愛する人の手を取るために 番外編

碧水 遥

文字の大きさ
3 / 8

初恋 エルヴァート 上

しおりを挟む
 婚約が決まったのは、私が12歳の時だった。王族としては、遅いくらいだ。大抵の王族や高位貴族は、10歳のお披露目までに婚約者を決め、そこで発表もするものだから。

「ルルティアのアナスタシア王女、ですか……」

 まあ、当然と言えば当然の相手だ。今まで決まらなかったのが不思議なくらいに。

「近々顔合わせをするゆえ、そのつもりでな」

「は、かしこまりました」



▼△▼△



 アナスタシア王女を初めて見た時、相手も大して私に興味がないな、と感じた。
 これでも私は、それなりに女性にモテる顔立ちだと思うのだけどね。

「初めまして、アナスタシア王女。ランディアの王太子、エルヴァート・ランディアです」

「ようこそおいでくださいました。初めまして、王太子殿下。わたくしはルルティアの第1王女、アナスタシア・ルルティアと申します」

 私の方がルルティアこちらに来たことに、特に意味はない。単に、まだ7歳の女の子を呼びつけるのはどうか、と思っただけだ。

 父上は、最後まで反対していたが。

 アナスタシア王女は、綺麗な子だった。
 赤味がかった艶々の金髪に、少し吊り上がり気味の大きな緑色の瞳。

 その瞳が真っ直ぐ私を射抜き、どうにも落ち着かない気分にさせられる。
 ただ、その瞳に好奇心が全く浮かんでいないのだ。

 では、お2人で歓談を……と言われて庭に出る。

 エスコートしながら案内されるままに歩いていくと、ガゼボに着いた。

「弟と、その婚約者ですわ」

 そこにいたのは、王女より1つ下だという弟のレオナード王太子と、その婚約者であるフロリアーナ・ティアール嬢だった。

 ティアール嬢、ね。と、いうことは、オルグあの帝国の血筋か。……扱いの難しい子だなぁ。

 ティアール嬢は、何と言うか……儚げな、天使みたいな子だった。もちろん、見た目が。
 淡いふわふわの金髪に、透けるような水色の瞳。ピンクの唇。
 話してみれば、守られてよしとする子じゃない、なんてすぐに判るけれど。

 それに、レオナード王子は。……こんなに判りやすくていいのかな、仮にも一国の王太子だろう?確かにまだ6歳だけれど……ティアール嬢はちゃんとしているのに。

 姉であるアナスタシア王女の腕にべったり抱きついて、私を思いっきり睨みつけているのだが。
 容姿は姉上に似ているな、赤味がかった金髪と、緑色の瞳はルルティア王家の特徴か。

「お前なんか、姉上に相応しくないんだからな!お前が婚約者なんて、ボクは絶対に認めない!姉上に政略結婚なんかさせるもんか!!」

「王太子殿下!!」

 慌てて声をかけたのは、ティアール嬢だった。しかし、何で婚約者との席の間がこんなに空いているんだ。
 袖を引こうとしたのだろうが、手が届いてないぞ。

「うるさい!お前なんか……!」

 ティアール嬢にも悪態を吐こうとしたところで、アナスタシア王女が止めた。物理で。

 バシッといい音をさせて、閉じた扇でレオナード王子の頭をはたくと、ニッコリと微笑んだ。

「フロリー、ご挨拶は済んだから、お退がりなさいな」

「はい、アニーさま。……では、失礼いたします」

 滑るように椅子から降り、見事なカーテシーをする。……この子も6歳だった筈?

「なっ、ふざけるなぁ……!!」

 レオナード王子は、後ろの護衛が拘そ……抱き上げて連れて行った。
 最後まで何か喚いていた。……他人事ながら、大丈夫か?あの王太子で。

「……お見苦しいところをお見せいたしました」

「いや、まだ6歳であられるのだから、素直でよろしいでしょう。……お姉さまがお好きなのですね?レオナード王子は」

「申し訳ございません……」

 おや、動かなかった微笑が崩れて赤くなってる。……皮肉を言ったつもりはなかったのだけど。

「では、我々は仲良くしましょうか。弟御に認めて貰えるように」

「それはもちろんですわ」

 顔を上げてニッコリと微笑んだ表情は、とても可愛い。やっぱり私に興味はないみたいだけれど。

 まあ、政略結婚なんてこんなものだろう。

 私も人のことは言えないしね。



▼△▼△



 婚約者が決まってから3年後。アナスタシア王女が10歳を迎えたので、まずランディアでお披露目をすることになった。

 お披露目、と言っても、大したことをする訳ではない。大人たちの夜会の始めに、挨拶とダンスをするだけだ。
 挨拶は子どもの中で一番身分が高い子──今回はもちろん、アナスタシア王女──と決まっていて、今まで無事に育ったことに、感謝を捧げる。

 厄介なのは、ダンスかな。何せ、無事に育ったことのお披露目だから、10歳として出来る限りの難しいステップを見せなければならない。
 これが結構、大変なのだ。

「アナスタシア王女、用意はいいかな?」

「はい、エルヴァートさま」

「行くよ」

 10歳になって、アナスタシア王女は随分と大人びた。今はもう、可愛らしい、なんて言えないな。美しい、と言わなければ。
 まあ相変わらず、お互いにはないけれど、国を守るためのパートナーにでもなれたら、それでいいと思う。

 初めて履いただろうハイヒールで、見事なステップを踏むアナスタシア王女に感心しながらダンスを終え、王女は退がる。まだ夜会に参加出来ないからだ。

 そして、その足で自国まで帰らなければならない。今度は、ルルティアでお披露目をするからだ。

「では、送れないけれど気をつけて。……アナスタシア王女?」

 エスコートしていた手が、熱いような気がする。

 踊ったからか?

「失礼いたしますわ、エルヴァートさま」

 カーテシーをすると、王女は急いでその場を立ち去った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

デネブが死んだ

ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。 夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。 嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。 アデラインは病弱のデネブを元気付けた。 原因となる病も完治した。それなのに。 ある日、デネブが死んだ。 ふわっとしてます

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

魔女の祝福

あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。 長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。 予約投稿で5/12完結します

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

処理中です...