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第149話 エリーゼ捜索隊、聖教国マケドニアに到着する。
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かつての聖教国マケドニアは、信徒以外の者にとって鉄の門のごとき閉鎖性を持っていた。
だが今、その門が開かれたという。異教徒であれ、客人として手続きを踏めば入国が可能となった。
その情報を聞いた時、私はすぐに準備を整えた。
「聖教国に入る。目的は、エリーゼ殿との面会だ」
私は、シャルル殿下に仕える近衛騎士隊長、キリエム・エルネスト。若いとはいえ武勲と識見を備えた騎士として王宮にその名を知られている。
今回の旅の目的はただ一つ。剣聖と呼ばれるまでになったかつての王子婚約者、エリーゼ=アルセリアと話をすることだった。
彼女の力、その影響力、そして現在の立ち位置を、我が国テオドリック王国としても正確に把握する必要があった。私的には、殿下の名誉回復の布石ともなり得るからだ。
一週間の行軍を経て、私はマケドニアの神都ルシェルに到着した。
街の景色は想像していたよりも穏やかで、何より民の表情に怯えがなかったのが印象的だった。これは、最近この国で何かが変わった証だ。
私と護衛二名は街外れの宿に滞在し、翌朝、神殿に出向いた。
「剣聖エリーゼ殿と面会を希望する。テオドリック王国からの使節として参った」
神殿の受付にそう伝えると、若い修道士が困ったように眉をひそめ、奥へと引っ込んだ。数分後、年配の神官が現れ、静かな声でこう言った。
「申し訳ありませんが、剣聖殿はすでにこちらにはおられません」
その言葉に、私はほんのわずか、視線を鋭くした。
「では、どちらに? 行き先を教えていただきたい」
「それは……機密事項となっております。ご理解を」
穏やかだが頑なな口調だった。私の立場を説明しても、国家間の機密として処理されている様子は変わらなかった。
だが、神殿側はこうも言った。
「いずれ公表される内容でもあります。ご滞在の予定があるのであれば、数日お待ちいただければ、事実は明らかになるでしょう」
仕方がない。私たちは宿へ戻り、街に耳を張りながら動向を見守ることにした。
それから一週間──
その日は風が強かった。街角の新聞売りが叫んでいた言葉は、私の足を止めるに十分だった。
「テオドリック王都が襲撃! 魔族による召喚儀式! グレイ王とユリウス王子が重傷! だが救国の英雄が出現!」
私は紙幣を握りしめ、新聞を奪い取るように受け取った。
視線が見出しを走る。
《王都を覆った悪魔の影! 現れた剣聖の一閃が、王国を、そして大陸を救った!》
信じられない思いで目を凝らす。
写真は粗く、顔は識別できないが、確かに白銀の剣を振るう女性の姿があった。その下には、勇者の名が太字で記されていた。
エリーゼ=アルセリア。
──やはり、彼女だった。
詳細にはこうあった。
王都にて、魔族の残党による大規模な召喚儀式が行われ、かつて封印された悪魔が現世に現れた。
その際、国王グレイ陛下、第二王子ユリウス殿下、そして聖女が、いずれも重傷を負ったという。
だが、突如現れた冒険者パーティー“スプレーマム”が王宮内へ突入し、最奥で悪魔の核を討ち果たした。中心人物として名が挙がったのが剣聖エリーゼ。
彼女の一閃が、世界の均衡を守ったのだと、新聞は讃えていた。
「……素晴らしい」
私は思わず声を漏らした。
冷静を装っていたが、内心は感動に打ち震えていた。
あの王宮で、訓練場の片隅で剣を振るっていたあの少女が、今やこの大陸の秩序を支える存在になったという事実。
──いや、これはただの感傷ではない。
我がテレオンハルト王国にとっても、誠に大きな意味を持つ。
テオドリックの王都が壊滅せずに済んだ。王家が存続した。国の威信が守られたのは、他でもない、エリーゼの力によるものだ。
そしてそのエリーゼは、レインハルト王国の侯爵令嬢であり、シャルル王子の元婚約者である存在。
人脈とは、時として国家の運命をも変える。私は改めて実感していた。
その晩、宿の部屋で報告書を記した。
主文にはこう記した。
報告:剣聖エリーゼ=アルセリアの活躍と現状に関する一考察
一、マケドニア神殿には不在、行き先は機密とされていたが、現在テオドリック王都で魔族による召喚儀式を阻止し、悪魔を討伐したとの報。
二、王家(国王、王子、聖女)は重傷を負うも命は助かり、王都は守られた。これは我が国にとっても計り知れぬ恩恵である。
三、剣聖エリーゼの影響力、戦力、そして周囲の人脈(スプレーマム)は、今後国際的な秩序にも関わる重要要素と見なすべき。
四、彼女が元・王子妃候補であることは、今後の外交において無視しえない事実となる。
