その時だった。

『剣聖スキルを獲得しました──ステータスオープンで確認できます』

 ふいに、頭の中に無機質な機械音のような声が響いた。

「え……?」

 条件反射のように、エリーゼは心の中で唱えた。

『ステータスオープン』

 次の瞬間、目の前に透明な板のようなものが現れた。
 そこには、淡い文字が浮かんでいた。

【エリーゼ=アルセリア】
レベル:1
HP:15
MP:5
攻撃:8
防御:7
早さ:7
幸運:6
スキル:──剣聖──

「剣聖……?」

 読み取った瞬間、エリーゼの身体の奥から、熱が湧き上がった。
 燃えるような力が、折れかけた心を貫く。

 ──まだ、終わってない。

 ──まだ、死にたくない。

 視界の隅に、一本の木の枝が落ちているのが見えた。
 エリーゼは、震える手でそれを掴み取る。

 ウルフは、楽しそうにこちらを見ている。
 獲物が無様にもがく様を、じっくり味わっているのだ。

 だが、もう、弄ばれるもてあそだけの存在ではない。

 ──剣聖として、私は、戦う。

 エリーゼは木の枝を構えた。
 だが、自然と上段に構えかけた手が止まった。

(上段は……だめ……)

 本能が告げていた。
 剣聖としての直感が、勝つための型を選ばせる。

 腰を落とし、槍のように両手で枝を支える。
 突きの構え。

 ウルフが、低く唸り声を上げた。

 ──来る!

 次の瞬間、ウルフが大きく跳びかかった。

 口を開け、鋭い牙をむき出しにしながら──!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 エリーゼは、叫びながら突き出した。

 木の枝が、まっすぐに伸びる。
 獣の口の奥深く、喉を貫くように──。

 ズブリ、と重い感触。
 ウルフが、ぎょろりと目を見開いた。

 次の瞬間、崩れるように地面に倒れた。

 ──戦いは、終わった。

 息を詰めるような静寂が、森を包む。

『レベルが上がりました』

 アナログ音のような通知が、エリーゼの頭に響く。

 だが、それを確認する余裕もなかった。

 右手も、左足も、血にまみれ、感覚がない。
 疲労と痛みが、身体を容赦なく蝕むむしば

 力尽きたエリーゼは、その場に崩れ落ちた。

「……っ……ぁ、あ……」

 呼吸もままならない。
 このまま、死ぬのか──?

 意識が闇に沈みかけた、その時。

『選ぶがよい』

 声が、聞こえた。

 優しく、それでいて威厳を持つ声。
 どこからともなく、エリーゼの心に直接響く。

『汝に二つの道を授けよう』

『ひとつは、このまま命を終えること』

『もうひとつは──我らを受け入れること』

 選べ、と、声は言った。

(……まだ、死にたくない)

(……もっと、生きたい)

(……見返したい。あの人たちを)

 燃えるような想いが、エリーゼの胸を突き上げた。

 朦朧もうろうとする意識の中、彼女は最後の力を振り絞って答えた。

「……生きたい……あなたたち、を……受けます……!」

 その瞬間、世界が、白く染まった──。

【エリーゼ=アルセリア】
レベル:5
HP:60
MP:15
攻撃:42
防御:34
早さ:35
幸運:42
スキル:──剣聖──
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