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第161話 怒るアリスター陛下
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王城の謁見室は、普段以上に厳かな空気に包まれていた。深紅の絨毯が静かに敷かれ、壁に掛けられたタペストリーが揺れもせず、まるで空気までもが固まってしまったようだった。
エリーゼはその中に立ち、隣に座す夫──アリスターの横顔を見つめていた。
彼の瞳には、珍しく怒気が宿っていた。普段、どれほど感情的になっても理知的に対処する彼が、ここまで明確に怒りを滲ませるのは珍しい。エリーゼは思わず背筋を伸ばし、その気配に息を呑んだ。
そして、扉が開かれる。入ってきたのは、青髪の神官、ダリル=ベルトレイン。そして、金の髪に紫のドレスを纏ったルシア王妹だった。
二人は静かに頭を下げ、中央に進み出る。その途中、ほんの一瞬だけ、視線が交差した。だが、すぐに目を伏せる。まるで、互いを見ることさえ許されないかのように。
それを見たアリスターの眉がぴくりと動いた。
「──ようこそ、ダリル、ルシア」
その声音はいつもの柔らかさではなかった。鋭く、冷たい響きを含んでいた。
「今日は、大切な話があります」
エリーゼが少し不安そうに彼を見た。
「アリスター……?」
彼は妻の視線を受け止めたが、顔を向けることはせず、視線の先にいる二人をまっすぐに見据えたままだった。
「ボクは怒っています」
静かに、しかし重く放たれた言葉に、ダリルとルシアが顔を上げる。
「怒っているんです。なぜか? それは、昨夜、夫婦の危機が起きたからです」
エリーゼが、はっと目を見開いた。
「その原因は──あなたたちにあります」
ダリルが震えるように目を伏せ、ルシアが唇を噛んだ。
「ボクは、今まで、あなたたちの気持ちに沿って様子を見ようと思っていました。二人が互いを思いながらも別れようとすることには、きっとそれなりの理由があるのだろうと。しかし、昨夜、それではいけないと悟りました。このままでは、ボクたち夫婦にひびが入ります」
エリーゼはその言葉に驚きつつも、少しだけ頬を染めた。
「だから、王として決断します」
アリスターは立ち上がり、玉座の階段を一段、踏み下ろす。
「王命です。ダリル=ベルトレイン、ルシア王妹。あなたたち二人は──結婚しなさい!」
その声は堂々と響き渡った。静まり返る謁見室に、その宣言が重く、そして確かな音となって残る。
「け、結婚……!?」
エリーゼが声を漏らし、ダリルが慌てて一歩前に出る。
「ま、待ってください、アリスター様。拙者には……拙者には、ルシア殿下はもったいなさすぎるのです!」
だが、アリスターは手を上げ、きっぱりと遮った。
「ボクたち夫婦の危機なのです。これは重大な問題です。しかも、このままでは王位継承や政略にも支障が出かねません。だからこそ、王命です。結婚しなさい!」
「しかし……」
まだ渋る様子のダリルに、アリスターがぐっと睨むように詰め寄った。
「王命は絶対です! ダリル=ベルトレイン。君は王命を拒むのか?」
その一言に、ダリルは一瞬硬直し、次第に顔をゆるめていった。視線をルシアに向ける。
「ルシア殿下……拙者で、本当にいいのですか?」
ルシアの頬に涙が一筋、流れる。
「あなたがいいのです。誰でもない、あなたと共に生きたい」
「……拙者が、頑固なばかりに、あなたを悲しませてしまった。もう二度と、そんな思いはさせません」
ダリルは、ルシアに歩み寄り、優しく抱きしめた。顔をアリスターに向けて宣言する。
「アリスター陛下。王命、確かに承りました。拙者、ルシア殿下と結婚いたします」
アリスターはゆっくりとうなずき、その表情にようやく安堵の色が浮かんだ。
「それでこそ、ボクの信頼する仲間です」
その様子に、エリーゼは目を輝かせたまま、ぽんと両手を打ち合わせるように喜んだ。
「よかった……! 本当によかったわ!」
こうして、ルシアとダリルの婚約が決まり、半年後に結婚式が執り行われることとなった。