私はペンを置き、静かに息をついた。
……次に彼女と会う時、私はいち騎士としてではなく、彼女の偉業に敬意を払う一人の人間として、接するべきかもしれない。
そう思わせるに足る、偉大な一歩だった。
だが今、その門が開かれたという。異教徒であれ、客人として手続きを踏めば入国が可能となった。
その情報を聞いた時、私はすぐに準備を整えた。
「聖教国に入る。目的は、エリーゼ殿との面会だ」
私は、シャルル殿下に仕える近衛騎士隊長、キリエム・エルネスト。若いとはいえ武勲と識見を備えた騎士として王宮にその名を知られている。
今回の旅の目的はただ一つ。剣聖と呼ばれるまでになったかつての王子婚約者、エリーゼ=アルセリアと話をすることだった。
彼女の力、その影響力、そして現在の立ち位置を、我が国テオドリック王国としても正確に把握する必要があった。私的には、殿下の名誉回復の布石ともなり得るからだ。
一週間の行軍を経て、私はマケドニアの神都ルシェルに到着した。
街の景色は想像していたよりも穏やかで、何より民の表情に怯えがなかったのが印象的だった。これは、最近この国で何かが変わった証だ。
私と護衛二名は街外れの宿に滞在し、翌朝、神殿に出向いた。
「剣聖エリーゼ殿と面会を希望する。テオドリック王国からの使節として参った」
神殿の受付にそう伝えると、若い修道士が困ったように眉をひそめ、奥へと引っ込んだ。数分後、年配の神官が現れ、静かな声でこう言った。
「申し訳ありませんが、剣聖殿はすでにこちらにはおられません」
その言葉に、私はほんのわずか、視線を鋭くした。
「では、どちらに? 行き先を教えていただきたい」
「それは……機密事項となっております。ご理解を」
穏やかだが頑なな口調だった。私の立場を説明しても、国家間の機密として処理されている様子は変わらなかった。
だが、神殿側はこうも言った。
「いずれ公表される内容でもあります。ご滞在の予定があるのであれば、数日お待ちいただければ、事実は明らかになるでしょう」
仕方がない。私たちは宿へ戻り、街に耳を張りながら動向を見守ることにした。
それから一週間──
その日は風が強かった。街角の新聞売りが叫んでいた言葉は、私の足を止めるに十分だった。
「テオドリック王都が襲撃! 魔族による召喚儀式! グレイ王とユリウス王子が重傷! だが救国の英雄が出現!」
私は紙幣を握りしめ、新聞を奪い取るように受け取った。
視線が見出しを走る。
《王都を覆った悪魔の影! 現れた剣聖の一閃が、王国を、そして大陸を救った!》
信じられない思いで目を凝らす。
写真は粗く、顔は識別できないが、確かに白銀の剣を振るう女性の姿があった。その下には、勇者の名が太字で記されていた。
エリーゼ=アルセリア。
──やはり、彼女だった。
詳細にはこうあった。
王都にて、魔族の残党による大規模な召喚儀式が行われ、かつて封印された悪魔が現世に現れた。
その際、国王グレイ陛下、第二王子ユリウス殿下、そして聖女が、いずれも重傷を負ったという。
だが、突如現れた冒険者パーティー“スプレーマム”が王宮内へ突入し、最奥で悪魔の核を討ち果たした。中心人物として名が挙がったのが剣聖エリーゼ。
彼女の一閃が、世界の均衡を守ったのだと、新聞は讃えていた。
「……素晴らしい」
私は思わず声を漏らした。
冷静を装っていたが、内心は感動に打ち震えていた。
あの王宮で、訓練場の片隅で剣を振るっていたあの少女が、今やこの大陸の秩序を支える存在になったという事実。
──いや、これはただの感傷ではない。
我がテレオンハルト王国にとっても、誠に大きな意味を持つ。
テオドリックの王都が壊滅せずに済んだ。王家が存続した。国の威信が守られたのは、他でもない、エリーゼの力によるものだ。
そしてそのエリーゼは、レインハルト王国の侯爵令嬢であり、シャルル王子の元婚約者である存在。
人脈とは、時として国家の運命をも変える。私は改めて実感していた。
その晩、宿の部屋で報告書を記した。
主文にはこう記した。
報告:剣聖エリーゼ=アルセリアの活躍と現状に関する一考察
一、マケドニア神殿には不在、行き先は機密とされていたが、現在テオドリック王都で魔族による召喚儀式を阻止し、悪魔を討伐したとの報。
二、王家(国王、王子、聖女)は重傷を負うも命は助かり、王都は守られた。これは我が国にとっても計り知れぬ恩恵である。
三、剣聖エリーゼの影響力、戦力、そして周囲の人脈(スプレーマム)は、今後国際的な秩序にも関わる重要要素と見なすべき。
四、彼女が元・王子妃候補であることは、今後の外交において無視しえない事実となる。
私はペンを置き、静かに息をついた。
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