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第107話 冒険者スプレーマム ボクたちだけの秘密基地”
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テオドリック王国――その王都レグナスから北東に数キロ。苔むした古い水車小屋の中、陽も傾き始めた頃、冒険者パーティー《スプレーマム》の五人は、息を潜めて身を寄せ合っていた。
「……拙者、こういう隠れ住まいというのは、どうにも性に合わぬ……」
青い髪に銀縁眼鏡をかけた神官、ダリル=ベルトレインが、小屋の隅で力なく座り込んだ。彼の肩にかかる法衣は薄汚れ、聖印もかつての輝きを失っている。
「まあまあ、ダリル。追放者ってのは、みんなそういうもんよ。落ち込んでたら損しちゃうわ」
そう声をかけたのは、桃色の髪を二つ結びにした剣聖、エリーゼ=アルセリア。プラス思考の塊のようなその笑顔は、どこか太陽のように明るい。
彼女の右腕は金に輝き、左足は銀の光を宿していた。金龍とフェンリル――二柱の精霊が宿したその力は、ただ立っているだけで異質な気配を放つ。
「そうそう、どうせならさ、ここを“ボクたちだけの秘密基地”にしちゃおうよ」
金髪をかき上げながら口にしたのは、ナルシストの魔法使い、アリスター。元・王子という身分を思わせる気品と、どこか浮世離れした余裕を漂わせるが、その眼差しの奥には、隠しきれない緊張と警戒が光っていた。
「どう見ても、ただのボロ小屋だろ」
そうぼそりと呟いたのは、筋肉隆々の黒髪剣士、マスキュラー。壁に寄りかかり、太い腕を組みながら無言で窓の外を見張っている。
「だが、こうして身を潜められる場所は貴重だ。王都の目をかいくぐるには十分だろう」
仮面の男――情報屋ヴェルトが、乾いた声で言った。顔を覆う仮面からその表情は読み取れないが、その声はどこか焦りを含んでいた。
「最近、王都では“紅の仮面”と名乗る男が魔道士たちを集め始めている。裏で何か大きな動きがある。どうやら、王家の中枢にも関わっているようだ」
「紅の仮面……?」
アリスターが眉をひそめる。王家にいた彼が聞いたこともない名だ。
「聞いたこともない。少なくとも、ボクが王子だった頃にはそんな人物はいなかったはずだけど」
「十数年前、死んだとされていた男だ。だが、奴が生きていて裏で動いているとなれば――王家の腐敗も、ボクを追放した一件も……すべて繋がっているかもしれない」
「つまり、また危険な道を歩むことになるわけですな……」
ダリルが肩を落とす。彼の背負った過去――“聖女を魔族と断じた逆賊”という汚名は、いまだに彼の心を縛っていた。だが、その眼差しには逃げることのない静かな決意があった。
「まずは王都に潜入し、“紅の仮面”と繋がりのある魔道士たちの動きを探る。接触には細心の注意が必要だ」
「聞き込みならオレに任せとけ。オレ、街の裏路地には詳しいんだ。昔、C級の冒険者仲間と潜り込んでた頃を思い出すぜ」
マスキュラーが軽く拳を握りしめた。
「じゃあ、わたしは薬草店や鍛冶屋を回ってみるわ。情報って、意外とそういう所に転がってるものなの」
エリーゼが金の右腕を軽く振って笑う。
「ボクとダリルは、神殿方面の動向を探ろう。神官や教会関係者から、“紅の仮面”に関する情報が出てるかもしれない」
「うう……拙者、その方面では特に顔が知られておりますゆえ……」
「ボクも似たようなものだよ。王子時代の肖像画が出回ってるからね。だからこそ、変装が必要ってわけだ」
アリスターが指を鳴らすと、宙に魔法陣が浮かび上がる。
「髪色を変えよう。眼鏡も一時的に消して、肌の色も少し調整して――どう? まるで別人でしょ」
「うぐ、己が己でないようなこの違和感……拙者、心が迷子でござる……」
「大丈夫大丈夫、すぐ慣れるわよ」とエリーゼが励まし、ダリルはしぶしぶ頷いた。
「よし、それぞれ準備ができたら、明日から行動開始だ。潜入作戦第一段階、開始ってやつだね」
「ふっ……ボクたち、“スプレーマム”は……冤罪者たちの寄せ集めかもしれないけど……この国の腐った根を正すには、ちょうどいい毒になるんじゃない?」
アリスターの言葉に、皆がわずかに口元をほころばせた。
「オレたちが動けば、風向きは変わる。そう信じてるぜ」
マスキュラーが低く呟き、拳を強く握った。
