婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第98話 アリスター結婚式をすることを伝える

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午後の陽射しが、宿屋の中庭に差し込んでいる。石造りの噴水の縁に腰かけるエリーゼは、剣の手入れを終えたばかりのようで、柔らかな表情で水面を眺めていた。桃色の髪が光を受けてきらめく。そこへ、少し戸惑ったような足音が近づいた。

 「やあ、エリーゼ。こんなところにいたんだね」

 声の主はアリスター。金の髪を陽光に揺らしながら、彼はいつものように自信ありげな笑みを浮かべていたが、どこか様子が違っていた。笑顔の奥に、言い淀むような気配があった。

 「うん。お散歩がてら、気分転換。ちょっとね。アリスターは……?」

 「ボク? ちょっと、大事な相談があってね」

 エリーゼが首を傾げる。アリスターは彼女の隣に腰を下ろし、しばし何かを探すように空を仰いだ。

 「昨日の夜、あの発表をしたばかりだけど……その、君は怒ってない?」

 「えっ? なんで?」

 「ほら、君の意志を確認する前に、婚約発表しちゃったからさ。驚かせたよね。もしかしたら、ボクの独りよがりだったんじゃないかって、不安で」

 エリーゼはぽかんとした顔で彼を見つめ、次いでふふっと笑った。

 「怒るわけないじゃない。わたし、嬉しかったよ? それに、アリスターが“守りたい”って思ってくれたこと、ちゃんと伝わってきた」

 「エリーゼ……」

 「でも――そうね。少しだけ寂しかったかな。なんだか、アリスターが一人で決めたような気がして」

 その言葉に、アリスターの表情が曇る。だがすぐに、心に決めたように頷いた。

 「じゃあ、今日こそはちゃんと伝えるよ。君と向き合って、ボクの言葉で」

 彼は一度深呼吸し、真っ直ぐにエリーゼを見つめる。金の瞳に宿るのは、決して揺らがない決意。

 「――ボクと、結婚してほしい」

 エリーゼの目が見開かれる。

 「え……?」

 「正式に、君と夫婦になりたい。式を挙げて、みんなの前で誓い合いたい。君がどこへ行っても、誰が何を言っても、“ボクの大切な人”だって、堂々と言えるように」

 その言葉には、演技も気取りもなかった。ナルシストな笑みも、茶化すような調子もなく、ただまっすぐに、彼は言った。

 「神官であるダリルが、式を執り行ってくれる。明日、あの教会で、内輪だけの結婚式を――」

 「……ほんとに?」

 エリーゼの声は、かすれていた。目元にはうっすらと涙が滲んでいる。

 「ほんとだよ。ボクは、君がどれほど強くても、優しくても、寂しさを隠してるって知ってる。だから、君の居場所になりたいって思った。どんな過去も、罪も、国も関係ない。君が“わたし”である限り、ボクは君と生きていきたい」

 エリーゼは、震える指で右手の金の腕を撫でた。金龍の加護――誰よりも強くあれと願われた証。そして左足には、フェンリルの銀の加護。人ならざる力を宿し、過去を背負ってなお、彼女は“剣聖”として前を向いてきた。

 けれど今、アリスターの言葉が、そんな強さの鎧を優しくほどいていく。

 「わたし……ずっと、ひとりだと思ってた。あの国で、あの家で、誰もわたしのこと、わかってくれなかった。でもアリスターは、最初から……」

 「わかってたよ。君がどれほど頑張ってるか。どれだけ傷ついて、それでも笑ってるか。だから、ボクは君を手放せない」

 エリーゼはそっと目を閉じ、そして微笑んだ。

 「……うん。いいよ、アリスター。わたしも、あなたと一緒にいたい。ずっと」

 その瞬間、アリスターの顔がぱあっと明るくなった。子供のように純粋な喜びが、その表情に満ちていた。

 「本当に? 本当にいいの?」

 「本当に。明日、わたし、花嫁になるね」

 彼は思わず彼女の手を取り、勢いあまって抱きしめかけて、直前で止まった。

 「……あ、ごめん、まだ心の準備とか――」

 「えいっ」

 エリーゼの方から、軽くアリスターに抱きついた。金の腕が、銀の足が、彼の胸元に触れる。強さと優しさが、確かに重なった。

 「照れてるの、アリスターの方じゃない?」

 「ボクが? まさか……いや、ちょっとは照れてるかも」

 二人はしばらくそのまま、静かに寄り添っていた。

 やがて、遠くの鐘楼から、午後の鐘が鳴り響く。

 それは、何かの終わりであり、始まりの合図のようだった。

 「……じゃあ、ドレスはどうしようか。明日までに間に合う?」

 「そこは任せて、アリスター。転生者の意地、見せてあげる」

 「さすがボクの花嫁だね」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。もう迷いはない。

 明日、教会の祭壇の前で。

 金と桃の誓いが交わされる。
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