115 / 179
第115話 グレゴールとの対決 お前が“紅の仮面”か
しおりを挟む
血の匂いが染みついた円形闘技場。その中心、古びた石壇が不気味な光を反射する。観客席を埋めるのは、無言の仮面たち。黒曜石のような眼孔が、闘技の始まりを待ちわびるように光っていた。
「……選ばれし“紅の仮面”の使徒どもよ。我が名はグレゴール。その“意志”を継ぐ者なり」
壇上に現れたのは、真紅の仮面をつけた男。黒のローブは風もないのにふわりと揺れ、足元の影すら生き物のように蠢いた。
「今宵は……“追放者たち”の力、確かめさせてもらおう」
笑い声が観客席のあちこちからくぐもって漏れた。その声を断ち切るように、金の髪が一歩、前に出る。
「……お前が“紅の仮面”か」
アリスター=テオドリック。元王子にして魔法使い。かつて王都を追われた男の瞳が、仮面を真っ直ぐに見据える。
「……ボクを追放に追い込んだのは、お前だな? 王宮の魔道具暴走、妹ルシアを泣かせたあの事件……全部、お前が仕組んだ!」
仮面の男は数瞬の沈黙を置いた後、低く笑った。
「黄金の魔術師。テオドリック王家の“落ちた星”よ……よく来た。お前の名はよく知っている」
「なら、話は早い」
アリスターの指先に金の魔力が灯る。だが、すぐ後ろから伸びた腕がそれを押しとどめた。
「待たれよ、アリスター殿……。ここで刃を交わせば、我ら全員、ただでは済まぬでござる……」
青い髪に銀縁の眼鏡をかけた神官――ダリル=ベルトレインが、苦悩に満ちた声で制する。
「……だが奴の魔力、ただ者じゃないよ。ここで終わらせないと、取り返しがつかない」
エリーゼ=アルセリアがアリスターの隣に立つ。剣を抜かぬままの構え。右腕の金が、左足の銀が、不気味な仮面たちの視線を惹きつけてやまない。
「お前たちは“力”を持つ。だが、必要なのは“選ばれること”だ」
仮面の男の声が低く響く。
「我らは新たな秩序を築く。王家も、神も、過去に縋る愚者どももいらぬ。必要なのは……意志と力だ」
「ただの暴力で作られた秩序なんざ、くだらねぇな」
マスキュラーが吐き捨てるように言った。漆黒の髪、隆々たる筋肉が怒りに震えている。
「お前に秩序を語る資格があるのか? 力を振りかざすだけの連中が、何を守れるってんだ」
「守る? 否。“変える”のだ。すべてを――」
グレゴールが手を掲げた。石壇に描かれた魔法陣が淡く光り、やがて魔力の奔流が爆ぜる。次の瞬間、血のように赤い瞳を持つ魔族が喚び出された。
「ッ……魔族を召喚した、だと!」
ダリルが青ざめた顔で叫ぶ。
「貴様……神殿で“魔族と結託した神官”がいたと聞いたが、まさか……!」
「皮肉なものだな。聖女を魔族と告発したお前が、今また魔族と対峙するとは」
仮面の男の言葉が、ダリルの胸に深く突き刺さる。
「違う……拙者は、人を信じたかっただけ……」
「ならば試せばよい。信じる者の力で、この“契約された魔族”を討ち果たせるかを」
魔族が咆哮を上げた。その一瞬の隙に、アリスターが叫ぶ。
「《スプレーマム》、隊列! 戦うぞ!」
「任せろ!」
マスキュラーが真っ先に前に出て、魔族の腕を受け止める。その筋力は、まさに盾のごとき堅牢さ。
「一閃――!」
エリーゼの剣が閃光となって走る。魔族の腕が弾かれた瞬間、アリスターの詠唱が響く。
「《黄金穿つ流星(ルクス・アヴァロン)》!」
天空から降り注ぐ金色の槍が、魔族の胸を穿った。しかし――
「……笑ってる……?!」
魔族は怯むどころか、嘲るように笑った。
「契約による加護だ。通常の攻撃は通らぬ」
グレゴールの声に、アリスターが唇を噛んだ。
だが――
「ならば……これはどうでござるか!」
ダリルが一歩、前へ。祈りの言葉と共に両手を組む。銀色の神光がその掌からあふれた。
「《聖律破魔》――!」
放たれた奇跡の光が、魔族の加護を焼くように染め上げる。悲鳴を上げ、魔族は白い炎に包まれて消えた。
静寂が、訪れる。
アリスターが息を整えながら、グレゴールを睨みつけた。
「これが……ボクたち《スプレーマム》の力だ」
しかし、グレゴールは微動だにしなかった。
「面白い。お前たちの名、覚えておこう。“スプレーマム”よ」
ローブが風に舞うように揺れた次の瞬間、その姿は闇に溶けるように消えていた。
「……逃げた?」
マスキュラーが辺りを見回す。
「逃げたんじゃない。奴は次を用意している……」
エリーゼが静かに言った。
「“王”として、再び我らの前に立つ……。そう言い残して行きましたゆえ」
ダリルが眼鏡をかけ直しながら、低く呟く。
アリスターは、名残惜しそうに石壇を見つめた。
「必ず――仮面を剥いでみせる。あの夜を、終わらせるために」
スプレーマムの4人は、再び階段を登り始めた。