小さな水車小屋に集った五人の“追放者”たちは、それぞれに傷を抱えながらも、同じ未来を見据えていた。
光の届かぬ王都の闇の中へ――再び、彼らの戦いが始まろうとしていた。
「……拙者、こういう隠れ住まいというのは、どうにも性に合わぬ……」
青い髪に銀縁眼鏡をかけた神官、ダリル=ベルトレインが、小屋の隅で力なく座り込んだ。彼の肩にかかる法衣は薄汚れ、聖印もかつての輝きを失っている。
「まあまあ、ダリル。追放者ってのは、みんなそういうもんよ。落ち込んでたら損しちゃうわ」
そう声をかけたのは、桃色の髪を二つ結びにした剣聖、エリーゼ=アルセリア。プラス思考の塊のようなその笑顔は、どこか太陽のように明るい。
彼女の右腕は金に輝き、左足は銀の光を宿していた。金龍とフェンリル――二柱の精霊が宿したその力は、ただ立っているだけで異質な気配を放つ。
「そうそう、どうせならさ、ここを“ボクたちだけの秘密基地”にしちゃおうよ」
金髪をかき上げながら口にしたのは、ナルシストの魔法使い、アリスター。元・王子という身分を思わせる気品と、どこか浮世離れした余裕を漂わせるが、その眼差しの奥には、隠しきれない緊張と警戒が光っていた。
「どう見ても、ただのボロ小屋だろ」
そうぼそりと呟いたのは、筋肉隆々の黒髪剣士、マスキュラー。壁に寄りかかり、太い腕を組みながら無言で窓の外を見張っている。
「だが、こうして身を潜められる場所は貴重だ。王都の目をかいくぐるには十分だろう」
仮面の男――情報屋ヴェルトが、乾いた声で言った。顔を覆う仮面からその表情は読み取れないが、その声はどこか焦りを含んでいた。
「最近、王都では“紅の仮面”と名乗る男が魔道士たちを集め始めている。裏で何か大きな動きがある。どうやら、王家の中枢にも関わっているようだ」
「紅の仮面……?」
アリスターが眉をひそめる。王家にいた彼が聞いたこともない名だ。
「聞いたこともない。少なくとも、ボクが王子だった頃にはそんな人物はいなかったはずだけど」
「十数年前、死んだとされていた男だ。だが、奴が生きていて裏で動いているとなれば――王家の腐敗も、ボクを追放した一件も……すべて繋がっているかもしれない」
「つまり、また危険な道を歩むことになるわけですな……」
ダリルが肩を落とす。彼の背負った過去――“聖女を魔族と断じた逆賊”という汚名は、いまだに彼の心を縛っていた。だが、その眼差しには逃げることのない静かな決意があった。
「まずは王都に潜入し、“紅の仮面”と繋がりのある魔道士たちの動きを探る。接触には細心の注意が必要だ」
「聞き込みならオレに任せとけ。オレ、街の裏路地には詳しいんだ。昔、C級の冒険者仲間と潜り込んでた頃を思い出すぜ」
マスキュラーが軽く拳を握りしめた。
「じゃあ、わたしは薬草店や鍛冶屋を回ってみるわ。情報って、意外とそういう所に転がってるものなの」
エリーゼが金の右腕を軽く振って笑う。
「ボクとダリルは、神殿方面の動向を探ろう。神官や教会関係者から、“紅の仮面”に関する情報が出てるかもしれない」
「うう……拙者、その方面では特に顔が知られておりますゆえ……」
「ボクも似たようなものだよ。王子時代の肖像画が出回ってるからね。だからこそ、変装が必要ってわけだ」
アリスターが指を鳴らすと、宙に魔法陣が浮かび上がる。
「髪色を変えよう。眼鏡も一時的に消して、肌の色も少し調整して――どう? まるで別人でしょ」
「うぐ、己が己でないようなこの違和感……拙者、心が迷子でござる……」
「大丈夫大丈夫、すぐ慣れるわよ」とエリーゼが励まし、ダリルはしぶしぶ頷いた。
「よし、それぞれ準備ができたら、明日から行動開始だ。潜入作戦第一段階、開始ってやつだね」
「ふっ……ボクたち、“スプレーマム”は……冤罪者たちの寄せ集めかもしれないけど……この国の腐った根を正すには、ちょうどいい毒になるんじゃない?」
アリスターの言葉に、皆がわずかに口元をほころばせた。
「オレたちが動けば、風向きは変わる。そう信じてるぜ」
マスキュラーが低く呟き、拳を強く握った。
小さな水車小屋に集った五人の“追放者”たちは、それぞれに傷を抱えながらも、同じ未来を見据えていた。
光の届かぬ王都の闇の中へ――再び、彼らの戦いが始まろうとしていた。
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