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第106話 潜入テオドリック帝国 お尋ね者の一味”なんだから
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テオドリック王国の国境線は、かつてよりも厳重だった。
かの国は今、王族派と貴族派の対立に揺れ、各地で小競り合いが頻発しているという。だからこそ、国境沿いの監視所では、正規の旅人でさえ数時間待たされるのが常だった。
けれど《スプレーマム》に正面突破という選択肢はない。
アリスターが指名手配の身である以上、正面からの入国は、即座に王城へと連行されることを意味する。
「この谷を越えれば、国境警備の目は届かない」
そう告げたのは、仮面の案内人――ヴェルトだった。
「ただし、夜に限る。昼間は空の偵察部隊が巡回しているからな」
薄曇りの山岳地帯。鬱蒼とした木々に覆われた獣道を、五人の影が静かに進んでいた。
先頭はマスキュラー。大剣を背負いながらも足取りは軽く、ぬかるんだ土に足音ひとつ立てなかった。
その後ろに、ダリルとエリーゼ。アリスターは最後尾で、何度も後方を振り返って警戒を怠らない。
「しかし、まるで……密入国者そのものだな、我ら」
ダリルのつぶやきに、エリーゼがふっと笑った。
「実際そうよ。今の私たちは“正義の使者”じゃなくて、“お尋ね者の一味”なんだから」
「拙者、そういうの、嫌いではない……」
ダリルが珍しく頬を緩めた。エリーゼもどこか楽しげに口元を吊り上げたが、その目は真剣だった。
そして、数時間後。谷の入り口に辿り着いた彼らを、ヴェルトが手で制する。
「ここから先は、慎重に行け。王国側の森に入れば、罠と巡回兵が待っている」
彼は懐から小さな巻物を取り出した。そこには、森に張られた監視網の位置と、隠し通路が赤線で記されていた。
「この地図は信頼できる筋から手に入れた。安全とは言えないが、最も確率が高い道だ」
「……ヴェルト」
アリスターがその名を呼ぶ。
「君は、ここで別れるつもりか?」
仮面の奥から、短く吐息がもれた。
「“案内人”はあくまで、道を示す者だ。だが……今回ばかりは、私も共に行く」
「……え?」
「テオドリックの中には、“あの者たち”の気配がある。魔族ともつかぬ存在が、王国の内部に手を伸ばしている。ならば私の戦いでもある」
アリスターは迷いなく頷いた。
「頼りにしているよ、ヴェルト」
夜の帳が降り、霧が山を包む頃――五人は再び歩を進めた。
獣の咆哮すら遠く、ただ風の音だけが支配する闇。
その中、密林を抜け、川を越え、岩場を這うように進む。
ひときわ大きな岩陰で立ち止まったヴェルトが、手を上げて合図した。
「ここだ。この下に、古い隠し通路がある。使われていたのは百年以上前。今はほとんど忘れられている」
マスキュラーとダリルが協力して岩をずらすと、土に覆われた木の扉が現れた。
「……この先が、王国か」
アリスターが低くつぶやく。
誰よりも複雑な表情を浮かべていた。
それを察したエリーゼが、そっと彼の手を握る。
「大丈夫、アリスター。私たちはずっと一緒だよ」
彼は、ゆっくりと彼女の手を握り返す。
「ありがとう。……君がいるから、歩けるよ」
かすかな笑みとともに、地下通路の扉が開かれた。
ひんやりとした空気が一同の足元を撫でる。
密入国――それは罪であり、同時に希望の扉でもあった。
アリスターは先頭に立ち、暗闇の中へと足を踏み入れる。
「さあ、行こう。真実が眠る場所へ――」
こうして、《スプレーマム》の一行は、誰にも知られぬまま、テオドリック王国の地に足を踏み入れた。
かの国は今、王族派と貴族派の対立に揺れ、各地で小競り合いが頻発しているという。だからこそ、国境沿いの監視所では、正規の旅人でさえ数時間待たされるのが常だった。
けれど《スプレーマム》に正面突破という選択肢はない。
アリスターが指名手配の身である以上、正面からの入国は、即座に王城へと連行されることを意味する。
「この谷を越えれば、国境警備の目は届かない」
そう告げたのは、仮面の案内人――ヴェルトだった。
「ただし、夜に限る。昼間は空の偵察部隊が巡回しているからな」
薄曇りの山岳地帯。鬱蒼とした木々に覆われた獣道を、五人の影が静かに進んでいた。
先頭はマスキュラー。大剣を背負いながらも足取りは軽く、ぬかるんだ土に足音ひとつ立てなかった。
その後ろに、ダリルとエリーゼ。アリスターは最後尾で、何度も後方を振り返って警戒を怠らない。
「しかし、まるで……密入国者そのものだな、我ら」
ダリルのつぶやきに、エリーゼがふっと笑った。
「実際そうよ。今の私たちは“正義の使者”じゃなくて、“お尋ね者の一味”なんだから」
「拙者、そういうの、嫌いではない……」
ダリルが珍しく頬を緩めた。エリーゼもどこか楽しげに口元を吊り上げたが、その目は真剣だった。
そして、数時間後。谷の入り口に辿り着いた彼らを、ヴェルトが手で制する。
「ここから先は、慎重に行け。王国側の森に入れば、罠と巡回兵が待っている」
彼は懐から小さな巻物を取り出した。そこには、森に張られた監視網の位置と、隠し通路が赤線で記されていた。
「この地図は信頼できる筋から手に入れた。安全とは言えないが、最も確率が高い道だ」
「……ヴェルト」
アリスターがその名を呼ぶ。
「君は、ここで別れるつもりか?」
仮面の奥から、短く吐息がもれた。
「“案内人”はあくまで、道を示す者だ。だが……今回ばかりは、私も共に行く」
「……え?」
「テオドリックの中には、“あの者たち”の気配がある。魔族ともつかぬ存在が、王国の内部に手を伸ばしている。ならば私の戦いでもある」
アリスターは迷いなく頷いた。
「頼りにしているよ、ヴェルト」
夜の帳が降り、霧が山を包む頃――五人は再び歩を進めた。
獣の咆哮すら遠く、ただ風の音だけが支配する闇。
その中、密林を抜け、川を越え、岩場を這うように進む。
ひときわ大きな岩陰で立ち止まったヴェルトが、手を上げて合図した。
「ここだ。この下に、古い隠し通路がある。使われていたのは百年以上前。今はほとんど忘れられている」
マスキュラーとダリルが協力して岩をずらすと、土に覆われた木の扉が現れた。
「……この先が、王国か」
アリスターが低くつぶやく。
誰よりも複雑な表情を浮かべていた。
それを察したエリーゼが、そっと彼の手を握る。
「大丈夫、アリスター。私たちはずっと一緒だよ」
彼は、ゆっくりと彼女の手を握り返す。
「ありがとう。……君がいるから、歩けるよ」
かすかな笑みとともに、地下通路の扉が開かれた。
ひんやりとした空気が一同の足元を撫でる。
密入国――それは罪であり、同時に希望の扉でもあった。
アリスターは先頭に立ち、暗闇の中へと足を踏み入れる。
「さあ、行こう。真実が眠る場所へ――」
こうして、《スプレーマム》の一行は、誰にも知られぬまま、テオドリック王国の地に足を踏み入れた。
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