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3・出会い
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その日から3日、授業を休んでほぼ1日中スパンコールやビーズと格闘した。
服飾の専門に入ったぐらいだから、細かい作業は好きなほうだったけど、好きとか嫌いとか、そんな生優しいもんじゃなかった。
どれだけ縫いつけても、ケースの中のビーズやスパンコールは、まったく減る気配を見せない。
食べても食べても減らないふやけたラーメンみたいに。
土日も昼夜問わず格闘し、さすがにふたりともダウン寸前。
それで、コンペ前日は、作業の途中で寝てしまわないようにお互いを監視するため、都築の部屋で一緒に作業することになった。
都築の下宿は、わたしの家から、電車で一駅で意外に近かった。
男子の部屋にふたりきり、というシチュエーションは生まれてはじめてだったし、彼女に悪いんじゃないかなと、チラッと頭をよぎったけれど。
でも、とにかく、翌日までに作品を完成させなければという焦りで、そこらへんのことに構っている余裕はなかった。
だいぶ減ったとはいえ、明日までにまだこれまでの4分の1ぐらいの数を縫い付けなければならない。
駅で待ち合わせて、案内された都築の下宿の部屋に入って荷物を置くと、すぐさま作業を開始した。
2時間ほど黙々とこなしたあと、ちょっと休憩しようと、都築がコーヒーを入れてくれた。
「だいぶ目途が立ったな」
「でもまだまだあるよ。間に合うかな」
都築はわたしのおでこをつんとつついた。
「間に合うかな、じゃなくて、間に合わせるの」
「へいへい」
短い休憩ののち、ふたりでまたちくちくを再開した。
夕飯はカップ麺。
ものの10分で食事終了。
食後もひたすらちくちく。
「あー、もう無理」
日付が変わるころ、わたしは限界に見舞われた。
「ちょっと寝ろよ。ベッド使ってもいいぞ」
「ごめん、悪いけどそうさせて」
本当にダウン寸前だった。
好意に甘えてベッドに横たわり、目を閉じる前に何の気なしに都築のほうを向いた。
ほのぐらい灯りに浮かび上がる、都築の背中をぼーっとした頭で眺めているうちに、心がざわついてきた。
こんなに肩幅広いんだ、都築って……
彼が男であることを強烈に意識してしまい、慌てて目を閉じた。
まるで気泡がはじけるように、胸の奥底に閉じ込めていた想いが一気にはじけた瞬間だった。
――あの筋張った太い腕で抱きしめられたい。
身体の底から沸きあがってきたのは、そんな、生まれてはじめて感じた、息がつまるほどの欲望。
そう。
ただ、自分の気持ちを誤魔化していただけで、わたしは、もうとっくに、どうしようもないほど、都築が好きになっていた。
コンペでグランプリを取るという目標を共有し、日夜、必死で作業をするうちに、都築とわたしのあいだには、急速に同志的な友情が生まれていた。
でもそれはあくまで友情。
恋愛感情までは、遥かに遠い。
第一、都築には最愛の彼女がいる。
今もデスクの前に貼られたツーショット写真のなかで、彼女は屈託のない顔で幸せそうに笑っている。
いくら好きになっても無駄だとわかり切っていたから、今まで、都築を男性として意識しないように必死に自分を抑えていた。
服飾の専門に入ったぐらいだから、細かい作業は好きなほうだったけど、好きとか嫌いとか、そんな生優しいもんじゃなかった。
どれだけ縫いつけても、ケースの中のビーズやスパンコールは、まったく減る気配を見せない。
食べても食べても減らないふやけたラーメンみたいに。
土日も昼夜問わず格闘し、さすがにふたりともダウン寸前。
それで、コンペ前日は、作業の途中で寝てしまわないようにお互いを監視するため、都築の部屋で一緒に作業することになった。
都築の下宿は、わたしの家から、電車で一駅で意外に近かった。
男子の部屋にふたりきり、というシチュエーションは生まれてはじめてだったし、彼女に悪いんじゃないかなと、チラッと頭をよぎったけれど。
でも、とにかく、翌日までに作品を完成させなければという焦りで、そこらへんのことに構っている余裕はなかった。
だいぶ減ったとはいえ、明日までにまだこれまでの4分の1ぐらいの数を縫い付けなければならない。
駅で待ち合わせて、案内された都築の下宿の部屋に入って荷物を置くと、すぐさま作業を開始した。
2時間ほど黙々とこなしたあと、ちょっと休憩しようと、都築がコーヒーを入れてくれた。
「だいぶ目途が立ったな」
「でもまだまだあるよ。間に合うかな」
都築はわたしのおでこをつんとつついた。
「間に合うかな、じゃなくて、間に合わせるの」
「へいへい」
短い休憩ののち、ふたりでまたちくちくを再開した。
夕飯はカップ麺。
ものの10分で食事終了。
食後もひたすらちくちく。
「あー、もう無理」
日付が変わるころ、わたしは限界に見舞われた。
「ちょっと寝ろよ。ベッド使ってもいいぞ」
「ごめん、悪いけどそうさせて」
本当にダウン寸前だった。
好意に甘えてベッドに横たわり、目を閉じる前に何の気なしに都築のほうを向いた。
ほのぐらい灯りに浮かび上がる、都築の背中をぼーっとした頭で眺めているうちに、心がざわついてきた。
こんなに肩幅広いんだ、都築って……
彼が男であることを強烈に意識してしまい、慌てて目を閉じた。
まるで気泡がはじけるように、胸の奥底に閉じ込めていた想いが一気にはじけた瞬間だった。
――あの筋張った太い腕で抱きしめられたい。
身体の底から沸きあがってきたのは、そんな、生まれてはじめて感じた、息がつまるほどの欲望。
そう。
ただ、自分の気持ちを誤魔化していただけで、わたしは、もうとっくに、どうしようもないほど、都築が好きになっていた。
コンペでグランプリを取るという目標を共有し、日夜、必死で作業をするうちに、都築とわたしのあいだには、急速に同志的な友情が生まれていた。
でもそれはあくまで友情。
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第一、都築には最愛の彼女がいる。
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