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第117話 アリスターとルシアの思い出 お兄さまが変って言われるの
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「金の鳥と銀の月」──アリスターとルシアの思い出
日差しが差し込む王宮の中庭。
そこには、黄金色の髪を陽にきらめかせながら、魔導書を手にベンチに腰掛ける少年がいた。背筋を伸ばし、誇らしげに微笑むその顔は、どこか「完璧」と形容したくなる均整の取れた美貌を備えていた。
「ボクは天才だな……うん、やっぱり完璧だ」
ページをめくりながら、少年は当然のように自画自賛した。
「またそれ言ってる!」
木陰から飛び出してきたのは、銀の髪をリボンで結んだ小さな少女。彼女の顔には年相応の無邪気さと、兄に対するちょっとした呆れが浮かんでいた。
「ルシア。お行儀が悪いぞ。王女たるもの、もっと優雅に歩くべきだ」
「じゃあお兄さまは王子たるもの、ナルシストになっちゃだめでしょ」
くすくすと笑いながら、ルシアは兄の隣に腰を下ろした。
「ふん。ナルシストではない。“自己認識の正確さ”だ。これがボクの魅力なのだから、素直に認めればいい」
「はいはい。そういうとこだよー、お兄さまが変って言われるの」
ふわりと風が吹いて、ルシアの髪がさらさらと揺れた。
アリスターはちらりとその横顔を見た。ふとした仕草が、母によく似ている。普段は生意気なことばかり言う妹だが、やはり血の繋がった家族なのだと感じさせる瞬間だった。
「今日は何を読んでるの?」
「『中級魔術理論──風と光の交差点』。子供にはちょっと難しいかもな」
「またそれー。もっと絵本とか読もうよ。お兄さま、昔『金の鳥と銀の月』好きだったでしょ?」
「……覚えていたのか、それを」
アリスターは苦笑し、手の中の魔導書を閉じた。
『金の鳥と銀の月』──幼いころ、母に読んでもらった童話だった。
金色の羽を持つ誇り高い鳥が、夜空を旅する中で、冷たい月と出会い、友情を育む物語。火と氷のような存在が少しずつ打ち解け、互いを尊重しながらも、最終的には別々の空へと帰っていく結末だった。
「ルシアはあの話、あまり好きじゃなかったろう?」
「うん、最後にお別れするのが悲しくて。でも……今なら、ちょっと分かる気がするよ」
ルシアはそう言って、空を見上げた。
「王家ってさ、どこか自由じゃないよね。きっと、あの鳥も月も、ほんとは一緒にいたかったのに……ね」
アリスターは、言葉を返さずに目を閉じた。
その瞬間だけ、彼の顔からはいつもの自信に満ちた微笑みが消えていた。
「お兄さま、ほんとは寂しがり屋でしょ?」
「誰がボクを寂しがり屋だと?」
「全部顔に書いてあるもん」
「……はぁ。まったく、王宮一の慧眼を持つ妹を持つと、苦労するな」
ルシアはくすっと笑った。
「でもね、お兄さま。わたし、お兄さまが一番カッコいいと思ってるよ」
突然の言葉に、アリスターは思わず彼女の顔を見た。
それは誇張もなく、計算もない、純粋な敬意と愛情のこもったまなざしだった。
「……当たり前だ。ボクはこの国一の天才魔術師で、将来は王になる男だぞ?」
「うん。でもね。王子さまだからとかじゃなくて……わたしは、お兄さまが“お兄さま”だから好きなんだよ」
言われた瞬間、アリスターの心に何かがふっと灯った。
野心も、誇りも、才能も──そんなものをすべて取っ払ったところにある、たった一つの、兄妹としての絆。
その日、アリスターは魔導書を閉じて、ルシアと一緒に絵本を読んだ。
『金の鳥と銀の月』の結末を、二人で肩を寄せ合いながら見届けた。
その時間は、どんな栄光にも代えがたい宝物となった。
──そして数年後。
アリスターは王宮を追われた。
身に覚えのない冤罪と、仕組まれた罠。すべてを失い、国外追放となったあの日。
最後にルシアと会えたのは、夜明け前のひとときだった。
「お兄さま……きっと戻ってきてね」
「もちろんさ。世界一カッコいい兄が、妹を放っておけるものか」
そのとき、ルシアは目に涙を浮かべながら、幼いころと同じように微笑んで言った。
「わたし、銀の月で待ってる。だから、金の鳥はちゃんと……帰ってきて」
あの中庭で交わした言葉。
あの童話の一節のような約束。
それは今も、アリスターの胸に、消えない灯として生き続けている。
どれだけ道を踏み外そうと、どれだけ汚名を着せられようと──
いつか、あの銀の月のもとへ帰るために。
(ボクは……必ず、ルシアの前に誇りを持って立てる存在になってみせる)
金の鳥は、まだ空の途中だ。
でも、飛び続けている。
あの光を目指して。
日差しが差し込む王宮の中庭。
そこには、黄金色の髪を陽にきらめかせながら、魔導書を手にベンチに腰掛ける少年がいた。背筋を伸ばし、誇らしげに微笑むその顔は、どこか「完璧」と形容したくなる均整の取れた美貌を備えていた。
「ボクは天才だな……うん、やっぱり完璧だ」
ページをめくりながら、少年は当然のように自画自賛した。
「またそれ言ってる!」
木陰から飛び出してきたのは、銀の髪をリボンで結んだ小さな少女。彼女の顔には年相応の無邪気さと、兄に対するちょっとした呆れが浮かんでいた。
「ルシア。お行儀が悪いぞ。王女たるもの、もっと優雅に歩くべきだ」
「じゃあお兄さまは王子たるもの、ナルシストになっちゃだめでしょ」
くすくすと笑いながら、ルシアは兄の隣に腰を下ろした。
「ふん。ナルシストではない。“自己認識の正確さ”だ。これがボクの魅力なのだから、素直に認めればいい」
「はいはい。そういうとこだよー、お兄さまが変って言われるの」
ふわりと風が吹いて、ルシアの髪がさらさらと揺れた。
アリスターはちらりとその横顔を見た。ふとした仕草が、母によく似ている。普段は生意気なことばかり言う妹だが、やはり血の繋がった家族なのだと感じさせる瞬間だった。
「今日は何を読んでるの?」
「『中級魔術理論──風と光の交差点』。子供にはちょっと難しいかもな」
「またそれー。もっと絵本とか読もうよ。お兄さま、昔『金の鳥と銀の月』好きだったでしょ?」
「……覚えていたのか、それを」
アリスターは苦笑し、手の中の魔導書を閉じた。
『金の鳥と銀の月』──幼いころ、母に読んでもらった童話だった。
金色の羽を持つ誇り高い鳥が、夜空を旅する中で、冷たい月と出会い、友情を育む物語。火と氷のような存在が少しずつ打ち解け、互いを尊重しながらも、最終的には別々の空へと帰っていく結末だった。
「ルシアはあの話、あまり好きじゃなかったろう?」
「うん、最後にお別れするのが悲しくて。でも……今なら、ちょっと分かる気がするよ」
ルシアはそう言って、空を見上げた。
「王家ってさ、どこか自由じゃないよね。きっと、あの鳥も月も、ほんとは一緒にいたかったのに……ね」
アリスターは、言葉を返さずに目を閉じた。
その瞬間だけ、彼の顔からはいつもの自信に満ちた微笑みが消えていた。
「お兄さま、ほんとは寂しがり屋でしょ?」
「誰がボクを寂しがり屋だと?」
「全部顔に書いてあるもん」
「……はぁ。まったく、王宮一の慧眼を持つ妹を持つと、苦労するな」
ルシアはくすっと笑った。
「でもね、お兄さま。わたし、お兄さまが一番カッコいいと思ってるよ」
突然の言葉に、アリスターは思わず彼女の顔を見た。
それは誇張もなく、計算もない、純粋な敬意と愛情のこもったまなざしだった。
「……当たり前だ。ボクはこの国一の天才魔術師で、将来は王になる男だぞ?」
「うん。でもね。王子さまだからとかじゃなくて……わたしは、お兄さまが“お兄さま”だから好きなんだよ」
言われた瞬間、アリスターの心に何かがふっと灯った。
野心も、誇りも、才能も──そんなものをすべて取っ払ったところにある、たった一つの、兄妹としての絆。
その日、アリスターは魔導書を閉じて、ルシアと一緒に絵本を読んだ。
『金の鳥と銀の月』の結末を、二人で肩を寄せ合いながら見届けた。
その時間は、どんな栄光にも代えがたい宝物となった。
──そして数年後。
アリスターは王宮を追われた。
身に覚えのない冤罪と、仕組まれた罠。すべてを失い、国外追放となったあの日。
最後にルシアと会えたのは、夜明け前のひとときだった。
「お兄さま……きっと戻ってきてね」
「もちろんさ。世界一カッコいい兄が、妹を放っておけるものか」
そのとき、ルシアは目に涙を浮かべながら、幼いころと同じように微笑んで言った。
「わたし、銀の月で待ってる。だから、金の鳥はちゃんと……帰ってきて」
あの中庭で交わした言葉。
あの童話の一節のような約束。
それは今も、アリスターの胸に、消えない灯として生き続けている。
どれだけ道を踏み外そうと、どれだけ汚名を着せられようと──
いつか、あの銀の月のもとへ帰るために。
(ボクは……必ず、ルシアの前に誇りを持って立てる存在になってみせる)
金の鳥は、まだ空の途中だ。
でも、飛び続けている。
あの光を目指して。
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