婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第114話 “地下競闘場”の入り口 ……やっぱり、あのときの……!

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夜の王都――レグナス。その下層区は、貴族の光が届かぬ闇に沈む。石畳に濡れた雨の匂い。崩れかけた建物の隙間から、蝋燭の灯がちらちらと揺れ、冷えた空気に怪しげな熱を帯びさせていた。

 「ここが……情報通りの“地下競闘場”の入り口だな」

 マスキュラーが低く呟く。黒髪を揺らしながら、彼は無骨な手で壁に埋もれた扉を押し開いた。キィ……と鉄の軋む音。その奥には、湿気と血の匂いがこもった階段が、まるで奈落のように続いていた。

 「派手な闘技場じゃない。選ばれた者しか知らない『招かれざる者たちの集会所』……仮面の使者に選ばれた魔道士たちが、“力”を試されるって聞いたわ」

 先頭に立つマスキュラーの後ろで、桃髪の少女――エリーゼ=アルセリアが囁いた。背中に佩いた剣の柄が、わずかにきらめく。彼女の右腕は金龍の加護で金色に、左足はフェンリルの力で銀色に光を宿していた。

 「大丈夫だよ、ボクたち《スプレーマム》の力を見せてやろう。あいつ――“紅の仮面”がボクを追放に追い込んだ張本人なら……顔を見たら、全部思い出せる気がするんだ」

 金髪の青年アリスターが微笑む。その声音には気品と怒り、そして静かな覚悟が宿っていた。テオドリック王国の元王子。自分を「ボク」と呼ぶ彼は、冤罪によりすべてを奪われた。しかし、誇りまでは折れていない。

 「拙者の記憶でも、“魔族と通じていた神官”がこの場所に現れるとの噂が……もしかすれば、あやつと“聖女クラリス殿”を引き裂いた者は同一人物かもしれませぬ」

 銀縁の眼鏡を外し、静かに階段を見下ろすのは、青髪の神官ダリル=ベルトレイン。かつて聖教国マケドニアに仕え、正義の告発によって逆に罰せられた男。心優しくも、どこか影のあるその目が、今は決意に燃えていた。

 スプレーマムの四人は、無言のまま地下へと足を踏み入れた。

 蝋燭の灯が彼らの影を壁に踊らせる。通路を抜けると、広間のような空間が現れた。中央には血で染まった石床。観客席はない。ただ仮面をかぶった数十の男たちが、円形の壁際に並び立っていた。

 「ようこそ、“夜の観戦者”たちよ」

 響いた声は、空気そのものを震わせる。闇の奥から、一人の男が現れた。顔を覆うのは深紅の仮面。外套の裾から覗く黒い指先が、不気味な魔力を帯びている。

 アリスターの表情が変わった。

 「……やっぱり、あのときの……!」

 瞳に怒りが燃える。紅の仮面――それは、アリスターを冤罪に追い込んだ陰謀の首謀者の一人。そしてエリーゼを王国から追放した偽証の元凶とも重なる存在だった。

 「仮面をかぶって隠せると思うなよ。お前が何者か、今ここで暴いてやる」

 「わたしたちの物語は、ここから変わるわ。過去に縛られたままじゃない。ここで、未来を取り戻す!」

 エリーゼの足元に魔力が集う。銀色の左足が床を蹴り、次の瞬間には、剣が抜かれ――黄金に光る右腕で、一閃。

 マスキュラーは剣を構え、ダリルは祈りを捧げるように両手を組んだ。

 四人の追放者たちが、今、闇の真実と向き合う。

 ここは“地下競闘場”。力なき者は踏み潰され、真実は仮面に隠される場所。

 だが、《スプレーマム》は違う。
 冤罪に、敗北に、そして運命にさえ抗うために集った者たち。
 この夜――彼らの反撃が始まる。
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