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第168話 エリーゼの悲しみ 平民と貴族……壁は
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夜の寝室。蝋燭の灯がゆらりと揺れ、窓の外には星が瞬いていた。
私はベッドに腰かけ、膝に手を添えたまま、うつむいていた。すぐ隣では、アリスターが読書をやめて私に視線を向けている。
「……ねえ、アリスター」
小さな声で、私は口を開いた。
「ん、どうしたんだい?」
「マスキュラ―が……国を出るって」
「……そうか。ついに、言ったんだね」
アリスターの声は、驚きもせず、静かだった。
「知ってたの?」
「いや。でも、なんとなく予感はしてた。……というより、納得したよ」
「え?」
「レオナから、数日前に“第三近衛隊の隊長を辞任します”って、突然連絡があったんだ。理由も詳しくは語らずにね。変だと思っていたけど……今なら、理解できる」
彼は小さく笑った。どこか寂しげな笑みだった。
「平民と貴族……壁は、やっぱり高いんだね」
私はぽつりと言った。
「だからって、本当に国を出るなんて……。どうすることもできなかったのかな。私たちで、何か別の方法を探すことはできなかったのかな……」
言いながら、胸の奥がじんわりと痛んだ。
「マスキュラ―が決めたことだ。それに、レオナも同じ覚悟をしてる。二人とも――強いよ。誰にも頼らず、逃げずに、自分たちで未来を選んだんだ」
「……わかってる。頭では、ちゃんとわかってるんだけど……」
私は声を震わせた。
「仲間がいなくなるって……こんなに辛いんだね」
しんと静まり返った寝室に、私の声だけが響いた。
次の瞬間、ふわりと優しい気配が隣に寄ってきた。アリスターが私の肩に手を添え、そっと抱き寄せようとした。
「エリーゼ。君は優しい。だからこそ、今は苦しい。でもね――」
「……ごめん、今夜は……そういう気分になれないの」
私は小さく、だがはっきりと言った。
アリスターの腕が止まる。しばらくの沈黙の後、彼はそっと手を離した。
「……そうか。無理に触れようとして悪かったね」
「ううん。あなたは、いつも優しいよ。私がわがままなだけ」
私は立ち上がり、ベッドの片側に潜り込んだ。
「おやすみなさい、アリスター」
「おやすみ、エリーゼ」
そのまま私は目を閉じたが、胸の奥はずっとざわめいていた。
***
部屋に静寂が戻る。
アリスターはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて窓際に歩み寄る。カーテンを押しのけ、夜の空を見上げた。
星が瞬き、月が薄雲に隠れている。
そして彼は、誰に向けるでもなく、小さく呟いた。
「……やっぱり、そういうことだったのか」
その顔は、珍しく険しかった。
平民と貴族の壁。政治的な思惑。魔族の動きと、不穏な噂。
これまで見過ごしてきた、いくつもの断片が、今ひとつに繋がりはじめていた。
「……彼女が、この国を出る決断をするほど、何が起きている?」
アリスターの中で、何かが動き始めていた。
ただの恋愛では終わらない。彼は、そう確信していた。
窓の外で風が揺れる。その音は、まるで遠い何かの呼び声のようだった。
ベッドの方を一度だけ振り返る。エリーゼは寝息を立てている――ように見えるが、きっと、眠れてはいない。
彼女の痛みを思い、そっと目を伏せる。
「……君が涙を流す日が来ないように、僕は動く」
誰にも聞かせることのない、静かな誓い。
その夜、アリスターは眠らなかった。
ただ夜空を見つめながら、心の中で、次に進むべき道を探し続けていた。
私はベッドに腰かけ、膝に手を添えたまま、うつむいていた。すぐ隣では、アリスターが読書をやめて私に視線を向けている。
「……ねえ、アリスター」
小さな声で、私は口を開いた。
「ん、どうしたんだい?」
「マスキュラ―が……国を出るって」
「……そうか。ついに、言ったんだね」
アリスターの声は、驚きもせず、静かだった。
「知ってたの?」
「いや。でも、なんとなく予感はしてた。……というより、納得したよ」
「え?」
「レオナから、数日前に“第三近衛隊の隊長を辞任します”って、突然連絡があったんだ。理由も詳しくは語らずにね。変だと思っていたけど……今なら、理解できる」
彼は小さく笑った。どこか寂しげな笑みだった。
「平民と貴族……壁は、やっぱり高いんだね」
私はぽつりと言った。
「だからって、本当に国を出るなんて……。どうすることもできなかったのかな。私たちで、何か別の方法を探すことはできなかったのかな……」
言いながら、胸の奥がじんわりと痛んだ。
「マスキュラ―が決めたことだ。それに、レオナも同じ覚悟をしてる。二人とも――強いよ。誰にも頼らず、逃げずに、自分たちで未来を選んだんだ」
「……わかってる。頭では、ちゃんとわかってるんだけど……」
私は声を震わせた。
「仲間がいなくなるって……こんなに辛いんだね」
しんと静まり返った寝室に、私の声だけが響いた。
次の瞬間、ふわりと優しい気配が隣に寄ってきた。アリスターが私の肩に手を添え、そっと抱き寄せようとした。
「エリーゼ。君は優しい。だからこそ、今は苦しい。でもね――」
「……ごめん、今夜は……そういう気分になれないの」
私は小さく、だがはっきりと言った。
アリスターの腕が止まる。しばらくの沈黙の後、彼はそっと手を離した。
「……そうか。無理に触れようとして悪かったね」
「ううん。あなたは、いつも優しいよ。私がわがままなだけ」
私は立ち上がり、ベッドの片側に潜り込んだ。
「おやすみなさい、アリスター」
「おやすみ、エリーゼ」
そのまま私は目を閉じたが、胸の奥はずっとざわめいていた。
***
部屋に静寂が戻る。
アリスターはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて窓際に歩み寄る。カーテンを押しのけ、夜の空を見上げた。
星が瞬き、月が薄雲に隠れている。
そして彼は、誰に向けるでもなく、小さく呟いた。
「……やっぱり、そういうことだったのか」
その顔は、珍しく険しかった。
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これまで見過ごしてきた、いくつもの断片が、今ひとつに繋がりはじめていた。
「……彼女が、この国を出る決断をするほど、何が起きている?」
アリスターの中で、何かが動き始めていた。
ただの恋愛では終わらない。彼は、そう確信していた。
窓の外で風が揺れる。その音は、まるで遠い何かの呼び声のようだった。
ベッドの方を一度だけ振り返る。エリーゼは寝息を立てている――ように見えるが、きっと、眠れてはいない。
彼女の痛みを思い、そっと目を伏せる。
「……君が涙を流す日が来ないように、僕は動く」
誰にも聞かせることのない、静かな誓い。
その夜、アリスターは眠らなかった。
ただ夜空を見つめながら、心の中で、次に進むべき道を探し続けていた。
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