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第173話 エリーゼ捜索隊、キリエム・エルネスト これが、“本物の王”
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私は、シャルル殿下に仕える近衛騎士隊長、キリエム・エルネスト。
若輩ながら剣の腕と采配力を評価され、王宮にてその名を知られている。
だが、今日ばかりはその名声も、何の役にも立たなかった。
謁見の間の扉が開かれる。
まばゆい黄金の光を纏った王、アリスター・テオドリック陛下が、玉座の上より我々を見下ろしていた。
その隣には、一歩下がって佇む桃髪の美女――王妃、エリーゼ・アルセリア殿下。
彼女を見た瞬間、私は直感した。
(……あの方が“剣聖”と謳われるお方か)
確かに美しかった。だがそれ以上に、ただ立っているだけで感じる圧。
鍛え上げられた肉体と、揺るがぬ精神力。それを隠そうともせず、堂々とこの場に在る。
――まさに、王の隣に相応しい人だ。
だが、私の主君――シャルル殿下は違った。
彼の視線は、品位ではなく“所有”の眼だった。
「エリーゼ、迎えに来たぞ。こんな国でいつまで無駄な時間を過ごしている?」
私は心の中で冷や汗をかいた。
(……殿下、それは……)
言葉を選ぶべき場だ。相手は他国の王妃であり、国家元首の前である。
だが、シャルル殿下は自信たっぷりに踏み出し、さらに言葉を重ねた。
「そろそろ茶番は終わりにしよう。お前も、そこの金髪の坊やも、な」
謁見の間の空気が凍りつく。
私は即座に一歩前に出た。制止すべきか、いや、守るべきか。迷いが生じる。
(……殿下、何故、挑発を?)
アリスター王の目が鋭く細められた。
「貴様、今、何と言った?」
その声音は、まるで嵐の前の静けさ。
私は本能的に剣の柄に手を添えた。
殿下は、まるで気づかぬかのように肩をすくめ、吐き捨てた。
「言葉通りさ。エリーゼはオレの婚約者だった女。お前の玩具じゃない」
……やってしまった。
私は目を閉じたくなった。
これ以上の無礼は、王国間の関係を断ち切るのに十分すぎる。
アリスター王が静かに玉座を立つ。
その仕草一つで、近衛兵たちが緊張を高めたのがわかる。私も同様だ。
「貴様のその言葉――我が国への、宣戦布告と受け取った」
謁見の間が揺れた気がした。
私の主君は、愕然として叫ぶ。
「せ、宣戦布告だと!? そんなつもりは――」
「黙れ!」
アリスター王の怒声が響く。
その一喝に、私でさえ身が竦む。殿下は青ざめたまま、言葉を失っていた。
「我が妃を侮辱したこと、王家を軽んじたこと、それは我が国民全てを侮辱したのと同義。貴様の命運は、ここで尽きた」
そして王は言い放つ。
「近衛、シャルル=レインハルトを拘束せよ」
近衛兵たちが進み出る。
私も思わず剣を半分抜いた。――だが、止めた。
これは、もう外交ではない。
王命だ。王妃への侮辱を、堂々と宣戦布告として受け取った王の決断。
(これが、“本物の王”……)
主君を守りたかった。だが、主君自身が火を放ってしまった。
それを鎮火する術を、私は持ち得なかった。
シャルル殿下は取り押さえられ、絶叫する。
「オレ様を拘束だと!? こんな真似、後悔するぞ! 父上に伝えれば――」
「伝えよ。こちらも正式に伝える。外務大臣!」
「はっ!」
「抗議と照会の密書を送れ。レインハルト王国の意図を問う」
「かしこまりました。あと一時間ほどで届くかと」
「軍務大臣、三千騎の出撃準備を」
「完了しております」
王が剣を抜き、掲げた。
「ならば出撃だ!」
この瞬間、私は理解した。
我が主君は、己の言葉で“戦争”を引き寄せてしまったのだと。
その代償は、彼が思う以上に重い。
私はただ、静かにその姿を見守るしかなかった。
騎士としての忠義と、冷徹な現実のはざまで。
