婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第136話 レオナ、仲間になる。彼らは、人としての心を失っている。

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時が静かに流れていた。

 石造りの大広間に、遠く風の唸りが響く。城の外では草原を渡る風が唸りを上げていたが、ここには重く厳粛な空気が支配していた。

 アリスターはレオナの手をそっと離し、深く息を吸った。そして、仲間たちの方へ視線をやると、静かに頷く。エリーゼが小さく笑みを返し、ダリルとマスキュラーも真剣な表情でうなずいた。

 ――今こそ、語るときだ。

「レオナ」

 アリスターは改めて彼女を見据え、まっすぐに言葉を紡ぐ。

「君に、王都で起きている真実を伝えなければならない。これは……この国の命運を分けることになる話だ」

 レオナの表情が引き締まる。
「……聞かせて」

「テオドリック王国の現王――僕の父、そして弟は……すでに、人としての心を失っている。彼らは、自らの意思で魔族と契約を交わし、魂を売ったんだ」

「な……」

 さすがのレオナも目を見開き、息を呑んだ。

「民を欺き、反対する者を処刑し、口封じに多くの無実の者たちを追放した。その一環として、僕も……」

 アリスターは目を伏せ、ほんの一瞬、唇を噛み締めた。

「すでに、王都には魔族の尖兵が入り込んでいる。だが奴らは人の姿をとり、王侯貴族と手を組み、巧妙に民を支配している。見えぬ鎖で、この国は縛られているんだ」

 レオナの瞳に苦悩の色が滲む。

「まさか……そこまで深く……」

 アリスターはそっと手を掲げた。彼の掌に、淡い銀光が宿る。

「だが、僕たちには希望がある」

 その光は、まるで風にたゆたう羽のように揺れながら、心地よい暖かさを周囲に放っていた。エリーゼが一歩前に出て、補足する。

「これは“真実の精霊”の加護。隠されたものを暴き、偽りを打ち砕く力……アリスターはそれを受け継いだの。王家に流れる、精霊王との古き契約の証よ」

 マスキュラーが力強くうなずく。

「王家の血が、真実を照らす。それが、こいつの運命だったってことだな」

 アリスターは、手のひらの光を握りしめるようにして、レオナを見据えた。

「僕は、この力で、王都に巣食う魔族の支配を暴く。民の前で、彼らの偽りを白日の下に晒す。そして――僕自身が、この国の新たな王となる」

 その言葉には、重みがあった。かつて王子だった男が、流浪と屈辱を乗り越え、いま一度“王”として立つ覚悟。

「……本気なのね」

 レオナが呟いた。

「王家を……あなたの父や弟を、討つ覚悟があるの?」

「ある。僕は、血筋で玉座を奪い返すつもりはない。正義と真実、そして民の意思によって、王になる。それが、この国を救う唯一の道だから」

 エリーゼがそっと彼の腕に触れる。彼女の微笑みに、アリスターもまた優しく微笑んだ。

「君には……力を貸してほしい、レオナ。僕は君を、軍の柱として信頼している。かつての仲間として、そして、王として共に歩んでほしい」

 レオナはしばらく何も言わなかった。静かに、深く思考の海に潜るように目を伏せ、唇を引き結ぶ。

 だが、その瞳が再び開かれたとき――そこには、かつて見たことのないほどの強い意志が宿っていた。

「わたしは……かつて、あなたと語り合った未来を、心から信じていた。けれど、現実はあまりに残酷だった。国は腐り、仲間は追われ、民は苦しんでいる」

 レオナは静かに剣の柄に手を置いた。

「でも、今なら分かる。あなたが、嘘を言わない人間だってこと。……アリスター、私はあなたの剣になる。新たな王としての覚悟に、私の力を預けるわ」

 アリスターは深く頷いた。

「ありがとう、レオナ。君がいてくれるなら……僕は、何も恐れることはない」

 レオナがほんの少し微笑んだ。

「でも、念を押しておくわ。敵は、外にも内にもいる。偽りを信じ、あなたを悪として憎む者もいる。そんな彼らすらも救う覚悟が、王には必要よ」

「その覚悟も、もう決めている。僕は全てを背負って、進む。君と、そしてこの仲間たちとともに」

 エリーゼがうなずき、マスキュラーが拳を握りしめ、ダリルがまっすぐ前を見据える。

「ふむ、ならば拙者も全力で王の参謀として働かねばなるまいな」

「俺ぁ、軍の壁だな。最前線に立って、国民のために暴れてやるぜ!」

「わたしは、ただ隣で……王子様の力になりたいだけです」

 その言葉に、アリスターは目を細め、そっとエリーゼの手を取った。

 淡い光が天窓から差し込み、精霊の光と混ざり合う。

 過去の王宮を象徴した城は今、未来を誓う場となった。

 この日、かつての王子アリスターは、真実を掲げて新たな王としての一歩を踏み出し、その旅路に、かつての友レオナの剣が加わった。

 夜明け前の静寂は破られ、新たな光が、大地を包もうとしていた。
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