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第134話 近衛団第三隊の隊長――レオナ=エルドリッジ アリスターの幼馴染
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月は雲に隠れ、王都の夜はひときわ静けさを増していた。
王宮の一角――かつて政務の中枢を担った小広間に、蝋燭の明かりがぽつりと灯る。その下、アリスターとクレメント宰相が向かい合って座っていた。机の上には、記録の間から持ち出した複写書簡と、古びた地図、そして小さな魔導式の結界装置が置かれている。
「……本当に、よくここまで調べ上げてくれたな」
クレメントの老いた瞳が、静かにアリスターを見つめる。そこには驚愕ではなく、確かな信頼があった。
「ボクの目的は、ただ復讐じゃない。王国を、かつてのように……いや、それ以上の正義ある国にしたいんだ」
アリスターは真剣な表情で言った。その眼差しに、幼いころにはなかった“芯”が宿っていた。
「この“紅の仮面”を巡る陰謀。教会の一部、そして王族の名を騙った者たちの黒い企み……このまま放置すれば、国は中から腐っていきます」
「……わかっている。私も長年、見て見ぬふりをしてきた。だが、それが限界を迎えたことも、今ならはっきりわかる」
クレメントは書簡の一通を指先で弾く。
「“器”と“素体”――これは単なる魔術実験ではない。何らかの“降臨儀式”だ。背後に古代魔術教義か、それに類する禁術組織がある」
「その可能性は高い。だとすれば……これはもう、王国内部の問題ではない」
アリスターは羊皮紙の断片を取り出す。
「“真実の精霊”――これを使う時が来る。だが、使いどころは慎重に選ばないといけない。いくら証拠があっても、混乱を招けば“改革”ではなく“反乱”と見なされる」
「その通りだ。だからこそ、我々は段階を踏む必要がある」
クレメントは地図を開き、王都を中心とした行政区を指差した。
「まずは、中立派の貴族と軍部に接触する。お前の名は今や“追放された王子”だが、裏では根強い支持を持つ者もいる」
「ヴァン=レオポルト祖父上に忠義を誓った旧派閥……ですね」
「そうだ。そして、奴らが紅の仮面の“表の顔”である“薔薇商会”に反感を抱いていることも、我々の武器になる」
アリスターは頷いた。
「つまり、まずは“薔薇商会”の不正と黒い交易を暴き、それによって中立派を味方につける」
「その通り。そして、次に必要なのが“民意”だ。王家に失望して久しい民衆を、どう引き戻すか」
アリスターは静かに目を伏せたあと、ゆっくりと口を開く。
「……“真実の精霊”を用いるのは、その時です。民の前で、紅の仮面と教会の共謀を“見せる”。彼らの目で、耳で、体感させる」
「リスクも大きい。精霊の力が暴走すれば……」
「ボクが受け止めます。王家の血を継ぐ者として」
クレメントの目がわずかに見開かれる。彼は長く息を吐いた。
「お前は変わったな、アリスター。かつての“聡明だが我儘な王子”の面影は、もはやない」
「仲間がいるからです」
アリスターは微笑む。
「エリーゼ、ダリル、マスキュラー――皆、国を捨てられた者たちです。でも、彼らはそれでも人を助けるために剣を取り、祈り、歩いてきた」
「……その想いが、お前を変えたのか」
クレメントは一つ頷くと、懐から一通の封書を取り出した。
「これは、近衛団第三隊の隊長――レオナ=エルドリッジに宛てた私の紹介状だ。彼女は、お前がかつて剣術を学んだ相手でもある。王国再建に、きっと力を貸してくれる」
「……レオナ姉さんが?」
「お前を“まだ王子と呼ぶに相応しいかどうか”試すつもりだろうな。だが、今のお前なら……」
アリスターは封書を受け取り、そっと胸にしまった。
「ありがとう、クレメント殿。今度こそ、王国を変えてみせます」
「期待しているぞ。王子ではなく――未来の王よ」
部屋の蝋燭が、静かに揺れた。風はない。だが確かに、運命の流れが変わりつつあった。
