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第125話 アルスラーン・ヴァン・テオドリック公爵 頼れるのは、叔父上だけだ……!
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王都の朝は、春の風に包まれていた。けれど、アリスターの心には、少しの余裕もなかった。
「……残り一週間、か」
岩宿ダンジョンの封印の鍵。それが、ユリウスとアイラの結婚式に合わせて帝国へと渡される――つまり、その日こそが“儀式の日”になる。
式場は、王都郊外の古城。王族たちの式典や、重要な政治儀礼に使われる由緒ある場所だ。そして、そこに一族全員が集うということは、何かが動く証でもある。
「兄上が、それを見過ごすわけがない」
ヴェルト――いや、ガーランの言葉が思い出される。
《結局のところ、真に封印を解こうとする勢力は、聖教国と王国の一部で手を組んでいる。だが、“すべての王家”が賛同しているわけじゃない。》
それを証明するように、妹のルシアは、父である国王を止めようとしていた。そしてもう一人、この国の中枢で“沈黙を守っていた男”がいる。
アルスラーン・ヴァン・テオドリック公爵。現国王の弟にして、王家の中では数少ない良識派として知られる男。
「頼れるのは、叔父上だけだ……!」
アリスターはそう呟くと、手綱を強く握り、馬を走らせた。
***
公爵邸の門前に立ったのは、午後の日差しが柔らかく傾き始めた頃だった。大理石の列柱が並ぶ古風な建築。かつてここで何度も叱られ、そして励まされたことを思い出し、アリスターは無意識に背筋を正した。
案内された広間には、すでにその男がいた。
「おお……久しいな、アリスター」
低く、しかし温かみのある声。堂々とした体躯に、白銀混じりの髪、冷静な眼差し――アルスラーン公爵は、歳を重ねてもなお威厳を保っていた。
「……ご無沙汰しております、叔父上」
アリスターはひざまずきかけたが、それを手で制された。
「そう堅くなるな。今は亡命王子ではなく、“戻る者”として来たのだろう?」
その一言で、アリスターの心に何かが走った。
「……知っていたのですね」
「ああ。ルシアからすべて聞いている。お前がこの国を捨てたのではなく、捨てさせられたこともな。だが――」
彼は椅子から立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「この国の屋台骨は、すでに半分腐っておる。王が聖教国と結託し、古き封印に手を出そうとするなど……理性ある王家の者なら、誰もが反対するはずだ。だが、もう多くの者は“沈黙”を選んだ」
「叔父上……」
「私は、王国を守るつもりだ。だが、かつて追放された者を迎えるには、“正当な大義”が必要だ」
アリスターは胸の内の焦りを飲み込んで、ゆっくりと頷いた。
「それなら、用意します。私は、“今の王”よりも、この国を思っていることを証明してみせる。封印の真実を暴き、帝国への謀略を止め、民を守ってみせます」
「言葉だけなら、誰にでも言える」
「だから、行動で示します。その第一歩として……“式典の日”に、古城で起こることの証拠を突き止め、そして公の場で宣言する。私、アリスター=テオドリックが――この国を、取り戻すと」
沈黙が落ちた。だがそれは、否定の間ではなかった。
窓辺で、アルスラーンが静かに微笑んだ。
「……ふむ。昔のお前なら、思いつきで突っ走っていたかもしれぬな。だが今のお前は、“誰かのために戦う目”をしている。……変わったな、アリスター」
「仲間ができました。恋人も、妻も。私を信じてくれる者たちのために、私は――立ちます」
その言葉に、公爵はゆっくりと頷いた。
「よかろう。私の兵は動かせぬが、“私の名”は貸そう。貴族たちの中にはまだ、私の言葉に耳を傾ける者もいる。その者たちに、“次の王の器”が戻ってきたと知らせよう」
「……感謝します。叔父上」
「礼など要らぬ。だが、覚えておけ」
アルスラーンの瞳が、鋭く細められる。
「お前が王の座を望むのなら――“覚悟”だけでは足りぬ。“決断”が要る」
「……はい」
アリスターは、はっきりと答えた。
「私はこの手で、“失われたもの”を取り戻します。王家の誇りも、国の未来も」
その日、公爵邸を出るアリスターの背には、かつての王子ではない、一人の覚悟を背負った男の影があった。
