42 / 179
第42話 岩宿ダンジョン、情報屋ヴェルトからの忠告
しおりを挟む
岩宿ダンジョン。
その入り口は、古びた石材で組まれたアーチの向こうに、ぽっかりと口を開けていた。
まるで獲物を待ち受ける怪物の喉のように、冷たい空気を吐き出している。
かすかに漂う土と血の匂いが、ただの遺跡ではないことを告げていた。
「ここが……岩宿か」
マスキュラ―が唸るように言い、手にした剣の柄を強く握った。
その瞳には戦士としての緊張と、どこか懐かしさにも似た感情が浮かんでいた。
「なるほど、陰気な歓迎ね」
エリーゼは風に揺れる桃色の髪を指で抑えながら、前方に立つ仮面の男を見据えた。
情報屋ヴェルトが、入口の傍らに佇んでいた。
全身黒衣に身を包み、無機質な仮面越しの視線が、じっとこちらを射抜いてくる。
「お前たちか。遅かったな。……だが、ちょうどいい」
低く、乾いた声が岩壁に響いた。
彼はゆっくりと一歩前に出ると、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
それには、手書きで描かれたダンジョンの簡略な地図が記されていた。
「入ってすぐの分岐と、罠の一部、それと魔物の出没区域……だいたいは書いてある」
「『だいたい』? 自信なさげね」
アリスターが細い眉をひそめ、鼻を鳴らした。
「そもそも誰も奥まで戻って来ていない。これが手に入っただけでも奇跡だ」
そう言って、今度は黒革のカバンを差し出す。重たげな音とともに、中身の一部がわずかに揺れた。
「転移石が二つ、応急用の聖水、松明三本、封印札が五枚。必要なものは入れておいた。足りないものがあったら……諦めろ」
彼の声音には、どこか他人事のような軽さがあったが、その目だけは深い闇を映していた。まるで、すべての結末を既に知っているかのように。
「一緒に来るんじゃないの?」
エリーゼが問いかけた。
ヴェルトは短く笑ったように肩をすくめ、仮面の奥で目を細めた。
「行く気があるなら止めないが、オレ程度じゃ三層目まで生きて戻れるかどうか……保証はないな」
その言葉の裏にあるものを、誰もが感じ取った。静かな沈黙が、その場に広がる。
やがて彼は踵を返し、ゆっくりと歩き出す。
去り際に、ぽつりと呟いた。
「気をつけろ。そこは、ただのダンジョンじゃない」
背を向けたまま、その姿はまるで影のように溶けていった。
残されたスプレーマムの4人は、互いに目を合わせる。
「さ、行きましょ。ここまで来て帰るなんて選択肢、ないんでしょ?」
エリーゼが軽く笑いながら、腰の剣に手を添える。
その表情には、恐れよりも強い意志が宿っていた。
「当然だ。ボクの魔法で華麗に切り開いてあげようじゃないか」
アリスターが杖を掲げ、金髪を翻して得意げに笑った。
「……拙者、命を大切にしたいでござる……が、仲間を見捨てるわけにも……」
ダリルが震える手で聖印を握りしめ、目を閉じて小さく祈る。
「行くぞ。しっかりついて来い」
マスキュラ―が一歩、ダンジョンの闇の中へと踏み出した。
その背は、大地のように頼もしく、仲間を導く者の覚悟に満ちていた。
岩宿ダンジョン。そこは、冒険者たちの噂にすら滅多に上らぬ、忌避された迷宮。いま、その闇が、新たな犠牲を求めて口を開ける。
4人の冒険者たちは、それでも歩みを止めなかった。
背負うものの重さは違えど、進むべき道はひとつだけだった。
その入り口は、古びた石材で組まれたアーチの向こうに、ぽっかりと口を開けていた。
まるで獲物を待ち受ける怪物の喉のように、冷たい空気を吐き出している。
かすかに漂う土と血の匂いが、ただの遺跡ではないことを告げていた。
「ここが……岩宿か」
マスキュラ―が唸るように言い、手にした剣の柄を強く握った。
その瞳には戦士としての緊張と、どこか懐かしさにも似た感情が浮かんでいた。
「なるほど、陰気な歓迎ね」
エリーゼは風に揺れる桃色の髪を指で抑えながら、前方に立つ仮面の男を見据えた。
情報屋ヴェルトが、入口の傍らに佇んでいた。
全身黒衣に身を包み、無機質な仮面越しの視線が、じっとこちらを射抜いてくる。
「お前たちか。遅かったな。……だが、ちょうどいい」
低く、乾いた声が岩壁に響いた。
彼はゆっくりと一歩前に出ると、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
それには、手書きで描かれたダンジョンの簡略な地図が記されていた。
「入ってすぐの分岐と、罠の一部、それと魔物の出没区域……だいたいは書いてある」
「『だいたい』? 自信なさげね」
アリスターが細い眉をひそめ、鼻を鳴らした。
「そもそも誰も奥まで戻って来ていない。これが手に入っただけでも奇跡だ」
そう言って、今度は黒革のカバンを差し出す。重たげな音とともに、中身の一部がわずかに揺れた。
「転移石が二つ、応急用の聖水、松明三本、封印札が五枚。必要なものは入れておいた。足りないものがあったら……諦めろ」
彼の声音には、どこか他人事のような軽さがあったが、その目だけは深い闇を映していた。まるで、すべての結末を既に知っているかのように。
「一緒に来るんじゃないの?」
エリーゼが問いかけた。
ヴェルトは短く笑ったように肩をすくめ、仮面の奥で目を細めた。
「行く気があるなら止めないが、オレ程度じゃ三層目まで生きて戻れるかどうか……保証はないな」
その言葉の裏にあるものを、誰もが感じ取った。静かな沈黙が、その場に広がる。
やがて彼は踵を返し、ゆっくりと歩き出す。
去り際に、ぽつりと呟いた。
「気をつけろ。そこは、ただのダンジョンじゃない」
背を向けたまま、その姿はまるで影のように溶けていった。
残されたスプレーマムの4人は、互いに目を合わせる。
「さ、行きましょ。ここまで来て帰るなんて選択肢、ないんでしょ?」
エリーゼが軽く笑いながら、腰の剣に手を添える。
その表情には、恐れよりも強い意志が宿っていた。
「当然だ。ボクの魔法で華麗に切り開いてあげようじゃないか」
アリスターが杖を掲げ、金髪を翻して得意げに笑った。
「……拙者、命を大切にしたいでござる……が、仲間を見捨てるわけにも……」
ダリルが震える手で聖印を握りしめ、目を閉じて小さく祈る。
「行くぞ。しっかりついて来い」
マスキュラ―が一歩、ダンジョンの闇の中へと踏み出した。
その背は、大地のように頼もしく、仲間を導く者の覚悟に満ちていた。
岩宿ダンジョン。そこは、冒険者たちの噂にすら滅多に上らぬ、忌避された迷宮。いま、その闇が、新たな犠牲を求めて口を開ける。
4人の冒険者たちは、それでも歩みを止めなかった。
背負うものの重さは違えど、進むべき道はひとつだけだった。
36
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる