11 / 30
3・出会い
3
しおりを挟む
カフェの前で別れてすぐ、ふと都築のほうに目をやると、ちょうど背の低い女の子が走り寄ってくるところだった。
ペアリング、ビンゴだ……
背中の真ん中あたりまで伸びた、長い薄茶色の髪が風になびき、優しげなパステルカラーのスカートもふわふわとゆれている。
わたしとは正反対の、子犬みたいに小さくて可愛らしい子だった。
ふーん、意外。
都築の彼女なら、きっとモデルみたいにスタイル抜群の美女だろうと勝手に想像していた。
「ねえ、匡ちゃん……」
風に乗って、彼女の声がかすかに聞こえてくる。
都築の腕を引っ張って、何か一生懸命語りかけている。
彼も柔らかい表情を浮かべて彼女を見つめていて……
うわ、どう見てもラブラブカップルじゃん。
まあ、でも、都築と出会ってすぐに、ふたりの仲睦まじい姿を見ることができてよかった。
わたしが都築に、本格的にハマってしまう前に。
教室の扉を開けた瞬間、「来た!」と女子のひとりが大声で言い、すぐに女子全員に取り囲まれた。
「ねえ、ちょっと、どういうこと? 朱利、いつ都築くんと知り合ったの?」
カフェにいるところを誰かに見られていたらしい。
「いや、あっちから誘われて、コンペで組むことになって」
ひえーと、悲鳴に近い叫びが上がった。
教室の隅で話していた男子たちが、怪訝な顔で一斉にこっちを見てる。
「そんな抜け駆け、ずる過ぎるってー」
「しっかし、よりによって朱利とはねえ」
クラスで一番の仲良しの角田がずけずけと言った。
「朱利、女要素、限りなくゼロなのにね~」
「うるさいなー」
そりゃ、わたしは背が高くて常にセンター・パートのショート・ヘアで、ひらひらキラキラした服は苦手で、シンプルでベーシックな服しか着ないし、よく言えばスレンダー、はっきり言えば、女性らしい曲線がまるでない体型だから、しょっちゅう男に間違えられてはいるけど。
「別に付き合ってくれって言われたわけじゃなし」
「えー、でも共同制作しようなんて、気があるんじゃない? 普通」
「それはない。彼女いるし、都築くん」
「へえ、そうなんだ。まあ確かに、あんたと都築氏が並んでても、彼カノって言うよりBLだけどね。朱利、デカいから」
「悪かったね」
そんなこんなで周囲の注目を浴びながら、制作に忙殺される日々は幕を開けた。
試作に試作を重ね、これで行こうと決まったのはデッドライン3週間前。
それから大急ぎで縫製し、縫い上がったのが1週間前。
けれどまだ、衣装と帽子に恐るべき数のビーズやスパンコールを刺繍するという地獄の作業が待っていた。
「これ、ぜったい間に合わないって。ちょっと数、減らそうよ」
そのわたしの言葉に、都築は露骨にいやな顔をした。
「何言ってんの? 刺繍の緻密さがこの作品の出来不出来を左右するんだぜ。絶対減らせないって」
頭ごなしに否定されたことで、わたしの負けず嫌いな性格に火がついた。
「わかった。やればいいんでしょ」
都築はニヤっと笑った。
「そう来なくちゃ」
ん? 何その顔。
すでに負けず嫌いのこの性格、読まれてるってこと?
ペアリング、ビンゴだ……
背中の真ん中あたりまで伸びた、長い薄茶色の髪が風になびき、優しげなパステルカラーのスカートもふわふわとゆれている。
わたしとは正反対の、子犬みたいに小さくて可愛らしい子だった。
ふーん、意外。
都築の彼女なら、きっとモデルみたいにスタイル抜群の美女だろうと勝手に想像していた。
「ねえ、匡ちゃん……」
風に乗って、彼女の声がかすかに聞こえてくる。
都築の腕を引っ張って、何か一生懸命語りかけている。
彼も柔らかい表情を浮かべて彼女を見つめていて……
うわ、どう見てもラブラブカップルじゃん。
まあ、でも、都築と出会ってすぐに、ふたりの仲睦まじい姿を見ることができてよかった。
わたしが都築に、本格的にハマってしまう前に。
教室の扉を開けた瞬間、「来た!」と女子のひとりが大声で言い、すぐに女子全員に取り囲まれた。
「ねえ、ちょっと、どういうこと? 朱利、いつ都築くんと知り合ったの?」
カフェにいるところを誰かに見られていたらしい。
「いや、あっちから誘われて、コンペで組むことになって」
ひえーと、悲鳴に近い叫びが上がった。
教室の隅で話していた男子たちが、怪訝な顔で一斉にこっちを見てる。
「そんな抜け駆け、ずる過ぎるってー」
「しっかし、よりによって朱利とはねえ」
クラスで一番の仲良しの角田がずけずけと言った。
「朱利、女要素、限りなくゼロなのにね~」
「うるさいなー」
そりゃ、わたしは背が高くて常にセンター・パートのショート・ヘアで、ひらひらキラキラした服は苦手で、シンプルでベーシックな服しか着ないし、よく言えばスレンダー、はっきり言えば、女性らしい曲線がまるでない体型だから、しょっちゅう男に間違えられてはいるけど。
「別に付き合ってくれって言われたわけじゃなし」
「えー、でも共同制作しようなんて、気があるんじゃない? 普通」
「それはない。彼女いるし、都築くん」
「へえ、そうなんだ。まあ確かに、あんたと都築氏が並んでても、彼カノって言うよりBLだけどね。朱利、デカいから」
「悪かったね」
そんなこんなで周囲の注目を浴びながら、制作に忙殺される日々は幕を開けた。
試作に試作を重ね、これで行こうと決まったのはデッドライン3週間前。
それから大急ぎで縫製し、縫い上がったのが1週間前。
けれどまだ、衣装と帽子に恐るべき数のビーズやスパンコールを刺繍するという地獄の作業が待っていた。
「これ、ぜったい間に合わないって。ちょっと数、減らそうよ」
そのわたしの言葉に、都築は露骨にいやな顔をした。
「何言ってんの? 刺繍の緻密さがこの作品の出来不出来を左右するんだぜ。絶対減らせないって」
頭ごなしに否定されたことで、わたしの負けず嫌いな性格に火がついた。
「わかった。やればいいんでしょ」
都築はニヤっと笑った。
「そう来なくちゃ」
ん? 何その顔。
すでに負けず嫌いのこの性格、読まれてるってこと?
1
あなたにおすすめの小説
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ジャンヌ・ダルクがいなくなった後
碧流
恋愛
オルレアンの乙女と呼ばれ、祖国フランスを救ったジャンヌ・ダルク。
彼女がいなくなった後のフランス王家
シャルル7世の真実の愛は誰のものだったのか…
シャルル7世の王妃マリー・ダンジューは
王家傍系のアンジュー公ルイ2世と妃アラゴン王フアン1世の娘、ヨランの長女として生まれ、何不自由なく皆に愛されて育った。
マリーは王位継承問題で荒れるフランス王家のため、又従兄弟となるシャルルと結婚する。それは紛れもない政略結婚であったが、マリーは初めて会った日から、シャルルを深く愛し、シャルルからも愛されていた。
『…それは、本当に…?』
今日も謎の声が彼女を追い詰める…
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
わたしたち、いまさら恋ができますか?
樹沙都
恋愛
藤本波瑠《ふじもとはる》は、仕事に邁進するアラサー女子。二十九歳ともなればライフスタイルも確立しすっかり独身も板についた。
だが、条件の揃った独身主義の三十路には、現実の壁が立ちはだかる。
身内はおろか取引先からまで家庭を持って一人前と諭され見合いを持ち込まれ、辟易する日々をおくる波瑠に、名案とばかりに昔馴染みの飲み友達である浅野俊輔《あさのしゅんすけ》が「俺と本気で恋愛すればいいだろ?」と、囁いた。
幼かった遠い昔、自然消滅したとはいえ、一度はお互いに気持ちを通じ合わせた相手ではあるが、いまではすっかり男女を超越している。その上、お互いの面倒な異性関係の防波堤——といえば聞こえはいいが、つまるところ俊輔の女性関係の後始末係をさせられている間柄。
そんなふたりが、いまさら恋愛なんてできるのか?
おとなになったふたりの恋の行方はいかに?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる