135 / 179
第134話 近衛団第三隊の隊長――レオナ=エルドリッジ アリスターの幼馴染
しおりを挟む
月は雲に隠れ、王都の夜はひときわ静けさを増していた。
王宮の一角――かつて政務の中枢を担った小広間に、蝋燭の明かりがぽつりと灯る。その下、アリスターとクレメント宰相が向かい合って座っていた。机の上には、記録の間から持ち出した複写書簡と、古びた地図、そして小さな魔導式の結界装置が置かれている。
「……本当に、よくここまで調べ上げてくれたな」
クレメントの老いた瞳が、静かにアリスターを見つめる。そこには驚愕ではなく、確かな信頼があった。
「ボクの目的は、ただ復讐じゃない。王国を、かつてのように……いや、それ以上の正義ある国にしたいんだ」
アリスターは真剣な表情で言った。その眼差しに、幼いころにはなかった“芯”が宿っていた。
「この“紅の仮面”を巡る陰謀。教会の一部、そして王族の名を騙った者たちの黒い企み……このまま放置すれば、国は中から腐っていきます」
「……わかっている。私も長年、見て見ぬふりをしてきた。だが、それが限界を迎えたことも、今ならはっきりわかる」
クレメントは書簡の一通を指先で弾く。
「“器”と“素体”――これは単なる魔術実験ではない。何らかの“降臨儀式”だ。背後に古代魔術教義か、それに類する禁術組織がある」
「その可能性は高い。だとすれば……これはもう、王国内部の問題ではない」
アリスターは羊皮紙の断片を取り出す。
「“真実の精霊”――これを使う時が来る。だが、使いどころは慎重に選ばないといけない。いくら証拠があっても、混乱を招けば“改革”ではなく“反乱”と見なされる」
「その通りだ。だからこそ、我々は段階を踏む必要がある」
クレメントは地図を開き、王都を中心とした行政区を指差した。
「まずは、中立派の貴族と軍部に接触する。お前の名は今や“追放された王子”だが、裏では根強い支持を持つ者もいる」
「ヴァン=レオポルト祖父上に忠義を誓った旧派閥……ですね」
「そうだ。そして、奴らが紅の仮面の“表の顔”である“薔薇商会”に反感を抱いていることも、我々の武器になる」
アリスターは頷いた。
「つまり、まずは“薔薇商会”の不正と黒い交易を暴き、それによって中立派を味方につける」
「その通り。そして、次に必要なのが“民意”だ。王家に失望して久しい民衆を、どう引き戻すか」
アリスターは静かに目を伏せたあと、ゆっくりと口を開く。
「……“真実の精霊”を用いるのは、その時です。民の前で、紅の仮面と教会の共謀を“見せる”。彼らの目で、耳で、体感させる」
「リスクも大きい。精霊の力が暴走すれば……」
「ボクが受け止めます。王家の血を継ぐ者として」
クレメントの目がわずかに見開かれる。彼は長く息を吐いた。
「お前は変わったな、アリスター。かつての“聡明だが我儘な王子”の面影は、もはやない」
「仲間がいるからです」
アリスターは微笑む。
「エリーゼ、ダリル、マスキュラー――皆、国を捨てられた者たちです。でも、彼らはそれでも人を助けるために剣を取り、祈り、歩いてきた」
「……その想いが、お前を変えたのか」
クレメントは一つ頷くと、懐から一通の封書を取り出した。
「これは、近衛団第三隊の隊長――レオナ=エルドリッジに宛てた私の紹介状だ。彼女は、お前がかつて剣術を学んだ相手でもある。王国再建に、きっと力を貸してくれる」
「……レオナ姉さんが?」
「お前を“まだ王子と呼ぶに相応しいかどうか”試すつもりだろうな。だが、今のお前なら……」
アリスターは封書を受け取り、そっと胸にしまった。
「ありがとう、クレメント殿。今度こそ、王国を変えてみせます」
「期待しているぞ。王子ではなく――未来の王よ」
部屋の蝋燭が、静かに揺れた。風はない。だが確かに、運命の流れが変わりつつあった。
やがて来る“審判の日”に向け、真実と覚悟を携えた者たちは、静かに歩を進めていく。
