美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?

あだち

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7 王配候補がわからない(1)

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「良い話?」
 
 訝しげに繰り返したルディウスの目の前に、別の書類束が差し出される。

「負傷した退役軍人への年金の増額と、遺族への支援の拡充。国境の補強もかなったから、おまえの懸念する〝次〟は、まあまあ先までこないだろうよ。決議結果が出たあとの財務大臣ときたら、見ものだったぞ。歩く屍のようで」

 ルディウスは、極秘と書かれた書類の字を追った。その目がところどころで見開かれ、まじか、と小さな呟きが口をつく。

「……どっから出たんですかね、この原資は。賠償金、ずいぶん相手に優しい金額だったと思いますけど」
「そりゃ方々削ってひねり出したに決まってる。金は湧いてこない。新たに決まった国境もほとんど金を生まない。おかげで和平条約がすぐ締結できたんだろうが、戦争にかかった金を考えたら大赤字だ。発議者もそれが分かってるから、足りない分は持ってる奴らから削り取ることにしたんだろう」
「持ってる奴?」

 決済欄を見れば、要職にはほとんど回っている。財務大臣のサインは若干曲がって枠からはみ出ていた。

「お貴族軍人だよ。ほぼ叩き上げのおまえと違って、軍事大学出たあと軍服とよくわからん勲章だけもらって、家にいて特に何もせず給与だけもらう奴ら。あの辺の給与をバッサリ切ったそうだ。おかげで来年以降はその手の大学から貴族の子弟が減るだろうな。いいさ、代わりにやる気のある若いのが、逃げた奴らの倍入って来る。なぁ?」 

 含みのある言葉尻に、ルディウスは面喰らう。

「……おっしゃる意味がわかりかねますが」
「英雄の活躍には憧れがつきものだ。次は自分が、敵の正面を突破してみせるって息巻く小僧たちが、辞める甘ったれの倍は入って来るよ」

 まあ残る奴の数を見たら、今までととんとんかもしれんがなと、上司は日焼けした頬を吊り上げた。

「しかし寂しくなるなぁ、おまえきっと、近いうちに昇進と一緒に異動の話も出てくるぞ。第一師団の花形、中央連隊の指揮官が退官するから、きっとそこだろう。……しまった、これまだ内密事項だったな」



 誰か聞き耳でも立てていたのだろうか。
 そう思ってしまうのは、訓練所を出たルディウスが、もうすでに昇進が決まっているかのような祝福の言葉をあちこちで浴びたからだ。

「おめでとうございますフェリル少佐!」
「さすがは俺の後輩、次は結婚だな!」
「いやまだまだ遊ぶだろ、おまえは独身の希望だからな!!……まだしないよなダーリン?」

 無責任なことを言う周りに合わせてルディウスは笑った。まだ決定じゃないとまじめくさって訂正するのは野暮だし、結婚についてはするもしないも考えていない。つい数週間前、行けば帰れないかもしれないと言われた激戦地からどうにか帰ってきたばかりなのだ。
 だけど周囲の状況はルディウス本人を置いて刻々と変化していっている。都合のいいことも悪いことも。

 ――いつもうっすらと、頭の中にあった。何かの折に口に出したこともあった。
 国のために戦った人間に、もっと報いてやれないのか。遺された家族にも。王都から遠く、いつも脅威に晒される国境の守りを、もっと固められないのか。
 ぼんやりと思っていたことを具体的な形にまとめた書類を見て、これは政治の場ではこんな風に形になるのかと、不思議な気持ちで読み進めた。

 発議者の名前の欄には、何度読み直してもカイル・ハウゼルと書いてあった。共同発案者の名前はいずれも、もとから彼を高く評価していた老齢の高位貴族たちのもの。鉄の財務大臣を殴るには十分な影響力だったことだろう。

 これが。
 これが、彼の政治手腕というものなのだろうか。――蜜を削られる貴族軍人の中には、彼自身や、彼の身内に数えられる人間も多数いる。

(なんなんだあいつ)

 軍の手厚い改革を推し進め、実現のためには身を削ることも厭わない。
 一方で、英雄と称えられたルディウスを、本人に伝わるほど毛嫌いする。憎んですらいるようだった。ルディウスが憎くて妹に手を出したのだろうかと思うほど。

 そんなにも憎むなら、なぜこの前のことに報復してこないのだろう。
 こんなにも噂が回るのが早い王宮で、出仕を再開したカイルがフェリル家やルディウス本人に何らかの処罰を加えようとしているという話は全く聞こえてこなかった。

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