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第115話 グレゴールとの対決 お前が“紅の仮面”か
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血の匂いが染みついた円形闘技場。その中心、古びた石壇が不気味な光を反射する。観客席を埋めるのは、無言の仮面たち。黒曜石のような眼孔が、闘技の始まりを待ちわびるように光っていた。
「……選ばれし“紅の仮面”の使徒どもよ。我が名はグレゴール。その“意志”を継ぐ者なり」
壇上に現れたのは、真紅の仮面をつけた男。黒のローブは風もないのにふわりと揺れ、足元の影すら生き物のように蠢いた。
「今宵は……“追放者たち”の力、確かめさせてもらおう」
笑い声が観客席のあちこちからくぐもって漏れた。その声を断ち切るように、金の髪が一歩、前に出る。
「……お前が“紅の仮面”か」
アリスター=テオドリック。元王子にして魔法使い。かつて王都を追われた男の瞳が、仮面を真っ直ぐに見据える。
「……ボクを追放に追い込んだのは、お前だな? 王宮の魔道具暴走、妹ルシアを泣かせたあの事件……全部、お前が仕組んだ!」
仮面の男は数瞬の沈黙を置いた後、低く笑った。
「黄金の魔術師。テオドリック王家の“落ちた星”よ……よく来た。お前の名はよく知っている」
「なら、話は早い」
アリスターの指先に金の魔力が灯る。だが、すぐ後ろから伸びた腕がそれを押しとどめた。
「待たれよ、アリスター殿……。ここで刃を交わせば、我ら全員、ただでは済まぬでござる……」
青い髪に銀縁の眼鏡をかけた神官――ダリル=ベルトレインが、苦悩に満ちた声で制する。
「……だが奴の魔力、ただ者じゃないよ。ここで終わらせないと、取り返しがつかない」
エリーゼ=アルセリアがアリスターの隣に立つ。剣を抜かぬままの構え。右腕の金が、左足の銀が、不気味な仮面たちの視線を惹きつけてやまない。
「お前たちは“力”を持つ。だが、必要なのは“選ばれること”だ」
仮面の男の声が低く響く。
「我らは新たな秩序を築く。王家も、神も、過去に縋る愚者どももいらぬ。必要なのは……意志と力だ」
「ただの暴力で作られた秩序なんざ、くだらねぇな」
マスキュラーが吐き捨てるように言った。漆黒の髪、隆々たる筋肉が怒りに震えている。
「お前に秩序を語る資格があるのか? 力を振りかざすだけの連中が、何を守れるってんだ」
「守る? 否。“変える”のだ。すべてを――」
グレゴールが手を掲げた。石壇に描かれた魔法陣が淡く光り、やがて魔力の奔流が爆ぜる。次の瞬間、血のように赤い瞳を持つ魔族が喚び出された。
「ッ……魔族を召喚した、だと!」
ダリルが青ざめた顔で叫ぶ。
「貴様……神殿で“魔族と結託した神官”がいたと聞いたが、まさか……!」
「皮肉なものだな。聖女を魔族と告発したお前が、今また魔族と対峙するとは」
仮面の男の言葉が、ダリルの胸に深く突き刺さる。
「違う……拙者は、人を信じたかっただけ……」
「ならば試せばよい。信じる者の力で、この“契約された魔族”を討ち果たせるかを」
魔族が咆哮を上げた。その一瞬の隙に、アリスターが叫ぶ。
「《スプレーマム》、隊列! 戦うぞ!」
「任せろ!」
マスキュラーが真っ先に前に出て、魔族の腕を受け止める。その筋力は、まさに盾のごとき堅牢さ。
「一閃――!」
エリーゼの剣が閃光となって走る。魔族の腕が弾かれた瞬間、アリスターの詠唱が響く。
「《黄金穿つ流星(ルクス・アヴァロン)》!」
天空から降り注ぐ金色の槍が、魔族の胸を穿った。しかし――
「……笑ってる……?!」
魔族は怯むどころか、嘲るように笑った。
「契約による加護だ。通常の攻撃は通らぬ」
グレゴールの声に、アリスターが唇を噛んだ。
だが――
「ならば……これはどうでござるか!」
ダリルが一歩、前へ。祈りの言葉と共に両手を組む。銀色の神光がその掌からあふれた。
「《聖律破魔》――!」
放たれた奇跡の光が、魔族の加護を焼くように染め上げる。悲鳴を上げ、魔族は白い炎に包まれて消えた。
静寂が、訪れる。
アリスターが息を整えながら、グレゴールを睨みつけた。
「これが……ボクたち《スプレーマム》の力だ」
しかし、グレゴールは微動だにしなかった。
「面白い。お前たちの名、覚えておこう。“スプレーマム”よ」
ローブが風に舞うように揺れた次の瞬間、その姿は闇に溶けるように消えていた。
「……逃げた?」
マスキュラーが辺りを見回す。
「逃げたんじゃない。奴は次を用意している……」
エリーゼが静かに言った。
「“王”として、再び我らの前に立つ……。そう言い残して行きましたゆえ」
ダリルが眼鏡をかけ直しながら、低く呟く。
アリスターは、名残惜しそうに石壇を見つめた。
