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前編
「あなたが、リーリア・ベル子爵令嬢ですの?」
「は……はい、マリス公爵令嬢」
放課後、人のいない空き教室にて。
リーリアは、王太子の婚約者であるアウローラ・マリス公爵令嬢に、震えながら頭を下げていた。
婚約者がいるのは、知っていた。けれど、どうしても。どうしても諦めきれず、もう少し、もう少しだけ、と王太子との交際を続け、とうとう1年後、アウローラが入学して来てしまった。
「あなた、殿下をどう思っていらっしゃるの?正直にお答えなさい」
知らない訳、ないよね。怒るのも当然だし。
ああ、家族にお咎めがないといいな……。
「お……お慕いしておりますっ……心から!……申し訳ございませんっ!!」
「……そう」
「申し訳ございません……っ!どうか、どうか家族だけは……!」
「……あなた、殿下の隣に立つ覚悟はあって?」
「……え?」
「何の瑕疵もないわたくしから、殿下を奪った悪女と罵られるでしょう。あなたの大切な家族も、毒婦を育てた不届き者、と指を差されるでしょう。それでも……殿下の隣に立つ気概はあって?」
「マリス公爵令嬢……?」
「どうですの?」
「あ……ありますっ!」
瞳に力を込め、リーリアはアウローラを睨むように見つめた。
望んでいいのなら、どんな非難だって受けてみせるわ!あの方の隣に立つためなら!
「……そう。ならば、わたくしが王妃教育を叩き込んで差し上げてよ」
「……え⁉︎」
リーリアは、アウローラの言葉にポカンとした。
そんなことが許される訳がない、自分はしがない子爵令嬢だ。
でも……本当だったら?
「な……何故ですか?」
「理由など、どうでもよろしいですわ。やりますの?やりませんの?」
「やっ、やります!!」
その日から、リーリアは文字通り王妃教育を叩き込まれた。
出来ない、と泣けば、小枝の鞭で手のひらを叩かれる。
もう辞める、と喚けば、酷い言葉で罵られる。
もちろん、人がいない放課後にやっているのだが、アウローラがリーリアを苛めている、とすぐに噂になった。
「アウローラ。リーリアのことは、すまないと思っている。だが、悪いのは私なのだ。あなたがいながら、リアに惹かれてしまった……頼むから、アウローラ。リアに当たるのはやめてくれないか」
王太子であるレイティスに真摯な瞳で懇願され、だがアウローラはいつもの表情でニッコリ笑った。
「わたくし、リーリアさまのためにしているのですわ」
「アウローラ!私はっ、……私のせいであなたに傷を付けたくないのだ……」
絞り出すような声に、アウローラは美しくカーテシーをした。
「わたくしに付く傷など、些細なことですわ。殿下は、どうぞお気になさらず」
「あなたは……一体、何を隠している……?」
「……ご下問ですか?お答え致しますか?」
「……いや、命じた訳ではない。……アウローラ。私の言う言葉ではないが……あなたには、何の問題もないのだ。だから、自分を追い詰めないで欲しい」
「あなたは……残酷ですわね。いっそ、わたくしを罵って、幻滅させてくださればよろしいのに……」
「アウローラ?」
「御前を失礼致します」
優雅に踵を返し、アウローラは滑るような足取りで歩き去った。
▼△▼△
「違いますわ!まだ、ステップの1つもまともに踏めませんの⁉︎」
「ごっ、ごめんなさいっ……!」
「お言葉!」
「申し訳ございませんっ!」
リーリアの靴は、ボロボロになっていた。古いからではない。履き潰されているのだ。
それは、練習用のドレスも同じだった。
「1度で出来ないなら、2度おやりなさい!それで出来ないなら、10度おやりなさい!それでも駄目なら、100度おやりなさい!」
「はい!」
間違えた箇所をもう1度やり直す。リーリアがグラリとよろけて尻餅をつくと、座って見ていたアウローラが立ち上がった。
「体重移動が早いですわ!こう!」
まるで、羽でも生えているかのような、軽々としたステップ。それでいて優雅で、美しい。
リーリアは、唇を噛み締めた。
「ほら、手を!」
「はい!」
「相手に頼ってはなりません!まず、自分でバランスを取るのです」
「はい!……こう、ですか?」
「今ので最低限ですわ。もう1度!」
「はい!」
アウローラに何度かパートナーを務めてもらい、ようやく納得するステップが踏めるようになる。
嬉しくなったリーリアは、通して踊ってみようとアウローラを振り返った。
「アウローラさま!始めから……アウローラさま⁉︎」
