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第172話 アリスター怒る! ――出撃だ!
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テオドリック王国・王城謁見の間。
桃髪の王妃エリーゼを侮辱するような物言いを繰り返した、元レインハルト王子――シャルル。
その滑稽なまでの自尊心に満ちた態度に、場の空気が凍りついたその時だった。
「……貴様、今、なんと言った?」
玉座から立ち上がったのは、金髪の青年王――アリスター。
その声音は低く、冷ややか。だがその瞳の奥には、抑えきれぬ怒りの焔が宿っていた。
「この我が妃を貶め、剣聖を愚弄し、さらに“迎えに来た”などとぬかす……貴様の言葉、これは――」
重い沈黙。
そしてアリスターは、雷鳴のような声で告げた。
「――我が国への、宣戦布告と受け取った!」
謁見の間が揺れる。
「つ、宣戦布告だと!? 馬鹿な、オレ様はただ――!」
「黙れ。貴様の言い訳を聞く義理など、王にも、妃にも、民にもない」
アリスターは右手を掲げ、鋭く命じる。
「近衛、シャルル=レインハルトを拘束せよ」
「はっ!」
数名の近衛兵が即座に動き、呆然とするシャルルを押さえ込む。
「こ、こんな仕打ちが……オレ様に対して、こんな、こんな無礼が許されると思っているのか!?」
「許すかどうかを決めるのは我だ。そして我の怒りに火をつけた時点で、貴様の命運は尽きたのだよ」
その冷酷な王の姿に、廷臣たちは凛と背筋を正す。
アリスターが玉座の階段を降りながら声を響かせる。
「外務大臣!」
「はっ!」
「この件、正式な“敵対行為”と見なす。レインハルト王国に対し、抗議と宣戦布告の意志があったのか照会せよ」
「かしこまりました。密使を飛ばせば、約一時間で王宮に届くでしょう」
「よろしい。軍務大臣!」
「ここに!」
「テオドリック第三騎兵団――総勢三千。すぐに国境防衛線へ展開せよ。状況次第では、国境を越える覚悟も持たせておけ」
「了解! 既に訓練は完了しています。三〇分以内に出撃可能です」
シャルルが顔面蒼白になる。
「ば、馬鹿な……そこまですることは――!」
「我が国の王妃を愚弄した。それは王家を愚弄したのと同義。そして王家は、国そのものを背負っている。貴様の言葉は、テオドリック王国民すべてへの侮辱だ!」
さらにアリスターが鋭く言葉を重ねる。
「情報官! フリューゲル王国のカール=キリト殿は今どこだ?」
「現在、孫娘であるエリーゼ様の身を案じ、レインハルト王国の城下町に滞在中との報せが入っております」
「……ふむ。それは都合が良い。万が一の時は、彼も動くだろう」
エリーゼが静かに問いかけた。
「陛下、本気で戦を?」
アリスターは微笑んだ。
「君を侮辱されて黙っていられるほど、私は甘くない。……それに、あの男は“口実”をくれたのだ。王として、これを見過ごすことはできない」
エリーゼの頬がわずかに赤らみ、すぐに微笑みへと変わる。
「……ふふ、さすが我が王」
その瞬間、アリスターが玉座の階段を駆け上がり、剣を抜いた。
「全軍に通達! 王命により、即時出撃体制を確立せよ! 我が王国を、そして我が妃を侮辱する者に――慈悲は不要!」
「「はっ!!」」
一糸乱れぬ応答。軍務大臣、近衛隊長、情報官、外務大臣、全てが動き出す。
その様を見ていたシャルルは、全身を震わせた。
「……嘘だ……こんなはずでは……! オレ様が……国を動かしてしまった……?」
アリスターは最後に、冷たい眼差しで告げる。
「貴様は、妃の忠誠と、王の威厳を侮った。その報いが、どれほどのものか――身をもって知るがいい」
玉座の間の扉が閉まる。
その音は、まるで戦の号砲のように、王都中に鳴り響いた。