夜の王都レグナス。その深い闇の奥に、まだ見ぬ真実が蠢いている。
「……選ばれし“紅の仮面”の使徒どもよ。我が名はグレゴール。その“意志”を継ぐ者なり」
壇上に現れたのは、真紅の仮面をつけた男。黒のローブは風もないのにふわりと揺れ、足元の影すら生き物のように蠢いた。
「今宵は……“追放者たち”の力、確かめさせてもらおう」
笑い声が観客席のあちこちからくぐもって漏れた。その声を断ち切るように、金の髪が一歩、前に出る。
「……お前が“紅の仮面”か」
アリスター=テオドリック。元王子にして魔法使い。かつて王都を追われた男の瞳が、仮面を真っ直ぐに見据える。
「……ボクを追放に追い込んだのは、お前だな? 王宮の魔道具暴走、妹ルシアを泣かせたあの事件……全部、お前が仕組んだ!」
仮面の男は数瞬の沈黙を置いた後、低く笑った。
「黄金の魔術師。テオドリック王家の“落ちた星”よ……よく来た。お前の名はよく知っている」
「なら、話は早い」
アリスターの指先に金の魔力が灯る。だが、すぐ後ろから伸びた腕がそれを押しとどめた。
「待たれよ、アリスター殿……。ここで刃を交わせば、我ら全員、ただでは済まぬでござる……」
青い髪に銀縁の眼鏡をかけた神官――ダリル=ベルトレインが、苦悩に満ちた声で制する。
「……だが奴の魔力、ただ者じゃないよ。ここで終わらせないと、取り返しがつかない」
エリーゼ=アルセリアがアリスターの隣に立つ。剣を抜かぬままの構え。右腕の金が、左足の銀が、不気味な仮面たちの視線を惹きつけてやまない。
「お前たちは“力”を持つ。だが、必要なのは“選ばれること”だ」
仮面の男の声が低く響く。
「我らは新たな秩序を築く。王家も、神も、過去に縋る愚者どももいらぬ。必要なのは……意志と力だ」
「ただの暴力で作られた秩序なんざ、くだらねぇな」
マスキュラーが吐き捨てるように言った。漆黒の髪、隆々たる筋肉が怒りに震えている。
「お前に秩序を語る資格があるのか? 力を振りかざすだけの連中が、何を守れるってんだ」
「守る? 否。“変える”のだ。すべてを――」
グレゴールが手を掲げた。石壇に描かれた魔法陣が淡く光り、やがて魔力の奔流が爆ぜる。次の瞬間、血のように赤い瞳を持つ魔族が喚び出された。
「ッ……魔族を召喚した、だと!」
ダリルが青ざめた顔で叫ぶ。
「貴様……神殿で“魔族と結託した神官”がいたと聞いたが、まさか……!」
「皮肉なものだな。聖女を魔族と告発したお前が、今また魔族と対峙するとは」
仮面の男の言葉が、ダリルの胸に深く突き刺さる。
「違う……拙者は、人を信じたかっただけ……」
「ならば試せばよい。信じる者の力で、この“契約された魔族”を討ち果たせるかを」
魔族が咆哮を上げた。その一瞬の隙に、アリスターが叫ぶ。
「《スプレーマム》、隊列! 戦うぞ!」
「任せろ!」
マスキュラーが真っ先に前に出て、魔族の腕を受け止める。その筋力は、まさに盾のごとき堅牢さ。
「一閃――!」
エリーゼの剣が閃光となって走る。魔族の腕が弾かれた瞬間、アリスターの詠唱が響く。
「《黄金穿つ流星(ルクス・アヴァロン)》!」
天空から降り注ぐ金色の槍が、魔族の胸を穿った。しかし――
「……笑ってる……?!」
魔族は怯むどころか、嘲るように笑った。
「契約による加護だ。通常の攻撃は通らぬ」
グレゴールの声に、アリスターが唇を噛んだ。
だが――
「ならば……これはどうでござるか!」
ダリルが一歩、前へ。祈りの言葉と共に両手を組む。銀色の神光がその掌からあふれた。
「《聖律破魔》――!」
放たれた奇跡の光が、魔族の加護を焼くように染め上げる。悲鳴を上げ、魔族は白い炎に包まれて消えた。
静寂が、訪れる。
アリスターが息を整えながら、グレゴールを睨みつけた。
「これが……ボクたち《スプレーマム》の力だ」
しかし、グレゴールは微動だにしなかった。
「面白い。お前たちの名、覚えておこう。“スプレーマム”よ」
ローブが風に舞うように揺れた次の瞬間、その姿は闇に溶けるように消えていた。
「……逃げた?」
マスキュラーが辺りを見回す。
「逃げたんじゃない。奴は次を用意している……」
エリーゼが静かに言った。
「“王”として、再び我らの前に立つ……。そう言い残して行きましたゆえ」
ダリルが眼鏡をかけ直しながら、低く呟く。
アリスターは、名残惜しそうに石壇を見つめた。
「必ず――仮面を剥いでみせる。あの夜を、終わらせるために」
スプレーマムの4人は、再び階段を登り始めた。
夜の王都レグナス。その深い闇の奥に、まだ見ぬ真実が蠢いている。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる