婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

文字の大きさ
171 / 179

第169話 アリスターの怒りぷんぷん ボクは怒っているんです!

しおりを挟む
翌朝、王都テオドリック城の謁見の間には緊張が走っていた。

 重厚な扉が音を立てて閉まり、王の間に招かれたのは、マスキュラ―とレオナの二人。そして側近として立ち会うエリーゼとダリル。そして、王位に就いたばかりのアリスター・テオドリック陛下が、静かに玉座に座していた。

「……よく来てくれたね。突然の招集、すまない」

 アリスターは穏やかな声音で口を開いたが、その表情には普段の柔和な微笑みはなかった。代わりに、寝不足の隈がうっすらと浮かび、苛立ちを隠しきれない。

「さて――いきなり本題に入ろう」

 声色が鋭くなる。

「君たちは、国を出るつもりなんだってね?」

 マスキュラ―とレオナが顔を見合わせ、うなずいた。

「はい。アリスター陛下、俺たちは――」

「政治的な目的かい?」

 アリスターが言葉を遮った。

「貴族と平民の垣根を超える行動の裏に、魔族の動きを探るような、何か大義があると……ボクは、そう思っていたよ」

 マスキュラ―が眉をひそめ、口を開く。

「違います。……俺たちは、ただ……」

「恋仲になっただけです」

 レオナが堂々と口にした。

「彼とは、もう離れられない。……それだけです」

 一瞬、謁見の間が静まり返る。

「……え?」

 アリスターの声が抜けたように漏れた。

「本当に……そうなの?」

 問いかける声には、必死さすら滲んでいた。

「昨日、ボク、一睡もしてないんだけど……?」

 エリーゼが思わず咳払いをして目を伏せる。ダリルは冷や汗を垂らしている。

「二人に何か、陰謀とか策略とか、裏があるのかと思って、ずっと考えてたんだよ?」

 アリスターは立ち上がった。

「ねえ、マスキュラ―。レオナ。本当に、君たち……好きなの?」

「……はい。彼女なしの生活なんて、考えられない」

 マスキュラ―が真っ直ぐに答える。

「わたしも。マスキュラ―と一緒にいると、生きていると実感できるの」

 レオナも続けた。

 その瞬間、アリスターはぐるりと回って玉座の背に手を置き、天を仰いだ。

 そして、ふいにくるりと振り返った。

「……はい。王命、出します」

 謁見の間にいた全員が目を見開いた。

「マスキュラ―は、アルスラーン・ヴァン・テオドリック公爵の養子になります。そして、エルドリッジ家に婿養子として迎えられ、レオナと結婚する。これは、正式な王命です。わかってますね?」

「なっ……! いや、ちょっと待ってくれ陛下! そんな……!」

 マスキュラ―が慌てて口を挟もうとするが、アリスターは続けた。

 その目に、怒りと――困惑と――一抹の羞恥が混じる。

「ボクは怒っているんです!」

 その声に全員が沈黙した。

 静かに、しかし重く放たれた言葉に、マスキュラ―とレオナが顔を上げる。

「怒っているんです。なぜか? それは、昨夜、夫婦の危機が起きたからです」

 エリーゼが、はっと目を見開いた。

「その原因は──あなたたちにあります!」

 アリスターは指を突きつけた。

「ボクは、今まで、あなたたちの気持ちに沿って様子を見ようと思っていました。二人が互いを新たな世界に行こうとすることには、きっとそれなりの理由があるのだろうと。しかし、昨夜、それではいけないと悟りました。このままでは、ボクたち夫婦にひびが入ります!」

 エリーゼは頬を染めつつも、どこか誇らしげに見つめている。

「だから、王として決断します」

 アリスターは玉座の階段を一段踏み下ろした。

「王命です。マスキュラ―は公爵令息として、エルドリッジ家に婿入りして、正式にレオナと結婚してください!」

 部屋に沈黙が落ちた。

 しばらくして、ダリルがぽつりと呟いた。

「……これは、王命という名の、最高の祝福では?」

 レオナの瞳に涙が浮かぶ。

「……本当に……いいの?」

「当然でしょう。ボクは、君たちが好きだ。仲間として、大切な家族として……」

 アリスターは、ゆっくりと階段を下り、二人の前に立つ。

「……だから、幸せになれ。堂々と、この国でな」

 マスキュラ―は、まっすぐアリスターを見た。

「……陛下。……いや、アリスター。本当に、ありがとう」

「礼は要らない。その代わり、式は盛大にやろうね。ボクとエリーゼが喧嘩した元凶なのだから、当然主役級の責任があるからね?」

「えぇっ!?」

 レオナとマスキュラ―の声が揃って上がった。

 エリーゼが笑う。

「ふふ、でも良かった。おめでとう、二人とも」

 そして、ダリルも静かにうなずいた。

「……愛は、試練を越えてこそ真実となる」

 その言葉に、誰もが微笑んだ。

 王の決断は、王国の制度と心の距離を一つ近づけた。

 それは、ただの命令ではなかった。絆の証であり、未来を切り開く一歩。

 そして、王とその仲間たちの新たな物語の、幕開けでもあった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?

椿蛍
ファンタジー
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様ですよ?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...