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第162話 レオナ=エルドリッジ、飲みすぎてやってしまう……
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夜の王都は、昼の喧騒を残しながらも、柔らかな灯りに包まれていた。露店がまばらに並び、路地から漏れる笑い声と酒の匂い。レオナ=エルドリッジはひとり、その中を歩いていた。
「……はぁ。結局、一人で来ちゃったな」
近衛団の制服ではなく、落ち着いた旅装。剣は腰にあるが、今夜は戦うつもりはない。目的はただひとつ——酔うためだ。
選んだのは、広場近くの酒場《金獅子亭》。騎士でも民でも関係なく飲める場所として、密かに人気の一軒だ。
扉を開けた瞬間、熱気と喧騒が迎えてきた。テーブルを囲む常連たち、木のカウンターに肘をついた吟遊詩人、騒がしく笑う冒険者。
「空いてるかい?」
レオナが腰を下ろしたのは、カウンターの隅。その隣には、黒髪で筋肉隆々の男——マスキュラ―がいた。
彼もまた、一人で飲んでいたらしい。豪快な見た目に反して、手元のグラスには澄んだ酒が控えめに注がれている。
「……おや、騎士サマか。ひとり飲みとは、めずらしいな」
「あなたこそ……確か、“スプレーマム”の剣士だったか。マスキュラ―、だったよな?」
「覚えられてたか。光栄だぜ」
軽口に、レオナは笑う。グラスを注文し、酒を口に運ぶ。
しばらくは、互いに無言のまま酒を飲んだ。だが、どちらからともなく話が弾み始める。
「……それでさ、来週には来るらしいぜ。“元”王子さまがよ」
「レオンハルト王国の元王子様、ね。ずいぶんと話題になってる」
「ま、噂じゃ“和平の証”とか言ってるが……あいつ、エリーゼに婚約破棄して追放までした奴だぞ、今更どの面下げてだな」
「ふふ、まさか。ないとは思うが……エリーゼ様が傷ついたらアリスター陛下が恐ろしいわ。レオンハルト王国程度ならすぐに滅ぼしに出兵しそうで。エリーゼ様の祖父のフリューゲル王国が動くって噂もあるわね」
杯が重なり、二人の口元に笑みが灯る。酔いも手伝って、緊張がほどけていく。
話題が尽きたわけでもないのに、不意にレオナがぽつりと漏らす。
「……エリーゼ様は、いいよな」
「ん?」
「……あんなに強くて、まっすぐで……それでいて、ちゃんと愛されて。アリスターと一緒になれて、羨ましいよ」
その言葉に、マスキュラ―が片眉を上げて言った。
「へっ、オレから言わせりゃ……アリスターの方が羨ましいぜ」
「どうして?」
「だって、エリーゼと結婚してるんだぞ。あんなに強くて綺麗で、気さくで……オレの憧れそのものだ」
沈黙。そして、ふっと顔を見合わせたふたり。
「……あれ、私たちって、振られてる?」
「……そうなるな」
はははっ、と肩を揺らして笑い合う。自嘲と、どこか安堵が混ざった笑いだった。
そのまま、二人は飲み続けた。話題はくだらない噂から、互いの冒険談まで転がり、気づけば酒瓶は三本目に入っていた。
ふらふらと酒場を出たのは、深夜を回った頃だった。
「マスキュラ―……歩ける?」
「んー? 歩くのは得意だぜ、任せろー」
言葉とは裏腹に、彼の足元はおぼつかない。そんな彼の肩に、レオナがそっと手を添えた。
「どこに泊まってる?」
「宿屋、《東の茜》ってとこ」
「ふうん……じゃあ、そこまで送るよ」
「レディに送られるのも、悪くないな……あ、こっちこっち」
そうして、流れるように、二人は《東の茜》の宿へ。部屋に入ると、マスキュラ―は布団に腰を下ろし、苦笑した。
「……まさか、騎士サマと一緒に飲んで、こうなるとはな」
「こっちの台詞よ……あんた、筋肉のわりに、酒弱いのね」
互いに見つめ合い——言葉が消えた。
次の瞬間、酔いのせいか、互いの温もりに引かれるように、そっと唇が重なった。
夜は静かに更けていった。
***
「……ひゃぁああああっ!!???」
けたたましい悲鳴で、マスキュラ―は目を覚ました。がばっと跳ね起き、隣を見れば、シーツを胸元に巻きつけたレオナがそこにいた。
「……ま、マジかよ……なんで……」
「こっちの台詞よ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るレオナ。その姿を見て、マスキュラ―は頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと待て、思い出すから……昨日の夜、確かに、飲んで、笑って……で……」
