婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第113話 冒険者パーティー《スプレーマム》の五人、再び集結

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 追放者たちの反撃
 夕暮れの風が谷間を吹き抜け、草を揺らしていく。王都から離れた水車小屋では、きしむ水車の音が静かに響いていた。

 その小さな灯火のもとに、一人、また一人と仲間たちが戻ってくる。王都で掴んだ“真実”を胸に、誰もが険しい面持ちだった。

 最初に沈黙を破ったのは、変装を解いたエリーゼだった。

 「……あったわ、地下魔術会合の噂。しかも、裏で“紅の仮面”が動いてる」

 ランプの明かりに揺れる桃色の髪。彼女の声には、冷静な響きと怒りが入り混じっていた。

 「若い魔術師を、まるで宗教のように勧誘していた。“力が欲しいか”“世界を変えたくないか”って、心の隙をついてくる。甘くて、でも危険な言葉」

 「オレの方も、ただごとじゃなかった」

 マスキュラーが低く唸るように言った。いつになく、その額には汗が浮いていた。

 「貴族の中に、紅の仮面と繋がってるやつがいる。名前は伏せられてたが、どう考えても城に自由に出入りできるような大物だ」

 「……拙者も、妙な報せを受けました」

 と、ダリルが懐から封筒を取り出した。古びた蝋封を破ると、中から一枚の羊皮紙が現れる。

 「“王女ルシア”殿が、極秘に誰かと接触しようとしていると。それが誰かは書かれていませんが……」

 「……ボク、かもしれない」

 小さな声が、静けさを破った。アリスターだった。その金の髪が揺れ、眼差しはまっすぐ前を見据えていた。

 「妹は、気づいていたはずなんだ。父上の異変も、宮廷の歪みも、そして……ボクが追放された理由も。あの子は、全部見ていた」

 しばし、誰も言葉を挟まなかった。空気が張り詰める中、部屋の隅で静かに佇む仮面の男が動く。

 「なら、王都で“紅の仮面”の尻尾を掴めば、全てが繋がる」

 低く、しかしはっきりと響いたその声に、全員の視線が集まる。

 「地下魔術会合、貴族の陰謀、王女の動き、そしてお前の追放。そのすべてが、一つの線で繋がっている。ただ問題は、その糸の先にいる“黒幕”が誰か、だ」

 そう言って、ヴェルトは一枚の報告書を卓に置いた。

 「……“アイラ・ド・ランヴェール”。その名に聞き覚えは?」

 アリスターの眉がわずかに動いた。

 「元婚約者……のはずだ。だが、彼女はボクを裏切って……」

 「違う。アイラはもう存在しない。お前が知っている“彼女”は、セレスティアの妹が成りすましている。魔族の力を借りて、命を救われた代償に」

 一瞬、室内の空気が凍った。

 「セレスティアは魔族と契約し、病弱だった妹に“混血の肉体”を与えた。その代償は心だった。彼女は狂い、今や帝国の王妃の座を狙って暗躍している。そして……アリスター、お前との婚約破棄も、その布石だ。王国を混乱させ、帝国と魔族の道を開くためのな」

 アリスターは唇を噛んだ。その瞳が激しく揺れていた。

 「そして……決定的な情報がある」

 ヴェルトの声が低く落ちる。

 「“岩宿ダンジョン”の封印。その鍵が、アイラの“結婚式の日”に帝国に渡る予定になっている。式場は王都郊外の古城。つまり、その日が“儀式の日”だ」

 「封印の……鍵?」

 ダリルが小さく呻いた。

 「まさか、それが……悪魔を解き放つための……?」

 「可能性は高い。しかも、奴らは“王家の血”を使う気らしい。力ある血統が儀式の媒介になる……」

 「なら、なおさら止めなければ!」

 エリーゼが立ち上がった。剣聖の瞳に、迷いはなかった。

 「もう潜伏は終わり。“紅の仮面”もセレスティアも、その正体を白日のもとに晒す」

 「オレたちがやるんだ」

 マスキュラーが拳を握る。その拳は怒りではなく、覚悟の象徴だった。

 「追放されたって構わねぇ。正しいことを、正しいと言えるやつがやる。それが、オレたちだろ」

 「拙者も……踏み出します」

 震える声でダリルが続ける。

 「冤罪の苦しみを、もう誰にも……味あわせたくないのです」

 アリスターがゆっくりと顔を上げた。

 「ボクたち“スプレーマム”は、闇に挑む。王国に見捨てられても、ボクらが王国を見捨てる理由にはならない」

 彼の声に、力が宿る。

 「過去を塗り替え、未来を取り戻すために。――ここから、ボクらの戦いを始めよう」

 誰からともなく、力強く頷きが返された。

 小屋の外では風が強まり、夜の帳が王都を包み始めていた。しかし水車の音と共に揺れる小さな灯火は、確かに燃えていた。

 それは、追放者たちの反撃の狼煙だった。



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