わたくしを許さないで

碧水 遥

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中編

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 アウローラが目を覚ましたのは、次の日の昼過ぎだった。

「お嬢さま!良かった、お目覚めですか?」

「……ええ」

「お飲み物をお持ちしますね」

 どうやら、自分は倒れたらしい。

「……ダンスも出来ない王妃なんて、どこにいるのかしら」

 くすくす、と笑う声は、すぐに途絶えた。酷く咳き込み、喉元に迫り上がるものを吐き出す。

「お嬢さまっっ!!誰か!医師をっ!!」

 サイドテーブルのタオルを掴み、アウローラの口許を覆う。それは、あっという間に真っ赤に染まった。

「アウローラっ!」

 両親と共に医師が駆けつけ、処置をする。ようやく落ち着いた時には、アウローラの顔は真っ青を通り越し、真っ白になっていた。

「もう、……時間が……」

 呟いたアウローラを、母が抱きしめた。

「もう、いいではありませんか!こんなに無理をしなくたって、いいでしょう⁉︎お願い、アウローラ、お家にいてちょうだい!お母さまと一緒に、ゆっくり過ごしましょう⁉︎ね⁉︎」

「い……や……」

「アウローラ!!」

「いや……このままじゃ、みんなわたくしを忘れてしまうもの……わたくしがいたことを、誰も覚えていてくれない……」

「わたくしたちがいるわ!ずっと……!」

「兄さまのお子が生まれたら?可愛くって、わたくしのことなんて忘れてしまうわ」

「アウローラ……」

「だから……わたくしが、王妃を育てるの。わたくしがされて来た教育をして、わたくしが愛したように、レイさまを」

 うっとりと微笑んでいたアウローラは、不意に顔を歪めた。

「……いや。いやよ!いや!どうして、愛している方を他の方に譲らなければならないの⁉︎いやよ、わたくしが王妃になるの、わたくしがレイさまの隣に立つの、わたくしが」

「落ち着きなさい、アウローラ、また発作が!」

 伸ばされた父の手に縋りつき、アウローラは堰を切ったように泣き出した。

「死にたくない……死ぬのはいやよ!レイさまのお嫁さまになるの、約束したの、死にたくない……!」

「くっ……アウローラ……!」

 妻と娘を一緒に抱きしめ、公爵は声を殺した。

 そう。死ぬのだ、アウローラは。命の期限は、もう1年を切っている。

 発症したのは5年も前、まだ12歳の頃。
 不治の病だった。内臓がどんどん機能を失っていき、体内で出血しては吐血する。それを繰り返し、体力が削られ、症状が進めば食事もろくに出来なくなる。

「どうして……どうして、アウローラが……わたくしの愛しい子……」

 気を失ったアウローラの顔を綺麗にしてやり、夫人はそっとアウローラの髪を撫でた。どんなに必死にケアしても、栄養が取りづらくなって艶の失せて来た髪を。

「……取り敢えず、王太子を殴りたい」

「……そうですわね」

 アウローラが何をしているか、もちろん両親は知っていた。
 つまり、王太子が浮気したことを。

「アウローラが楽しそうだったから、いいか、と思っていたが。……やはり、辛かったのだな」

「それは……そうですわ。アウローラは、殿下をお慕いしているのですから。……この子が、泣く程に」

「……やはり、殴って来よう」

「幸せになれる筈だったのに……好きな人と結婚出来る筈だったのに……」

 静かに涙を流す妻を、公爵はそっと抱きしめた。



▼△▼△



 その日から、アウローラは学園に通えなくなった。熱が下がらず、起き上がれなくなったのだ。

 リーリアの教育は、マリス公爵が手を回した。アウローラに基礎を叩き込まれること約2年、リーリアは充分に、アウローラの元教育係の授業についていけるようになっていた。

 そして、レイティスとリーリアは卒業を迎える。
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