婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第138話 エリーゼとレオナ エリーゼ。会っておきたかったの。あなたに

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王都の砦に夜が迫っていた。

 明日はいよいよ、紅の仮面率いる反乱軍との決戦。静まり返った砦の中庭には、どこか張り詰めた空気が漂っていた。そこに、ひとりの影が現れる。金茶の髪を風に靡かせた女性――副司令官レオナ・マディリス。整った顔立ちは鋭く、だがどこか物憂げな光を帯びている。

 そして、もうひとりの影がその場に現れた。

 桃色の長髪を結い、白銀の鎧に身を包んだ剣聖。エリーゼ=アルセリア。スプレーマムのメンバーであり、そして、アリスター=テオドリックの正式な妻である。

 二人の視線が交差し、わずかに空気が動いた。

「隊長……いえ、レオナさん、ですね」

 エリーゼが一礼する。対するレオナは、短く頷くだけだった。

「初めまして、エリーゼ。会っておきたかったの。あなたに」

 その声は静かで、だが揺るぎない意志を含んでいた。

「わたしも……レオナさんにお礼が言いたくて。アリスターを、支えてくれていたことに」

 エリーゼはまっすぐにそう言った。レオナの瞳が一瞬、揺れた。

「……ふふ。あの人、やっぱり言ってないのね。私と、どんな関係だったか」

 エリーゼは、ゆっくり首を振った。

「詳しくは。でも、あなたのことを話すとき、アリスターの声がどこか懐かしそうで、優しくて……。だからきっと、大切な人だったんだって、思ってました」

 レオナは小さく笑った。その笑みは、ほんの少し寂しげだった。

「……昔話になるけど、私とアリスターは、幼なじみだったの」

「幼なじみ……」

「正確には、王宮に仕える騎士の娘と、王子。身分も、立場も違ったけど――それでも一緒に剣を振るって、夢を語った仲だった」

 語る声には、抑えきれない過去の情がにじんでいた。

「わたし、ずっと……アリスターの隣にいたかった。でも、叶わなかった。彼はいつだって、まっすぐで、不器用で、優しすぎるくらい優しくて……」

「その気持ち、わかる気がします」

 エリーゼがそっと言った。

「彼の優しさは、全部を抱えてしまう優しさ。だからこそ、誰かがその手を、強く握らなきゃいけないって……そう思ったんです」

 ふっと、レオナの顔がやわらぐ。

「あなたが彼の隣にいることに、嫉妬しないと言えば嘘になる。でも――納得はしてる。彼が誰を選ぶか、それは……あの人自身が決めることだから」

 静かに、レオナは続けた。

「聞いたわ。彼と、正式に結婚したって」

 エリーゼは照れるように頷いた。

「はい。彼から、指輪をもらいました。……こんな世の中でも、あなたとなら未来を信じられるって」

「……あの人らしい言葉ね」

 レオナは目を伏せた。だがその表情に、後悔の色はなかった。

「悔しいけど……あなたを、嫌いにはなれないわ。今のあなたを見ていれば、アリスターが惚れ込む理由がわかるもの」

 エリーゼは驚いたように目を見開き、やがて少しだけ笑った。

「ありがとうございます。けど、わたしも、あなたを尊敬しています。レオナさんがいたから、アリスターはここまで来られた。わたしの知らない彼の過去を、守ってくれたんですよね」

「……過去を守る女と、未来を共に歩く女。ふたりが対面するなんて、小説みたいだわ」

「でも、わたしたちは戦士です。過去も未来も、守りたいと思う限り、剣を取らなきゃならない」

「ええ。明日は、あなたの隣に立たせて。私も、この国の未来のために剣を振るう」

 その言葉に、エリーゼはまっすぐ頷いた。

「心強いです。あなたと背中を預け合えるなら、明日もきっと、乗り越えられる気がします」

 二人の間に、もう敵意もわだかまりもなかった。ただ、同じ人を想い、別の角度から愛した者同士の、静かな絆だけがあった。

「最後に、一つだけ聞かせて」

 レオナが一歩、距離を詰めて問いかけた。

「彼にとって、あなたは……何になりたいの?」

 エリーゼは目を伏せ、短く息を吸い、それからまっすぐレオナの目を見て、答えた。

「……彼が“帰る場所”でいられたら、それだけでいいんです。王でも、魔導士でもない――ただのアリスターに戻れる場所。そんな、たったひとつの場所に」

 沈黙の中、レオナの目がわずかに潤む。

「……それなら、もう何も言えないわ。あなたなら、彼を幸せにできる」

「はい。絶対に、幸せにします」

 二人は互いに深く頷きあった。

 戦場に出れば、運命はどう転ぶかわからない。それでも――この夜だけは、静かに交わした誓いが、彼女たちの胸に刻まれていた。

 過去を守った女と、未来を託された女。

 明日、彼女たちは肩を並べて戦場に立つ。ひとりの男を信じ、彼を愛した者同士として――。
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