そして、テオドリック王国の王は静かに剣を振り上げ、告げた。
「――出撃だ!」
桃髪の王妃エリーゼを侮辱するような物言いを繰り返した、元レインハルト王子――シャルル。
その滑稽なまでの自尊心に満ちた態度に、場の空気が凍りついたその時だった。
「……貴様、今、なんと言った?」
玉座から立ち上がったのは、金髪の青年王――アリスター。
その声音は低く、冷ややか。だがその瞳の奥には、抑えきれぬ怒りの焔が宿っていた。
「この我が妃を貶め、剣聖を愚弄し、さらに“迎えに来た”などとぬかす……貴様の言葉、これは――」
重い沈黙。
そしてアリスターは、雷鳴のような声で告げた。
「――我が国への、宣戦布告と受け取った!」
謁見の間が揺れる。
「つ、宣戦布告だと!? 馬鹿な、オレ様はただ――!」
「黙れ。貴様の言い訳を聞く義理など、王にも、妃にも、民にもない」
アリスターは右手を掲げ、鋭く命じる。
「近衛、シャルル=レインハルトを拘束せよ」
「はっ!」
数名の近衛兵が即座に動き、呆然とするシャルルを押さえ込む。
「こ、こんな仕打ちが……オレ様に対して、こんな、こんな無礼が許されると思っているのか!?」
「許すかどうかを決めるのは我だ。そして我の怒りに火をつけた時点で、貴様の命運は尽きたのだよ」
その冷酷な王の姿に、廷臣たちは凛と背筋を正す。
アリスターが玉座の階段を降りながら声を響かせる。
「外務大臣!」
「はっ!」
「この件、正式な“敵対行為”と見なす。レインハルト王国に対し、抗議と宣戦布告の意志があったのか照会せよ」
「かしこまりました。密使を飛ばせば、約一時間で王宮に届くでしょう」
「よろしい。軍務大臣!」
「ここに!」
「テオドリック第三騎兵団――総勢三千。すぐに国境防衛線へ展開せよ。状況次第では、国境を越える覚悟も持たせておけ」
「了解! 既に訓練は完了しています。三〇分以内に出撃可能です」
シャルルが顔面蒼白になる。
「ば、馬鹿な……そこまですることは――!」
「我が国の王妃を愚弄した。それは王家を愚弄したのと同義。そして王家は、国そのものを背負っている。貴様の言葉は、テオドリック王国民すべてへの侮辱だ!」
さらにアリスターが鋭く言葉を重ねる。
「情報官! フリューゲル王国のカール=キリト殿は今どこだ?」
「現在、孫娘であるエリーゼ様の身を案じ、レインハルト王国の城下町に滞在中との報せが入っております」
「……ふむ。それは都合が良い。万が一の時は、彼も動くだろう」
エリーゼが静かに問いかけた。
「陛下、本気で戦を?」
アリスターは微笑んだ。
「君を侮辱されて黙っていられるほど、私は甘くない。……それに、あの男は“口実”をくれたのだ。王として、これを見過ごすことはできない」
エリーゼの頬がわずかに赤らみ、すぐに微笑みへと変わる。
「……ふふ、さすが我が王」
その瞬間、アリスターが玉座の階段を駆け上がり、剣を抜いた。
「全軍に通達! 王命により、即時出撃体制を確立せよ! 我が王国を、そして我が妃を侮辱する者に――慈悲は不要!」
「「はっ!!」」
一糸乱れぬ応答。軍務大臣、近衛隊長、情報官、外務大臣、全てが動き出す。
その様を見ていたシャルルは、全身を震わせた。
「……嘘だ……こんなはずでは……! オレ様が……国を動かしてしまった……?」
アリスターは最後に、冷たい眼差しで告げる。
「貴様は、妃の忠誠と、王の威厳を侮った。その報いが、どれほどのものか――身をもって知るがいい」
玉座の間の扉が閉まる。
その音は、まるで戦の号砲のように、王都中に鳴り響いた。
そして、テオドリック王国の王は静かに剣を振り上げ、告げた。
「――出撃だ!」
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