王宮の一角――かつて政務の中枢を担った小広間に、蝋燭の明かりがぽつりと灯る。その下、アリスターとクレメント宰相が向かい合って座っていた。机の上には、記録の間から持ち出した複写書簡と、古びた地図、そして小さな魔導式の結界装置が置かれている。
「……本当に、よくここまで調べ上げてくれたな」
クレメントの老いた瞳が、静かにアリスターを見つめる。そこには驚愕ではなく、確かな信頼があった。
「ボクの目的は、ただ復讐じゃない。王国を、かつてのように……いや、それ以上の正義ある国にしたいんだ」
アリスターは真剣な表情で言った。その眼差しに、幼いころにはなかった“芯”が宿っていた。
「この“紅の仮面”を巡る陰謀。教会の一部、そして王族の名を騙った者たちの黒い企み……このまま放置すれば、国は中から腐っていきます」
「……わかっている。私も長年、見て見ぬふりをしてきた。だが、それが限界を迎えたことも、今ならはっきりわかる」
クレメントは書簡の一通を指先で弾く。
「“器”と“素体”――これは単なる魔術実験ではない。何らかの“降臨儀式”だ。背後に古代魔術教義か、それに類する禁術組織がある」
「その可能性は高い。だとすれば……これはもう、王国内部の問題ではない」
アリスターは羊皮紙の断片を取り出す。
「“真実の精霊”――これを使う時が来る。だが、使いどころは慎重に選ばないといけない。いくら証拠があっても、混乱を招けば“改革”ではなく“反乱”と見なされる」
「その通りだ。だからこそ、我々は段階を踏む必要がある」
クレメントは地図を開き、王都を中心とした行政区を指差した。
「まずは、中立派の貴族と軍部に接触する。お前の名は今や“追放された王子”だが、裏では根強い支持を持つ者もいる」
「ヴァン=レオポルト祖父上に忠義を誓った旧派閥……ですね」
「そうだ。そして、奴らが紅の仮面の“表の顔”である“薔薇商会”に反感を抱いていることも、我々の武器になる」
アリスターは頷いた。
「つまり、まずは“薔薇商会”の不正と黒い交易を暴き、それによって中立派を味方につける」
「その通り。そして、次に必要なのが“民意”だ。王家に失望して久しい民衆を、どう引き戻すか」
アリスターは静かに目を伏せたあと、ゆっくりと口を開く。
「……“真実の精霊”を用いるのは、その時です。民の前で、紅の仮面と教会の共謀を“見せる”。彼らの目で、耳で、体感させる」
「リスクも大きい。精霊の力が暴走すれば……」
「ボクが受け止めます。王家の血を継ぐ者として」
クレメントの目がわずかに見開かれる。彼は長く息を吐いた。
「お前は変わったな、アリスター。かつての“聡明だが我儘な王子”の面影は、もはやない」
「仲間がいるからです」
アリスターは微笑む。
「エリーゼ、ダリル、マスキュラー――皆、国を捨てられた者たちです。でも、彼らはそれでも人を助けるために剣を取り、祈り、歩いてきた」
「……その想いが、お前を変えたのか」
クレメントは一つ頷くと、懐から一通の封書を取り出した。
「これは、近衛団第三隊の隊長――レオナ=エルドリッジに宛てた私の紹介状だ。彼女は、お前がかつて剣術を学んだ相手でもある。王国再建に、きっと力を貸してくれる」
「……レオナ姉さんが?」
「お前を“まだ王子と呼ぶに相応しいかどうか”試すつもりだろうな。だが、今のお前なら……」
アリスターは封書を受け取り、そっと胸にしまった。
「ありがとう、クレメント殿。今度こそ、王国を変えてみせます」
「期待しているぞ。王子ではなく――未来の王よ」
部屋の蝋燭が、静かに揺れた。風はない。だが確かに、運命の流れが変わりつつあった。
やがて来る“審判の日”に向け、真実と覚悟を携えた者たちは、静かに歩を進めていく。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる