美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?

あだち

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8 王配候補がわからない(2)

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 仕事は別だと割り切っているから?
 それか、カイルの方にも後ろ暗いところがあるからだろうか。〝あのこと〟を、ルディウスがばらすかもしれないと思っているのだろうか。

 ならなおさら、自分は早急に社会から抹殺されそうな気がするのだが。

「ねぇルディウス様。あなた偉くなるのなら、そのお力で国境だけじゃなくお友達も救ってあげたら?」

 肩をつついてきたのは、数年前から交流を持っている高貴な未亡人だった。
 しかし言われた内容に心当たりがなくて、ルディウスは眉を寄せた。

「友達、ですか」
「あらご存知ないの?」

 やや驚いた様子の婦人は、扇を揺らしながら少し声のボリュームを落とした。

「バーティクス家のハワード様が、スパイ容疑で勾留されてるって話」





「お話があります、ハウゼル卿」

 二度目の呼び出しは人目もはばからなかった。
 女王とともに謁見の間から移動しようとしていたカイルは、不愉快さを隠さずルディウスを一瞥した後、部屋の主に向き直り二言三言囁いていた。ルディウスから表情は見えなかったが、漏れ聞こえた声は心底申し訳なさそうで、女王も不安そうにルディウスを見遣ってから「先に行きますから、なるべく早く戻りなさいね」と返していた。

「私の執務室で話を聞きます、フェリル少佐」 

 カイルはためらいなく、ルディウスをひとけのない場所にいざなう。
 それはルディウスにはとても好都合だったし、同時に確信させた。
 聞かれたくない話なのだ。彼にとっても。

「で。今度は何かね」

 部屋の扉を閉めると、カイルは部屋の真ん中に佇むルディウスを通り越して執務机の椅子を引き腰を下ろした。
 きれいに整理されたその机を、ルディウスは怒りに任せて強く叩く。

「しらばっくれるな! ハワード・バーティクスが隣国のスパイ? 冤罪にもほどがある、あのちゃらんぽらんにそんな腹芸できるわけあるか!」

 額がつきかねない至近距離で睨みつけても、カイルは目を伏せたまま、顔色ひとつ変えない。以前に殴った痣はもうずいぶんと薄くなっていた。

「……冤罪かどうかは、今審議中でね。彼の個人的な輸入品には、経路の怪しい物が含まれている」
「それが表向きの理由か。外国産の煙草の件なら外務省に特例許可を得てる。おまえにとやかく言われる筋合いの物じゃない」
「それが事実だとわかったら釈放する。彼が潔白だと確信しているなら、なおのこと大人しく待っていれば済むことだ」

 そう言うと、カイルは机の引き出しを開けて、中から琥珀色の酒で満たされた瓶を取り出した。
 これ見よがしの余裕に、ルディウスの怒りはますます燃え滾る。
 
「……ぬかったよ。多少なりともおまえを見直した自分が許せねぇ。おまえの口からあいつのことが出てきたときに、警戒すべきだったのに」
「自分を責めるのは勝手だが、八つ当たりは困るな少佐」
「八つ当たりじゃない、タイミングが全部物語ってる。捕まえた本当の理由は、俺への嫌がらせなんだろ。まわりくどいことしやがって」
「話題のニュースはもれなく自分と結びつけなきゃ気が済まないか、英雄」
「あいつは無関係だ!」

 とうとうルディウスは前回のように胸倉を掴んだ。力任せに引き寄せるが、カイルの目はルディウスを見もしない。顔は手元の引き出しに向いている。
 音を立てて、磨かれたグラスが机の上に二つ置かれる。先に置かれた酒は既に開栓済みだった。上品な顔立ちの持ち主にはそぐわない、強い酒。
 引き出しに手を入れたまま、カイルは片方の口角をくっと上げた。

「必死だな。ずいぶん大事な男のようだ」
 
 ルディウスの目元がぴくりと動いた。
 ハワードとは性的にお互い都合よく使い合うだけの関係だが、それを除けば善良な友人の一人だ。軽い男だが、自分のトラブルの巻き添えを食ういわれはない。
 夜会でたまたま自分と一緒にいただけでルディウスのアキレス腱だと思われたのなら、その誤解を払拭するのは自分の役目だ。そう考えるルディウスに対するカイルの声は冷え切っていた。

「こんなにわかりやすい男が軍神だなんて持て囃されて、作戦立案にもかかわっていたとは信じられないな。自分への嫌がらせ? きみの中の私はずいぶん単純なんだな」
「……おまえ、なんか勘違いしてるようだが」
「まぁ浅慮なのはわかりきっていたがな。自分の立場も忘れて最前線に飛び出すくらいだし」
「よく聞、」

 ルディウスは言葉を切って、カイルのタイを掴む自らの腕を見た。
 そこに深々と刺さった、注射針を。

 緑の目で冷たく見上げ、美貌の男が吐き捨てる。

「二度と姿を現すなと言ったのも、すっかり忘れているらしい」
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