「……キス、して……」
「……そのまま、ベッドに……」
沈黙。
そして、同時に言った。
「やっちまったーーーーーっ!!」
そんな朝だった。
「……はぁ。結局、一人で来ちゃったな」
近衛団の制服ではなく、落ち着いた旅装。剣は腰にあるが、今夜は戦うつもりはない。目的はただひとつ——酔うためだ。
選んだのは、広場近くの酒場《金獅子亭》。騎士でも民でも関係なく飲める場所として、密かに人気の一軒だ。
扉を開けた瞬間、熱気と喧騒が迎えてきた。テーブルを囲む常連たち、木のカウンターに肘をついた吟遊詩人、騒がしく笑う冒険者。
「空いてるかい?」
レオナが腰を下ろしたのは、カウンターの隅。その隣には、黒髪で筋肉隆々の男——マスキュラ―がいた。
彼もまた、一人で飲んでいたらしい。豪快な見た目に反して、手元のグラスには澄んだ酒が控えめに注がれている。
「……おや、騎士サマか。ひとり飲みとは、めずらしいな」
「あなたこそ……確か、“スプレーマム”の剣士だったか。マスキュラ―、だったよな?」
「覚えられてたか。光栄だぜ」
軽口に、レオナは笑う。グラスを注文し、酒を口に運ぶ。
しばらくは、互いに無言のまま酒を飲んだ。だが、どちらからともなく話が弾み始める。
「……それでさ、来週には来るらしいぜ。“元”王子さまがよ」
「レオンハルト王国の元王子様、ね。ずいぶんと話題になってる」
「ま、噂じゃ“和平の証”とか言ってるが……あいつ、エリーゼに婚約破棄して追放までした奴だぞ、今更どの面下げてだな」
「ふふ、まさか。ないとは思うが……エリーゼ様が傷ついたらアリスター陛下が恐ろしいわ。レオンハルト王国程度ならすぐに滅ぼしに出兵しそうで。エリーゼ様の祖父のフリューゲル王国が動くって噂もあるわね」
杯が重なり、二人の口元に笑みが灯る。酔いも手伝って、緊張がほどけていく。
話題が尽きたわけでもないのに、不意にレオナがぽつりと漏らす。
「……エリーゼ様は、いいよな」
「ん?」
「……あんなに強くて、まっすぐで……それでいて、ちゃんと愛されて。アリスターと一緒になれて、羨ましいよ」
その言葉に、マスキュラ―が片眉を上げて言った。
「へっ、オレから言わせりゃ……アリスターの方が羨ましいぜ」
「どうして?」
「だって、エリーゼと結婚してるんだぞ。あんなに強くて綺麗で、気さくで……オレの憧れそのものだ」
沈黙。そして、ふっと顔を見合わせたふたり。
「……あれ、私たちって、振られてる?」
「……そうなるな」
はははっ、と肩を揺らして笑い合う。自嘲と、どこか安堵が混ざった笑いだった。
そのまま、二人は飲み続けた。話題はくだらない噂から、互いの冒険談まで転がり、気づけば酒瓶は三本目に入っていた。
ふらふらと酒場を出たのは、深夜を回った頃だった。
「マスキュラ―……歩ける?」
「んー? 歩くのは得意だぜ、任せろー」
言葉とは裏腹に、彼の足元はおぼつかない。そんな彼の肩に、レオナがそっと手を添えた。
「どこに泊まってる?」
「宿屋、《東の茜》ってとこ」
「ふうん……じゃあ、そこまで送るよ」
「レディに送られるのも、悪くないな……あ、こっちこっち」
そうして、流れるように、二人は《東の茜》の宿へ。部屋に入ると、マスキュラ―は布団に腰を下ろし、苦笑した。
「……まさか、騎士サマと一緒に飲んで、こうなるとはな」
「こっちの台詞よ……あんた、筋肉のわりに、酒弱いのね」
互いに見つめ合い——言葉が消えた。
次の瞬間、酔いのせいか、互いの温もりに引かれるように、そっと唇が重なった。
夜は静かに更けていった。
***
「……ひゃぁああああっ!!???」
けたたましい悲鳴で、マスキュラ―は目を覚ました。がばっと跳ね起き、隣を見れば、シーツを胸元に巻きつけたレオナがそこにいた。
「……ま、マジかよ……なんで……」
「こっちの台詞よ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るレオナ。その姿を見て、マスキュラ―は頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと待て、思い出すから……昨日の夜、確かに、飲んで、笑って……で……」
「……キス、して……」
「……そのまま、ベッドに……」
沈黙。
そして、同時に言った。
「やっちまったーーーーーっ!!」
そんな朝だった。
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