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第135話 レオナ=エルドリッジとの話し合い。僕は――エリーゼと、結婚した
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西の森を越え、嘆きの谷を抜けた先に広がる静寂の草原。風が草を撫で、冷たい空気が頬をかすめていく。かつてテオドリック王国の栄光を象徴していた古城が、その大地の中央に静かに佇んでいた。
苔に覆われ、風雪に耐えた石壁はところどころ崩れていたが、それでもなお荘厳な威厳を保ち続けていた。アリスターはスプレーマムの仲間たちと共に、重く錆びついた城門を押し開けて中へと踏み込んだ。
城の空気は冷たく澄んでいた。足音が、静寂の中に響く。
アリスターの金髪が、差し込む光を受けてわずかに揺れた。目を細める彼の胸中には、忘れがたい記憶がよみがえっていた。――まだ幼かった頃、王城の中庭で剣を交わし、未来を語り合った少女。レオナ=エルドリッジ。
大広間に入ると、高い天窓から淡い光が差し込み、石の床に模様を描いていた。その中央に立っていたのは、まさしくレオナだった。
金色の髪を高く束ね、背筋を伸ばし、凛とした気品をまとって彼らを見つめている。かつて無邪気だった少女は、今や王国を支える一人の将となっていた。
「久しぶりね、アリスター」
その声音には、懐かしさと同時に年月の重みが込められていた。
アリスターは一歩前に出ると、柔らかく笑んだ。
「レオナ、君は変わらないな。強く、美しく……そして誇り高い」
静かな沈黙が二人の間に流れる。空気の密度が変わったようだった。マスキュラーが気を利かせて少し後ろへ下がり、エリーゼ、ダリルも静かにその場を見守る。
レオナは、ほんのわずかに目を伏せた。
「あなたが戻ってくる日を、私は信じていたわ。どれだけ中傷されても、どれだけ疑われても……私はずっと、あなたが真実を取り戻す日を待っていた」
「ありがとう。君のその信頼に、どれだけ支えられてきたことか……」
アリスターの言葉は穏やかだったが、その奥に宿る意志は確かだった。
そして、一拍置いて彼はゆっくりと続ける。
「――それから、報告があるんだ。君にはきちんと、伝えたかった」
レオナの瞳が静かに揺れる。
「報告?」
アリスターはすぐ隣に立つ少女を見やった。桃色の髪が光を受け、金に輝く右腕と銀の左足がわずかに反射する。エリーゼもまた、真っ直ぐに彼を見つめ返していた。
「僕は――エリーゼと、結婚した」
その言葉は、決して誇示でもなければ、躊躇もなかった。ただ、真実として、堂々と告げた。
レオナの目が見開かれたあと、驚きが柔らかな笑みに変わる。
「……そう。あなたが選んだ人……ね。きっと、並々ならぬ旅路だったのでしょう?」
「ええ。でも、彼女は強い。誰よりも……誰よりも、信じられる」
エリーゼがはにかむように笑った。
「わたしなんて、まだまだですけど。でも、王子様のことは、ずっと隣で支えていきます」
「王子様って……」
とアリスターが少し肩をすくめ、そして苦笑した。
そのやり取りに、マスキュラーが「まったく、熱々だなぁ」と豪快に笑い、ダリルも小さく咳払いしてごまかすように目をそらした。
「我ら、ちゃんと参列したんですぞ。泣きましたぞ、拙者は……感動で」
「ダリル、それ三回目だからな」
仲間たちのやりとりに、レオナも自然と笑みを深めた。
「素敵ね。あなたたちが共に在ること、きっとそれがこの国を救う力になる」
彼女の視線は、アリスターとエリーゼだけでなく、スプレーマムの仲間全員を優しく包むようだった。
「レオナ」
アリスターが一歩踏み出し、手を差し出した。
「僕は、この国を取り戻す。過去の栄光じゃなく、未来の希望として。そして、その道を、君と共に歩みたい」
レオナは目を閉じて、静かに頷くと、その手を取った。
「私はあなたの剣になるわ。新しい時代のために――そして、かつての私たちの夢のために」