やがて来る“審判の日”に向け、真実と覚悟を携えた者たちは、静かに歩を進めていく。
王宮の一角――かつて政務の中枢を担った小広間に、蝋燭の明かりがぽつりと灯る。その下、アリスターとクレメント宰相が向かい合って座っていた。机の上には、記録の間から持ち出した複写書簡と、古びた地図、そして小さな魔導式の結界装置が置かれている。
「……本当に、よくここまで調べ上げてくれたな」
クレメントの老いた瞳が、静かにアリスターを見つめる。そこには驚愕ではなく、確かな信頼があった。
「ボクの目的は、ただ復讐じゃない。王国を、かつてのように……いや、それ以上の正義ある国にしたいんだ」
アリスターは真剣な表情で言った。その眼差しに、幼いころにはなかった“芯”が宿っていた。
「この“紅の仮面”を巡る陰謀。教会の一部、そして王族の名を騙った者たちの黒い企み……このまま放置すれば、国は中から腐っていきます」
「……わかっている。私も長年、見て見ぬふりをしてきた。だが、それが限界を迎えたことも、今ならはっきりわかる」
クレメントは書簡の一通を指先で弾く。
「“器”と“素体”――これは単なる魔術実験ではない。何らかの“降臨儀式”だ。背後に古代魔術教義か、それに類する禁術組織がある」
「その可能性は高い。だとすれば……これはもう、王国内部の問題ではない」
アリスターは羊皮紙の断片を取り出す。
「“真実の精霊”――これを使う時が来る。だが、使いどころは慎重に選ばないといけない。いくら証拠があっても、混乱を招けば“改革”ではなく“反乱”と見なされる」
「その通りだ。だからこそ、我々は段階を踏む必要がある」
クレメントは地図を開き、王都を中心とした行政区を指差した。
「まずは、中立派の貴族と軍部に接触する。お前の名は今や“追放された王子”だが、裏では根強い支持を持つ者もいる」
「ヴァン=レオポルト祖父上に忠義を誓った旧派閥……ですね」
「そうだ。そして、奴らが紅の仮面の“表の顔”である“薔薇商会”に反感を抱いていることも、我々の武器になる」
アリスターは頷いた。
「つまり、まずは“薔薇商会”の不正と黒い交易を暴き、それによって中立派を味方につける」
「その通り。そして、次に必要なのが“民意”だ。王家に失望して久しい民衆を、どう引き戻すか」
アリスターは静かに目を伏せたあと、ゆっくりと口を開く。
「……“真実の精霊”を用いるのは、その時です。民の前で、紅の仮面と教会の共謀を“見せる”。彼らの目で、耳で、体感させる」
「リスクも大きい。精霊の力が暴走すれば……」
「ボクが受け止めます。王家の血を継ぐ者として」
クレメントの目がわずかに見開かれる。彼は長く息を吐いた。
「お前は変わったな、アリスター。かつての“聡明だが我儘な王子”の面影は、もはやない」
「仲間がいるからです」
アリスターは微笑む。
「エリーゼ、ダリル、マスキュラー――皆、国を捨てられた者たちです。でも、彼らはそれでも人を助けるために剣を取り、祈り、歩いてきた」
「……その想いが、お前を変えたのか」
クレメントは一つ頷くと、懐から一通の封書を取り出した。
「これは、近衛団第三隊の隊長――レオナ=エルドリッジに宛てた私の紹介状だ。彼女は、お前がかつて剣術を学んだ相手でもある。王国再建に、きっと力を貸してくれる」
「……レオナ姉さんが?」
「お前を“まだ王子と呼ぶに相応しいかどうか”試すつもりだろうな。だが、今のお前なら……」
アリスターは封書を受け取り、そっと胸にしまった。
「ありがとう、クレメント殿。今度こそ、王国を変えてみせます」
「期待しているぞ。王子ではなく――未来の王よ」
部屋の蝋燭が、静かに揺れた。風はない。だが確かに、運命の流れが変わりつつあった。
やがて来る“審判の日”に向け、真実と覚悟を携えた者たちは、静かに歩を進めていく。
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