……それでも願ってやまない。
どうか、この無謀な挑発が、誰の命も奪わぬようにと。
若輩ながら剣の腕と采配力を評価され、王宮にてその名を知られている。
だが、今日ばかりはその名声も、何の役にも立たなかった。
謁見の間の扉が開かれる。
まばゆい黄金の光を纏った王、アリスター・テオドリック陛下が、玉座の上より我々を見下ろしていた。
その隣には、一歩下がって佇む桃髪の美女――王妃、エリーゼ・アルセリア殿下。
彼女を見た瞬間、私は直感した。
(……あの方が“剣聖”と謳われるお方か)
確かに美しかった。だがそれ以上に、ただ立っているだけで感じる圧。
鍛え上げられた肉体と、揺るがぬ精神力。それを隠そうともせず、堂々とこの場に在る。
――まさに、王の隣に相応しい人だ。
だが、私の主君――シャルル殿下は違った。
彼の視線は、品位ではなく“所有”の眼だった。
「エリーゼ、迎えに来たぞ。こんな国でいつまで無駄な時間を過ごしている?」
私は心の中で冷や汗をかいた。
(……殿下、それは……)
言葉を選ぶべき場だ。相手は他国の王妃であり、国家元首の前である。
だが、シャルル殿下は自信たっぷりに踏み出し、さらに言葉を重ねた。
「そろそろ茶番は終わりにしよう。お前も、そこの金髪の坊やも、な」
謁見の間の空気が凍りつく。
私は即座に一歩前に出た。制止すべきか、いや、守るべきか。迷いが生じる。
(……殿下、何故、挑発を?)
アリスター王の目が鋭く細められた。
「貴様、今、何と言った?」
その声音は、まるで嵐の前の静けさ。
私は本能的に剣の柄に手を添えた。
殿下は、まるで気づかぬかのように肩をすくめ、吐き捨てた。
「言葉通りさ。エリーゼはオレの婚約者だった女。お前の玩具じゃない」
……やってしまった。
私は目を閉じたくなった。
これ以上の無礼は、王国間の関係を断ち切るのに十分すぎる。
アリスター王が静かに玉座を立つ。
その仕草一つで、近衛兵たちが緊張を高めたのがわかる。私も同様だ。
「貴様のその言葉――我が国への、宣戦布告と受け取った」
謁見の間が揺れた気がした。
私の主君は、愕然として叫ぶ。
「せ、宣戦布告だと!? そんなつもりは――」
「黙れ!」
アリスター王の怒声が響く。
その一喝に、私でさえ身が竦む。殿下は青ざめたまま、言葉を失っていた。
「我が妃を侮辱したこと、王家を軽んじたこと、それは我が国民全てを侮辱したのと同義。貴様の命運は、ここで尽きた」
そして王は言い放つ。
「近衛、シャルル=レインハルトを拘束せよ」
近衛兵たちが進み出る。
私も思わず剣を半分抜いた。――だが、止めた。
これは、もう外交ではない。
王命だ。王妃への侮辱を、堂々と宣戦布告として受け取った王の決断。
(これが、“本物の王”……)
主君を守りたかった。だが、主君自身が火を放ってしまった。
それを鎮火する術を、私は持ち得なかった。
シャルル殿下は取り押さえられ、絶叫する。
「オレ様を拘束だと!? こんな真似、後悔するぞ! 父上に伝えれば――」
「伝えよ。こちらも正式に伝える。外務大臣!」
「はっ!」
「抗議と照会の密書を送れ。レインハルト王国の意図を問う」
「かしこまりました。あと一時間ほどで届くかと」
「軍務大臣、三千騎の出撃準備を」
「完了しております」
王が剣を抜き、掲げた。
「ならば出撃だ!」
この瞬間、私は理解した。
我が主君は、己の言葉で“戦争”を引き寄せてしまったのだと。
その代償は、彼が思う以上に重い。
私はただ、静かにその姿を見守るしかなかった。
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……それでも願ってやまない。
どうか、この無謀な挑発が、誰の命も奪わぬようにと。
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