その握手は、過去への和解であり、未来への誓いだった。
淡い光が差し込む城の中で、再び交わされた誓いは、かつての再会を超えて、王国に訪れる新たな夜明けの火種となった。
苔に覆われ、風雪に耐えた石壁はところどころ崩れていたが、それでもなお荘厳な威厳を保ち続けていた。アリスターはスプレーマムの仲間たちと共に、重く錆びついた城門を押し開けて中へと踏み込んだ。
城の空気は冷たく澄んでいた。足音が、静寂の中に響く。
アリスターの金髪が、差し込む光を受けてわずかに揺れた。目を細める彼の胸中には、忘れがたい記憶がよみがえっていた。――まだ幼かった頃、王城の中庭で剣を交わし、未来を語り合った少女。レオナ=エルドリッジ。
大広間に入ると、高い天窓から淡い光が差し込み、石の床に模様を描いていた。その中央に立っていたのは、まさしくレオナだった。
金色の髪を高く束ね、背筋を伸ばし、凛とした気品をまとって彼らを見つめている。かつて無邪気だった少女は、今や王国を支える一人の将となっていた。
「久しぶりね、アリスター」
その声音には、懐かしさと同時に年月の重みが込められていた。
アリスターは一歩前に出ると、柔らかく笑んだ。
「レオナ、君は変わらないな。強く、美しく……そして誇り高い」
静かな沈黙が二人の間に流れる。空気の密度が変わったようだった。マスキュラーが気を利かせて少し後ろへ下がり、エリーゼ、ダリルも静かにその場を見守る。
レオナは、ほんのわずかに目を伏せた。
「あなたが戻ってくる日を、私は信じていたわ。どれだけ中傷されても、どれだけ疑われても……私はずっと、あなたが真実を取り戻す日を待っていた」
「ありがとう。君のその信頼に、どれだけ支えられてきたことか……」
アリスターの言葉は穏やかだったが、その奥に宿る意志は確かだった。
そして、一拍置いて彼はゆっくりと続ける。
「――それから、報告があるんだ。君にはきちんと、伝えたかった」
レオナの瞳が静かに揺れる。
「報告?」
アリスターはすぐ隣に立つ少女を見やった。桃色の髪が光を受け、金に輝く右腕と銀の左足がわずかに反射する。エリーゼもまた、真っ直ぐに彼を見つめ返していた。
「僕は――エリーゼと、結婚した」
その言葉は、決して誇示でもなければ、躊躇もなかった。ただ、真実として、堂々と告げた。
レオナの目が見開かれたあと、驚きが柔らかな笑みに変わる。
「……そう。あなたが選んだ人……ね。きっと、並々ならぬ旅路だったのでしょう?」
「ええ。でも、彼女は強い。誰よりも……誰よりも、信じられる」
エリーゼがはにかむように笑った。
「わたしなんて、まだまだですけど。でも、王子様のことは、ずっと隣で支えていきます」
「王子様って……」
とアリスターが少し肩をすくめ、そして苦笑した。
そのやり取りに、マスキュラーが「まったく、熱々だなぁ」と豪快に笑い、ダリルも小さく咳払いしてごまかすように目をそらした。
「我ら、ちゃんと参列したんですぞ。泣きましたぞ、拙者は……感動で」
「ダリル、それ三回目だからな」
仲間たちのやりとりに、レオナも自然と笑みを深めた。
「素敵ね。あなたたちが共に在ること、きっとそれがこの国を救う力になる」
彼女の視線は、アリスターとエリーゼだけでなく、スプレーマムの仲間全員を優しく包むようだった。
「レオナ」
アリスターが一歩踏み出し、手を差し出した。
「僕は、この国を取り戻す。過去の栄光じゃなく、未来の希望として。そして、その道を、君と共に歩みたい」
レオナは目を閉じて、静かに頷くと、その手を取った。
「私はあなたの剣になるわ。新しい時代のために――そして、かつての私たちの夢のために」
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淡い光が差し込む城の中で、再び交わされた誓いは、かつての再会を超えて、王国に訪れる新たな夜明けの火種となった。
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