「必ず――仮面を剥いでみせる。あの夜を、終わらせるために」
スプレーマムの4人は、再び階段を登り始めた。
夜の王都レグナス。その深い闇の奥に、まだ見ぬ真実が蠢いている。
「……選ばれし“紅の仮面”の使徒どもよ。我が名はグレゴール。その“意志”を継ぐ者なり」
壇上に現れたのは、真紅の仮面をつけた男。黒のローブは風もないのにふわりと揺れ、足元の影すら生き物のように蠢いた。
「今宵は……“追放者たち”の力、確かめさせてもらおう」
笑い声が観客席のあちこちからくぐもって漏れた。その声を断ち切るように、金の髪が一歩、前に出る。
「……お前が“紅の仮面”か」
アリスター=テオドリック。元王子にして魔法使い。かつて王都を追われた男の瞳が、仮面を真っ直ぐに見据える。
「……ボクを追放に追い込んだのは、お前だな? 王宮の魔道具暴走、妹ルシアを泣かせたあの事件……全部、お前が仕組んだ!」
仮面の男は数瞬の沈黙を置いた後、低く笑った。
「黄金の魔術師。テオドリック王家の“落ちた星”よ……よく来た。お前の名はよく知っている」
「なら、話は早い」
アリスターの指先に金の魔力が灯る。だが、すぐ後ろから伸びた腕がそれを押しとどめた。
「待たれよ、アリスター殿……。ここで刃を交わせば、我ら全員、ただでは済まぬでござる……」
青い髪に銀縁の眼鏡をかけた神官――ダリル=ベルトレインが、苦悩に満ちた声で制する。
「……だが奴の魔力、ただ者じゃないよ。ここで終わらせないと、取り返しがつかない」
エリーゼ=アルセリアがアリスターの隣に立つ。剣を抜かぬままの構え。右腕の金が、左足の銀が、不気味な仮面たちの視線を惹きつけてやまない。
「お前たちは“力”を持つ。だが、必要なのは“選ばれること”だ」
仮面の男の声が低く響く。
「我らは新たな秩序を築く。王家も、神も、過去に縋る愚者どももいらぬ。必要なのは……意志と力だ」
「ただの暴力で作られた秩序なんざ、くだらねぇな」
マスキュラーが吐き捨てるように言った。漆黒の髪、隆々たる筋肉が怒りに震えている。
「お前に秩序を語る資格があるのか? 力を振りかざすだけの連中が、何を守れるってんだ」
「守る? 否。“変える”のだ。すべてを――」
グレゴールが手を掲げた。石壇に描かれた魔法陣が淡く光り、やがて魔力の奔流が爆ぜる。次の瞬間、血のように赤い瞳を持つ魔族が喚び出された。
「ッ……魔族を召喚した、だと!」
ダリルが青ざめた顔で叫ぶ。
「貴様……神殿で“魔族と結託した神官”がいたと聞いたが、まさか……!」
「皮肉なものだな。聖女を魔族と告発したお前が、今また魔族と対峙するとは」
仮面の男の言葉が、ダリルの胸に深く突き刺さる。
「違う……拙者は、人を信じたかっただけ……」
「ならば試せばよい。信じる者の力で、この“契約された魔族”を討ち果たせるかを」
魔族が咆哮を上げた。その一瞬の隙に、アリスターが叫ぶ。
「《スプレーマム》、隊列! 戦うぞ!」
「任せろ!」
マスキュラーが真っ先に前に出て、魔族の腕を受け止める。その筋力は、まさに盾のごとき堅牢さ。
「一閃――!」
エリーゼの剣が閃光となって走る。魔族の腕が弾かれた瞬間、アリスターの詠唱が響く。
「《黄金穿つ流星(ルクス・アヴァロン)》!」
天空から降り注ぐ金色の槍が、魔族の胸を穿った。しかし――
「……笑ってる……?!」
魔族は怯むどころか、嘲るように笑った。
「契約による加護だ。通常の攻撃は通らぬ」
グレゴールの声に、アリスターが唇を噛んだ。
だが――
「ならば……これはどうでござるか!」
ダリルが一歩、前へ。祈りの言葉と共に両手を組む。銀色の神光がその掌からあふれた。
「《聖律破魔》――!」
放たれた奇跡の光が、魔族の加護を焼くように染め上げる。悲鳴を上げ、魔族は白い炎に包まれて消えた。
静寂が、訪れる。
アリスターが息を整えながら、グレゴールを睨みつけた。
「これが……ボクたち《スプレーマム》の力だ」
しかし、グレゴールは微動だにしなかった。
「面白い。お前たちの名、覚えておこう。“スプレーマム”よ」
ローブが風に舞うように揺れた次の瞬間、その姿は闇に溶けるように消えていた。
「……逃げた?」
マスキュラーが辺りを見回す。
「逃げたんじゃない。奴は次を用意している……」
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「“王”として、再び我らの前に立つ……。そう言い残して行きましたゆえ」
ダリルが眼鏡をかけ直しながら、低く呟く。
アリスターは、名残惜しそうに石壇を見つめた。
「必ず――仮面を剥いでみせる。あの夜を、終わらせるために」
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