婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第38話 ギルドマスターエルシア・グランベルク

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【ギルドマスター室】

 リグレットにあるギルドの最奥、重厚な扉が静かに閉まると、空気が一変した。
 濃密な緊張が場を支配し、冒険者パーティー《スプレーマム》の四人は思わず姿勢を正した。

 中央の席に腰かけるのは、黒革の装束に身を包んだギルドマスター、エルシア・グランベルク。帝国式の冷厳な顔立ちと漆黒の瞳が、無言で彼らを射抜いていた。

 「うう……拙者、これはたぶん……尋問室の空気でござる……間違いない……」

 神官ダリル=ベルトレインが、青い髪をしゅんと垂らして呟いた。細身で眼鏡をかけた彼は、見た目からしていかにも気弱な印象を与える。

「おいおい、ダリル。緊張しすぎると老けるぜ?」

 マスキュラ―が、がっしりとした体躯を椅子に沈めながら、ニッと笑って励ました。
 漆黒の髪を後ろで束ねた彼は、筋肉もりもりの豪快な剣士である。
 元C級冒険者パーティーを追放された過去を持つが、そのことを今は吹っ切れているようだった。

「ま、落ち着きたまえよ。こんなところで取り乱しては、ボクたちの輝かしい将来に泥がつくというものさ」

 優雅に髪をかきあげたのは、金色の髪を持つ美丈夫、アリスター。
 ナルシスト気質を隠す気もなく、椅子に座る姿すら絵になる。
 元テオドリック王国の王子であり、冤罪により婚約破棄、国外追放という屈辱を味わった過去を持つ。今は魔法使いとしてスプレーマムに身を置いている。

「……あのね、今は落ち着くより“集中”するときだよ」

 最後に口を開いたのは、桃色の髪を揺らす少女、エリーゼ=アルセリア。
 どこかあっけらかんとした明るさと、芯の強さを同時に感じさせる剣士だった。
 前世の記憶を持つ転生者で、剣道三段の女子高生として生きた記憶と技を活かし、この異世界で“剣聖”と呼ばれる存在にまで登りつめた。
 右腕は金龍の精霊に、左足はフェンリルの精霊に宿され、金と銀の輝きを持つ異形の肢体は、剣士としての証でもある。
 彼女もまた、冤罪によりレインハルト王国から婚約破棄と国外追放を受けていた。

 「……騒がしいわね」

 ようやく、ギルドマスター・エルシアが口を開いた。
 声は低く、鋭く、しかしどこか信頼をにじませていた。

「挨拶もそこそこに、本題に入るわよ。時間がない」

 彼女が水晶球を指先で弾くと、淡い光が室内を照らし、男の荒い呼吸と、断続的な声が響いた。

『こちら“銀の牙”……ダンジョン内、罠に……動け……魔物が、奴らが……! 助け……!』

 音が途切れた。水晶球は静寂を取り戻し、緊迫した沈黙が落ちる。

「今朝、“銀の牙”というC級パーティーから緊急魔導通信があった。場所は《岩宿ダンジョン》。街の北東、馬で半日。連絡が途絶えて以降、偵察を送ったが……戻ってこない」

「つまり、救出作戦ってわけか」

 マスキュラ―の声が低く唸る。エルシアはうなずいた。

「救出、および状況調査任務。彼らは貴族令嬢のラフィーナ=メルテンスの護衛任務をしていた。斥候の消失もあって、危険度は高いと見ていい。だが……他に動けるパーティーがいない。お前たちに頼むしかない」

 その言葉に、誰も異論を唱えなかった。

「貴族令嬢の救出ね。わたし、行くよ。誰かが助けを待ってるなら、それだけで十分」

 エリーゼがすっと立ち上がり、背負った剣の柄に手を添える。その姿はまるで、光の下に立つ騎士のようだった。

「拙者も、困っている人を見捨てるほど腐ってはおらぬ……はずでござる」

 ダリルが震えながらも決意を示し、アリスターがその横で軽く笑った。

「ボクも断る理由がない。善意と美学は両立するのだから」

「よし、決まりだな。エルシア、馬は?」

 マスキュラ―が身を乗り出して問うと、エルシアは机の引き出しから一通の封書を取り出し、アリスターに投げ渡した。

「馬はすでにギルド前に用意済み。これは検問用の許可証。ダンジョン付近の立入権限と緊急指揮権を与える」

 アリスターがそれを受け取り、上品な仕草で懐にしまう。

「加えて、情報屋“ヴェルト”が現地で合流する手筈になっている。道案内と支援のために配置した」

「“仮面の案内人”……なかなか渋い選択ね」

 エリーゼが小さく微笑む。エルシアは一瞬だけ目を細めた。

「気をつけなさい。彼は便利だが、信用しすぎると足をすくわれる」

「大丈夫。あの人の嘘と本音くらい、見抜ける自信あるから」

 まっすぐな視線でそう言うエリーゼに、エルシアは小さく頷いた。

「では正式に任務を下す。スプレーマム。“銀の牙”の救出およびダンジョン状況の調査。可能なら生還させ、不可能なら……遺体を回収してやって」

「了解。オレたちに任せろ」

 マスキュラ―が力強く答え、仲間たちがその言葉に続いた。

「……行ってらっしゃい。必ず、生きて帰ってきなさい」

 その一言だけを残して、ギルドマスターは再び沈黙した。

 扉が開かれ、光が差し込む。

 その中を、スプレーマムの四人は並んで歩き出す。

 金の髪が揺れ、銀と金に輝く右腕と左足が煌き、漆黒の剣士の背に太陽が重なる。

 ――新たな戦いが、彼らを待っていた。
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