その瞳の奥には、ただの復讐ではない――“継ぐ者”の強い意志が、静かに燃えていた。
「……残り一週間、か」
岩宿ダンジョンの封印の鍵。それが、ユリウスとアイラの結婚式に合わせて帝国へと渡される――つまり、その日こそが“儀式の日”になる。
式場は、王都郊外の古城。王族たちの式典や、重要な政治儀礼に使われる由緒ある場所だ。そして、そこに一族全員が集うということは、何かが動く証でもある。
「兄上が、それを見過ごすわけがない」
ヴェルト――いや、ガーランの言葉が思い出される。
《結局のところ、真に封印を解こうとする勢力は、聖教国と王国の一部で手を組んでいる。だが、“すべての王家”が賛同しているわけじゃない。》
それを証明するように、妹のルシアは、父である国王を止めようとしていた。そしてもう一人、この国の中枢で“沈黙を守っていた男”がいる。
アルスラーン・ヴァン・テオドリック公爵。現国王の弟にして、王家の中では数少ない良識派として知られる男。
「頼れるのは、叔父上だけだ……!」
アリスターはそう呟くと、手綱を強く握り、馬を走らせた。
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公爵邸の門前に立ったのは、午後の日差しが柔らかく傾き始めた頃だった。大理石の列柱が並ぶ古風な建築。かつてここで何度も叱られ、そして励まされたことを思い出し、アリスターは無意識に背筋を正した。
案内された広間には、すでにその男がいた。
「おお……久しいな、アリスター」
低く、しかし温かみのある声。堂々とした体躯に、白銀混じりの髪、冷静な眼差し――アルスラーン公爵は、歳を重ねてもなお威厳を保っていた。
「……ご無沙汰しております、叔父上」
アリスターはひざまずきかけたが、それを手で制された。
「そう堅くなるな。今は亡命王子ではなく、“戻る者”として来たのだろう?」
その一言で、アリスターの心に何かが走った。
「……知っていたのですね」
「ああ。ルシアからすべて聞いている。お前がこの国を捨てたのではなく、捨てさせられたこともな。だが――」
彼は椅子から立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「この国の屋台骨は、すでに半分腐っておる。王が聖教国と結託し、古き封印に手を出そうとするなど……理性ある王家の者なら、誰もが反対するはずだ。だが、もう多くの者は“沈黙”を選んだ」
「叔父上……」
「私は、王国を守るつもりだ。だが、かつて追放された者を迎えるには、“正当な大義”が必要だ」
アリスターは胸の内の焦りを飲み込んで、ゆっくりと頷いた。
「それなら、用意します。私は、“今の王”よりも、この国を思っていることを証明してみせる。封印の真実を暴き、帝国への謀略を止め、民を守ってみせます」
「言葉だけなら、誰にでも言える」
「だから、行動で示します。その第一歩として……“式典の日”に、古城で起こることの証拠を突き止め、そして公の場で宣言する。私、アリスター=テオドリックが――この国を、取り戻すと」
沈黙が落ちた。だがそれは、否定の間ではなかった。
窓辺で、アルスラーンが静かに微笑んだ。
「……ふむ。昔のお前なら、思いつきで突っ走っていたかもしれぬな。だが今のお前は、“誰かのために戦う目”をしている。……変わったな、アリスター」
「仲間ができました。恋人も、妻も。私を信じてくれる者たちのために、私は――立ちます」
その言葉に、公爵はゆっくりと頷いた。
「よかろう。私の兵は動かせぬが、“私の名”は貸そう。貴族たちの中にはまだ、私の言葉に耳を傾ける者もいる。その者たちに、“次の王の器”が戻ってきたと知らせよう」
「……感謝します。叔父上」
「礼など要らぬ。だが、覚えておけ」
アルスラーンの瞳が、鋭く細められる。
「お前が王の座を望むのなら――“覚悟”だけでは足りぬ。“決断”が要る」
「……はい」
アリスターは、はっきりと答えた。
「私はこの手で、“失われたもの”を取り戻します。王家の誇りも、国の未来も」
その日、公爵邸を出るアリスターの背には、かつての王子ではない、一人の覚悟を背負った男の影があった。
その瞳の奥には、ただの復讐ではない――“継ぐ者”の強い意志が、静かに燃えていた。
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