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第133話 記録の間 ……だからこそ、“真実の精霊”が必要なんだ
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記録の間――それは、王城の中でも限られた者しか入れぬ、封印された空間だった。
石畳の廊下を進むアリスターの足音が、乾いた音を立てて響く。宰相クレメントに導かれ、王族としての資格を証明した彼は、正式にこの場所への立ち入りを許された。
「ここが……記録の間か」
厚く重い扉が、金属の軋みとともに開かれる。中は薄暗く、蝋燭の灯りが所々にともされている。高くそびえる棚には、年代別に分けられた巻物や書簡、簿冊がぎっしりと詰まっていた。王家の政治・軍事・宗教・財政――あらゆる記録がここに眠っている。
「……まるで、時間そのものが堆積しているようだ」
アリスターは、手袋を外すと指先で一冊の古い簿冊を撫でた。布に包まれた背表紙には、かすれた金文字が刻まれている。
“第二十二代王・ヴァン=レオポルト統治期 宰相報告録”
そしてその背後にある棚には、アリスターの父・現国王の治世が始まった年の記録も並んでいた。
アリスターは、父の治世初期の数年分を抜き出し、近くの机に並べた。
「……婚約破棄、王子失踪、そして“紅の仮面”に関する記述……どれかが、どこかに繋がっているはず」
時折、目を閉じて記憶を呼び起こしながら、彼は慎重にページをめくっていく。淡々とした予算報告の間に、時折目を引く文言がある。
――「黒の薔薇商会との貿易協議」
――「南部聖堂の祭祀再編に伴う人員移動」
――「第六騎士団の新規配属に不審あり、報告照合中」
どれも単体では些細だが、点を繋げば線になる。アリスターは、かつて王城で育った日々、何気なく耳にした言葉の数々を思い出していった。
「……この記録、妙だ」
ある報告書の署名が、明らかに書記の筆跡と異なっていた。しかも、その報告は他の文書に書かれた内容と矛盾している。
「改ざんされた……?」
アリスターは目を細めた。指先でページの隅を軽くこすれば、そこには消されかけた文字がかすかに残っていた。
“ユグド教会 黒の儀式”
“東地区墓地より子供の遺骸”
「……まさか」
王家が密かに関与していた禁術に関する噂は、かつて都の貧民街で囁かれていた。だが、証拠はなかった。だがこれが事実なら、教会と結託した一部の貴族が、何か――
「……これだ」
別の簿冊に、焼け焦げたような跡がある書簡を見つけた。アリスターは慎重に広げた。
“第六騎士団隊長・エルンスト殿
紅の仮面の件、例の神殿より“器”の選定が完了したとの報。
御子息に相応しき“素体”が用意され次第、次段階へ移行せよ。”
アリスターの背筋に冷たいものが走った。
器。素体。まるで、人間ではない何かを生み出そうとする研究のようだ。
「……やはり“紅の仮面”は、教会と一部貴族が関与していた……」
このままでは、王国はただ腐敗の中で崩れていく。だが今や、正面から糾弾すればただちに粛清される。王子であろうと、いや、王子だからこそ。
「……だからこそ、“真実の精霊”が必要なんだ」
彼の掌には、王の石室で得た“羊皮紙”の断片があった。契約によって呼び出せる精霊の力――すべての者に“真実”を見せる、逃れられぬ審判。
それを使えば、王宮の民も、貴族も、兵も、誰ひとりとして否定できぬ“証”を突きつけられる。
アリスターは息を吐き、書簡の写しを取りまとめた。
――これを持って、クレメント宰相の元へ戻る。
「……ボクは、過去に敗れた。でも今は違う。仲間がいて、支えてくれる人がいる」
彼の頭に浮かぶのは、剣を携えるエリーゼの微笑、黙して背を守るマスキュラー、そして共に祈るダリルの眼差し。
「だから、今度は……逃げない」
記録の間の扉が、静かに閉じられる。闇に沈んでいた王国の過去に、ひとつ、光が差し込んだ瞬間だった。
石畳の廊下を進むアリスターの足音が、乾いた音を立てて響く。宰相クレメントに導かれ、王族としての資格を証明した彼は、正式にこの場所への立ち入りを許された。
「ここが……記録の間か」
厚く重い扉が、金属の軋みとともに開かれる。中は薄暗く、蝋燭の灯りが所々にともされている。高くそびえる棚には、年代別に分けられた巻物や書簡、簿冊がぎっしりと詰まっていた。王家の政治・軍事・宗教・財政――あらゆる記録がここに眠っている。
「……まるで、時間そのものが堆積しているようだ」
アリスターは、手袋を外すと指先で一冊の古い簿冊を撫でた。布に包まれた背表紙には、かすれた金文字が刻まれている。
“第二十二代王・ヴァン=レオポルト統治期 宰相報告録”
そしてその背後にある棚には、アリスターの父・現国王の治世が始まった年の記録も並んでいた。
アリスターは、父の治世初期の数年分を抜き出し、近くの机に並べた。
「……婚約破棄、王子失踪、そして“紅の仮面”に関する記述……どれかが、どこかに繋がっているはず」
時折、目を閉じて記憶を呼び起こしながら、彼は慎重にページをめくっていく。淡々とした予算報告の間に、時折目を引く文言がある。
――「黒の薔薇商会との貿易協議」
――「南部聖堂の祭祀再編に伴う人員移動」
――「第六騎士団の新規配属に不審あり、報告照合中」
どれも単体では些細だが、点を繋げば線になる。アリスターは、かつて王城で育った日々、何気なく耳にした言葉の数々を思い出していった。
「……この記録、妙だ」
ある報告書の署名が、明らかに書記の筆跡と異なっていた。しかも、その報告は他の文書に書かれた内容と矛盾している。
「改ざんされた……?」
アリスターは目を細めた。指先でページの隅を軽くこすれば、そこには消されかけた文字がかすかに残っていた。
“ユグド教会 黒の儀式”
“東地区墓地より子供の遺骸”
「……まさか」
王家が密かに関与していた禁術に関する噂は、かつて都の貧民街で囁かれていた。だが、証拠はなかった。だがこれが事実なら、教会と結託した一部の貴族が、何か――
「……これだ」
別の簿冊に、焼け焦げたような跡がある書簡を見つけた。アリスターは慎重に広げた。
“第六騎士団隊長・エルンスト殿
紅の仮面の件、例の神殿より“器”の選定が完了したとの報。
御子息に相応しき“素体”が用意され次第、次段階へ移行せよ。”
アリスターの背筋に冷たいものが走った。
器。素体。まるで、人間ではない何かを生み出そうとする研究のようだ。
「……やはり“紅の仮面”は、教会と一部貴族が関与していた……」
このままでは、王国はただ腐敗の中で崩れていく。だが今や、正面から糾弾すればただちに粛清される。王子であろうと、いや、王子だからこそ。
「……だからこそ、“真実の精霊”が必要なんだ」
彼の掌には、王の石室で得た“羊皮紙”の断片があった。契約によって呼び出せる精霊の力――すべての者に“真実”を見せる、逃れられぬ審判。
それを使えば、王宮の民も、貴族も、兵も、誰ひとりとして否定できぬ“証”を突きつけられる。
アリスターは息を吐き、書簡の写しを取りまとめた。
――これを持って、クレメント宰相の元へ戻る。
「……ボクは、過去に敗れた。でも今は違う。仲間がいて、支えてくれる人がいる」
彼の頭に浮かぶのは、剣を携えるエリーゼの微笑、黙して背を守るマスキュラー、そして共に祈るダリルの眼差し。
「だから、今度は……逃げない」
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