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第126話 砂原ダンジョン これをお前に託そう
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公爵邸の執務室には、燻るような緊張と静けさが満ちていた。
アリスターが椅子に腰を落ち着けたその時、アルスラーンは重々しく古びた文箱を机の引き出しから取り出した。金の装飾が施されたその箱には、王家の紋章――双頭の鷲が刻まれている。
「これをお前に託そう」
文箱を開けると、中には一枚の羊皮紙と、古びた銀の指輪が収められていた。
「これは……?」
「我らテオドリック王家に代々伝わる“約定の証”だ。銀環は、王族の血統と正統性を示す印。羊皮紙は、先王陛下――お前の祖父が遺した“特別な命”である」
アリスターは息を呑んだ。
「祖父……陛下が?」
「先王は存命中、王家の礎を揺るがしかねない“ある儀式”の危険性に気付き、記録と警告を残した。だが、それは現国王――お前の父に無視され、隠蔽された。結果、今こうして封印の儀を強行しようとしている」
アルスラーンは目を細め、まるで過去を見つめるように呟く。
「……この国の深奥には、“王家にしか踏み入れられぬ聖域”がある。砂原ダンジョンの最奥、その地下に、封印の根源となる“王の石室”が存在する」
「……まさか、その場所に?」
「そこに、先王は遺言の一部を封じた。正統な王位継承者のみが解くことのできる魔法によってな。お前が“銀環”を用い、その場所に到達すれば――真実は明らかになる。儀式がいかに危険で、誰がそれを主導しているかも、だ」
アリスターは言葉を失った。
「それは、まさに……国を動かす証拠」
「そうだ。だが、それは同時に“諸刃の刃”でもある」
アルスラーンの声が一段と低くなる。
「もしお前がその場所に辿り着けなければ、すべては失われる。“封印の儀”は完遂され、帝国と聖教国の思惑通り、この国は堕ちる。だが、辿り着けたならば――お前が“王たる器”であることが、誰の目にも明らかになるだろう」
「その場所に、どうすれば……?」
「今夜、北の森を抜けた先にある“嘆きの谷”に向かえ。そこに、先王が密かに残した隠し道がある。王家の血を継ぐ者にしか通れぬ古の通路だ」
「王の石室へ続く道……」
アリスターは、銀環をそっと手に取った。それは冷たくも、どこか懐かしい感触だった。まるで、長い時を経て再び己の元へ戻ってきたかのように。
「この使命を果たしたとき、ようやく――“王国の未来”が、お前自身の手に委ねられることになる」
「……はい。必ず、辿り着いてみせます」
アリスターは、静かに目を伏せた。
その瞬間、アルスラーンは僅かに笑みを浮かべる。
「ふむ。やはり、血は争えんな。あの頃の兄上に、よく似ている」
「……陛下に、ですか?」
「否。お前の“祖父”にな。誰よりも民を思い、誰よりも強情な男だった。だが、正しいと信じる道は決して譲らなかった。……お前も、そう在れ」
その言葉を胸に刻み、アリスターは立ち上がった。
「では、今夜、“嘆きの谷”へ向かいます」
「その前に、もうひとつ託すものがある」
アルスラーンは再び机を開き、一通の封筒を差し出した。重厚な封蝋が押されている。
「これは、王城に残る“中立派の宰相”に宛てた私の密書だ。いずれ、お前が真実を示す時、その者の協力が必要になる。くれぐれも慎重にな」
「……わかりました。必ずや」
文箱を抱え、アリスターは再び馬に跨った。陽は傾き始め、夕刻の風が王都の空に吹き渡る。
その背にある銀環と羊皮紙は、ただの遺物ではない。
それは――未来への鍵。
そして、王の名を継ぐ者だけが握ることを許された“国を導く証”だった。
アリスターが椅子に腰を落ち着けたその時、アルスラーンは重々しく古びた文箱を机の引き出しから取り出した。金の装飾が施されたその箱には、王家の紋章――双頭の鷲が刻まれている。
「これをお前に託そう」
文箱を開けると、中には一枚の羊皮紙と、古びた銀の指輪が収められていた。
「これは……?」
「我らテオドリック王家に代々伝わる“約定の証”だ。銀環は、王族の血統と正統性を示す印。羊皮紙は、先王陛下――お前の祖父が遺した“特別な命”である」
アリスターは息を呑んだ。
「祖父……陛下が?」
「先王は存命中、王家の礎を揺るがしかねない“ある儀式”の危険性に気付き、記録と警告を残した。だが、それは現国王――お前の父に無視され、隠蔽された。結果、今こうして封印の儀を強行しようとしている」
アルスラーンは目を細め、まるで過去を見つめるように呟く。
「……この国の深奥には、“王家にしか踏み入れられぬ聖域”がある。砂原ダンジョンの最奥、その地下に、封印の根源となる“王の石室”が存在する」
「……まさか、その場所に?」
「そこに、先王は遺言の一部を封じた。正統な王位継承者のみが解くことのできる魔法によってな。お前が“銀環”を用い、その場所に到達すれば――真実は明らかになる。儀式がいかに危険で、誰がそれを主導しているかも、だ」
アリスターは言葉を失った。
「それは、まさに……国を動かす証拠」
「そうだ。だが、それは同時に“諸刃の刃”でもある」
アルスラーンの声が一段と低くなる。
「もしお前がその場所に辿り着けなければ、すべては失われる。“封印の儀”は完遂され、帝国と聖教国の思惑通り、この国は堕ちる。だが、辿り着けたならば――お前が“王たる器”であることが、誰の目にも明らかになるだろう」
「その場所に、どうすれば……?」
「今夜、北の森を抜けた先にある“嘆きの谷”に向かえ。そこに、先王が密かに残した隠し道がある。王家の血を継ぐ者にしか通れぬ古の通路だ」
「王の石室へ続く道……」
アリスターは、銀環をそっと手に取った。それは冷たくも、どこか懐かしい感触だった。まるで、長い時を経て再び己の元へ戻ってきたかのように。
「この使命を果たしたとき、ようやく――“王国の未来”が、お前自身の手に委ねられることになる」
「……はい。必ず、辿り着いてみせます」
アリスターは、静かに目を伏せた。
その瞬間、アルスラーンは僅かに笑みを浮かべる。
「ふむ。やはり、血は争えんな。あの頃の兄上に、よく似ている」
「……陛下に、ですか?」
「否。お前の“祖父”にな。誰よりも民を思い、誰よりも強情な男だった。だが、正しいと信じる道は決して譲らなかった。……お前も、そう在れ」
その言葉を胸に刻み、アリスターは立ち上がった。
「では、今夜、“嘆きの谷”へ向かいます」
「その前に、もうひとつ託すものがある」
アルスラーンは再び机を開き、一通の封筒を差し出した。重厚な封蝋が押されている。
「これは、王城に残る“中立派の宰相”に宛てた私の密書だ。いずれ、お前が真実を示す時、その者の協力が必要になる。くれぐれも慎重にな」
「……わかりました。必ずや」
文箱を抱え、アリスターは再び馬に跨った。陽は傾き始め、夕刻の風が王都の空に吹き渡る。
その背にある銀環と羊皮紙は、ただの遺物ではない。
それは――未来への鍵。
そして、王の名を継ぐ者だけが握ることを許された“国を導く証”だった。
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