婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

文字の大きさ
134 / 179

第133話 記録の間 ……だからこそ、“真実の精霊”が必要なんだ

しおりを挟む
記録の間――それは、王城の中でも限られた者しか入れぬ、封印された空間だった。

 石畳の廊下を進むアリスターの足音が、乾いた音を立てて響く。宰相クレメントに導かれ、王族としての資格を証明した彼は、正式にこの場所への立ち入りを許された。

 「ここが……記録の間か」

 厚く重い扉が、金属の軋みとともに開かれる。中は薄暗く、蝋燭の灯りが所々にともされている。高くそびえる棚には、年代別に分けられた巻物や書簡、簿冊がぎっしりと詰まっていた。王家の政治・軍事・宗教・財政――あらゆる記録がここに眠っている。

 「……まるで、時間そのものが堆積しているようだ」

 アリスターは、手袋を外すと指先で一冊の古い簿冊を撫でた。布に包まれた背表紙には、かすれた金文字が刻まれている。

 “第二十二代王・ヴァン=レオポルト統治期 宰相報告録”

 そしてその背後にある棚には、アリスターの父・現国王の治世が始まった年の記録も並んでいた。

 アリスターは、父の治世初期の数年分を抜き出し、近くの机に並べた。

 「……婚約破棄、王子失踪、そして“紅の仮面”に関する記述……どれかが、どこかに繋がっているはず」

 時折、目を閉じて記憶を呼び起こしながら、彼は慎重にページをめくっていく。淡々とした予算報告の間に、時折目を引く文言がある。

 ――「黒の薔薇商会との貿易協議」
 ――「南部聖堂の祭祀再編に伴う人員移動」
 ――「第六騎士団の新規配属に不審あり、報告照合中」

 どれも単体では些細だが、点を繋げば線になる。アリスターは、かつて王城で育った日々、何気なく耳にした言葉の数々を思い出していった。

 「……この記録、妙だ」

 ある報告書の署名が、明らかに書記の筆跡と異なっていた。しかも、その報告は他の文書に書かれた内容と矛盾している。

 「改ざんされた……?」

 アリスターは目を細めた。指先でページの隅を軽くこすれば、そこには消されかけた文字がかすかに残っていた。

 “ユグド教会 黒の儀式”
 “東地区墓地より子供の遺骸”

 「……まさか」

 王家が密かに関与していた禁術に関する噂は、かつて都の貧民街で囁かれていた。だが、証拠はなかった。だがこれが事実なら、教会と結託した一部の貴族が、何か――

 「……これだ」

 別の簿冊に、焼け焦げたような跡がある書簡を見つけた。アリスターは慎重に広げた。

 “第六騎士団隊長・エルンスト殿
 紅の仮面の件、例の神殿より“器”の選定が完了したとの報。
 御子息に相応しき“素体”が用意され次第、次段階へ移行せよ。”

 アリスターの背筋に冷たいものが走った。

 器。素体。まるで、人間ではない何かを生み出そうとする研究のようだ。

 「……やはり“紅の仮面”は、教会と一部貴族が関与していた……」

 このままでは、王国はただ腐敗の中で崩れていく。だが今や、正面から糾弾すればただちに粛清される。王子であろうと、いや、王子だからこそ。

 「……だからこそ、“真実の精霊”が必要なんだ」

 彼の掌には、王の石室で得た“羊皮紙”の断片があった。契約によって呼び出せる精霊の力――すべての者に“真実”を見せる、逃れられぬ審判。

 それを使えば、王宮の民も、貴族も、兵も、誰ひとりとして否定できぬ“証”を突きつけられる。

 アリスターは息を吐き、書簡の写しを取りまとめた。

 ――これを持って、クレメント宰相の元へ戻る。

 「……ボクは、過去に敗れた。でも今は違う。仲間がいて、支えてくれる人がいる」

 彼の頭に浮かぶのは、剣を携えるエリーゼの微笑、黙して背を守るマスキュラー、そして共に祈るダリルの眼差し。

 「だから、今度は……逃げない」

 記録の間の扉が、静かに閉じられる。闇に沈んでいた王国の過去に、ひとつ、光が差し込んだ瞬間だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...