そしてアリスターもまた、この日を境に、自分たち夫婦の未来が再び穏やかな軌道に乗ったことに、内心ほっと胸を撫で下ろしていたのだった。
エリーゼはその中に立ち、隣に座す夫──アリスターの横顔を見つめていた。
彼の瞳には、珍しく怒気が宿っていた。普段、どれほど感情的になっても理知的に対処する彼が、ここまで明確に怒りを滲ませるのは珍しい。エリーゼは思わず背筋を伸ばし、その気配に息を呑んだ。
そして、扉が開かれる。入ってきたのは、青髪の神官、ダリル=ベルトレイン。そして、金の髪に紫のドレスを纏ったルシア王妹だった。
二人は静かに頭を下げ、中央に進み出る。その途中、ほんの一瞬だけ、視線が交差した。だが、すぐに目を伏せる。まるで、互いを見ることさえ許されないかのように。
それを見たアリスターの眉がぴくりと動いた。
「──ようこそ、ダリル、ルシア」
その声音はいつもの柔らかさではなかった。鋭く、冷たい響きを含んでいた。
「今日は、大切な話があります」
エリーゼが少し不安そうに彼を見た。
「アリスター……?」
彼は妻の視線を受け止めたが、顔を向けることはせず、視線の先にいる二人をまっすぐに見据えたままだった。
「ボクは怒っています」
静かに、しかし重く放たれた言葉に、ダリルとルシアが顔を上げる。
「怒っているんです。なぜか? それは、昨夜、夫婦の危機が起きたからです」
エリーゼが、はっと目を見開いた。
「その原因は──あなたたちにあります」
ダリルが震えるように目を伏せ、ルシアが唇を噛んだ。
「ボクは、今まで、あなたたちの気持ちに沿って様子を見ようと思っていました。二人が互いを思いながらも別れようとすることには、きっとそれなりの理由があるのだろうと。しかし、昨夜、それではいけないと悟りました。このままでは、ボクたち夫婦にひびが入ります」
エリーゼはその言葉に驚きつつも、少しだけ頬を染めた。
「だから、王として決断します」
アリスターは立ち上がり、玉座の階段を一段、踏み下ろす。
「王命です。ダリル=ベルトレイン、ルシア王妹。あなたたち二人は──結婚しなさい!」
その声は堂々と響き渡った。静まり返る謁見室に、その宣言が重く、そして確かな音となって残る。
「け、結婚……!?」
エリーゼが声を漏らし、ダリルが慌てて一歩前に出る。
「ま、待ってください、アリスター様。拙者には……拙者には、ルシア殿下はもったいなさすぎるのです!」
だが、アリスターは手を上げ、きっぱりと遮った。
「ボクたち夫婦の危機なのです。これは重大な問題です。しかも、このままでは王位継承や政略にも支障が出かねません。だからこそ、王命です。結婚しなさい!」
「しかし……」
まだ渋る様子のダリルに、アリスターがぐっと睨むように詰め寄った。
「王命は絶対です! ダリル=ベルトレイン。君は王命を拒むのか?」
その一言に、ダリルは一瞬硬直し、次第に顔をゆるめていった。視線をルシアに向ける。
「ルシア殿下……拙者で、本当にいいのですか?」
ルシアの頬に涙が一筋、流れる。
「あなたがいいのです。誰でもない、あなたと共に生きたい」
「……拙者が、頑固なばかりに、あなたを悲しませてしまった。もう二度と、そんな思いはさせません」
ダリルは、ルシアに歩み寄り、優しく抱きしめた。顔をアリスターに向けて宣言する。
「アリスター陛下。王命、確かに承りました。拙者、ルシア殿下と結婚いたします」
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「それでこそ、ボクの信頼する仲間です」
その様子に、エリーゼは目を輝かせたまま、ぽんと両手を打ち合わせるように喜んだ。
「よかった……! 本当によかったわ!」
こうして、ルシアとダリルの婚約が決まり、半年後に結婚式が執り行われることとなった。
そしてアリスターもまた、この日を境に、自分たち夫婦の未来が再び穏やかな軌道に乗ったことに、内心ほっと胸を撫で下ろしていたのだった。
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