婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第112話 ヴェルト、情報屋としてプロの仕事をこなす

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仮面の下で目を細め、ヴェルトは窓辺に立っていた。夜の王都を見下ろすその瞳は、まるで闇の中を縫う糸を追うように鋭い。

 カサリ、と音がした。窓枠に黒猫の姿が現れる。光を吸い込んだような漆黒の毛並み。瞳だけが金色に輝いていた。

 「……戻ったか、ノクス」

 黒猫――ヴェルトの使い魔は小さく鳴くと、口にくわえた封筒を卓の上に置いた。封蝋には帝国の古城を象った紋章。ヴェルトは指先で丁寧にそれを割り、慎重に中身を取り出す。

 文面は帝国の儀礼語で記されていたが、彼にとっては造作もない。すぐに目を走らせ、ある一文に目を留めた。

 ――《式は帝都東方の古城“レヴァンシュ”にて執り行われる。新婦、アイラ・ド・ランヴェール。式典に際し、特別な遺物が引き渡される予定》

 「……やはり、動き始めたな。あの女が、偽者であるなら――これはただの婚姻では済まない」

 ヴェルトは仮面の奥で眉を寄せる。彼がかつて“弟”と呼んだ者が命を落としたのも、魔族との密約の結果だった。あの忌まわしき契約の再来を、彼は見過ごすつもりはない。

 「ノクス、次は“レヴァンシュ”の地下図書室だ。かつてあの古城が何に使われていたか――知る必要がある」

 黒猫はふたたび窓枠から闇へと跳び去っていった。

 ◇

 翌日、ヴェルトは密会のために選んだ廃教会の聖堂で、別の使い魔からの報告を受けていた。白い羽毛に覆われた小鳥が、祭壇の上に滑るように降り立つ。

 「……風精霊を通じて聞いたのか。話せ」

 風の精霊術を埋め込んだ使い魔が伝えるのは、帝都の城館で交わされた会話の断片。

 《セレスティア様の妹君が……やはり、魔族の助けを借りて蘇ったのですね》
 《代償は“感情”と“記憶”だと聞きます。もはや彼女は“妹”ではない》

 ヴェルトは静かに目を閉じた。

 「……魂を取引材料にしたか。“混血”の儀式――しかもそれが、アイラという名を騙っている」

 次いで耳に届いたのは、封印にまつわる単語だった。

 《“岩宿の封印”を破る鍵は、かの婚儀にて帝国に移されると……》

 《式場は、旧ルナティス家の古城。かつて“封印守”の血筋があったとされる地》

 ヴェルトは咄嗟に地図を広げ、かつての封印管理地を指でなぞる。そこは偶然にも、帝都の東方に位置する“レヴァンシュ”と重なっていた。

 「……古文書庫の記録があれば、確定できる。ノクス、用意は?」

 すぐさま返事のように、窓から風が吹き込んだ。

 ◇

 三日後の夜、ヴェルトは屋根裏の書斎にいた。卓の上にはまた一枚、使い魔が持ち帰った羊皮紙。

 “レヴァンシュ”の地下には、古の封印装置が存在していた。そして、それを開放するには――“聖王家の血”と“婚姻の儀”が揃うことが条件だと記されていた。

 ヴェルトは静かに息を吐いた。

 「……アリスターを婚約破棄に追い込み、王国の“正統な血”の立場を曖昧にし、その隙に“偽りの花嫁”が婚姻を成す。結果、封印は……」

 そして気づく。アリスターとの“婚約破棄”そのものが、帝国の魔族が仕組んだ布石だったと。

 「最初から、“王国の崩壊”と“封印の解放”はセットだった。アリスター……お前は、そのために――」

 ヴェルトは震える指先で、最後の報告書を書き記す。帝国の婚儀に潜む魔族の影。偽りのアイラ。そして、封印の鍵がその日、その場所で解かれようとしていること。

 報告書の最後に、彼はこう綴った。

 《式の当日、封印の儀式が開始される。止めるには、真実を知る者の手で、アイラを断たねばならない》

 ペン先が止まる。

 「……彼女が“もういない”というのなら、俺が殺すのは、妹を思って魔族と契約した“姉”の罪だ」

 仮面の奥の瞳に、静かな怒りが燃え上がった。
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