「お嬢さま!!」
アウローラは床に手をつき、蹲っていた。慌てた侍女が駆け寄り、もう1人は護衛を呼びに走り出す。
「アウローラさま……?」
恐る恐る声を掛けると、ギッと侍女に睨まれた。
「今日はこれで失礼します」
「は……はい。ありがとうございました」
護衛に抱き上げられたアウローラに向かって、カーテシーをする。
ただペコリと頭を下げていた頃と比べれば、格段に美しい仕草だ。
いつもなら少しだけ表情を緩めてくれるアウローラは、顔を見せなかった。
「は……はい、マリス公爵令嬢」
放課後、人のいない空き教室にて。
リーリアは、王太子の婚約者であるアウローラ・マリス公爵令嬢に、震えながら頭を下げていた。
婚約者がいるのは、知っていた。けれど、どうしても。どうしても諦めきれず、もう少し、もう少しだけ、と王太子との交際を続け、とうとう1年後、アウローラが入学して来てしまった。
「あなた、殿下をどう思っていらっしゃるの?正直にお答えなさい」
知らない訳、ないよね。怒るのも当然だし。
ああ、家族にお咎めがないといいな……。
「お……お慕いしておりますっ……心から!……申し訳ございませんっ!!」
「……そう」
「申し訳ございません……っ!どうか、どうか家族だけは……!」
「……あなた、殿下の隣に立つ覚悟はあって?」
「……え?」
「何の瑕疵もないわたくしから、殿下を奪った悪女と罵られるでしょう。あなたの大切な家族も、毒婦を育てた不届き者、と指を差されるでしょう。それでも……殿下の隣に立つ気概はあって?」
「マリス公爵令嬢……?」
「どうですの?」
「あ……ありますっ!」
瞳に力を込め、リーリアはアウローラを睨むように見つめた。
望んでいいのなら、どんな非難だって受けてみせるわ!あの方の隣に立つためなら!
「……そう。ならば、わたくしが王妃教育を叩き込んで差し上げてよ」
「……え⁉︎」
リーリアは、アウローラの言葉にポカンとした。
そんなことが許される訳がない、自分はしがない子爵令嬢だ。
でも……本当だったら?
「な……何故ですか?」
「理由など、どうでもよろしいですわ。やりますの?やりませんの?」
「やっ、やります!!」
その日から、リーリアは文字通り王妃教育を叩き込まれた。
出来ない、と泣けば、小枝の鞭で手のひらを叩かれる。
もう辞める、と喚けば、酷い言葉で罵られる。
もちろん、人がいない放課後にやっているのだが、アウローラがリーリアを苛めている、とすぐに噂になった。
「アウローラ。リーリアのことは、すまないと思っている。だが、悪いのは私なのだ。あなたがいながら、リアに惹かれてしまった……頼むから、アウローラ。リアに当たるのはやめてくれないか」
王太子であるレイティスに真摯な瞳で懇願され、だがアウローラはいつもの表情でニッコリ笑った。
「わたくし、リーリアさまのためにしているのですわ」
「アウローラ!私はっ、……私のせいであなたに傷を付けたくないのだ……」
絞り出すような声に、アウローラは美しくカーテシーをした。
「わたくしに付く傷など、些細なことですわ。殿下は、どうぞお気になさらず」
「あなたは……一体、何を隠している……?」
「……ご下問ですか?お答え致しますか?」
「……いや、命じた訳ではない。……アウローラ。私の言う言葉ではないが……あなたには、何の問題もないのだ。だから、自分を追い詰めないで欲しい」
「あなたは……残酷ですわね。いっそ、わたくしを罵って、幻滅させてくださればよろしいのに……」
「アウローラ?」
「御前を失礼致します」
優雅に踵を返し、アウローラは滑るような足取りで歩き去った。
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「違いますわ!まだ、ステップの1つもまともに踏めませんの⁉︎」
「ごっ、ごめんなさいっ……!」
「お言葉!」
「申し訳ございませんっ!」
リーリアの靴は、ボロボロになっていた。古いからではない。履き潰されているのだ。
それは、練習用のドレスも同じだった。
「1度で出来ないなら、2度おやりなさい!それで出来ないなら、10度おやりなさい!それでも駄目なら、100度おやりなさい!」
「はい!」
間違えた箇所をもう1度やり直す。リーリアがグラリとよろけて尻餅をつくと、座って見ていたアウローラが立ち上がった。
「体重移動が早いですわ!こう!」
まるで、羽でも生えているかのような、軽々としたステップ。それでいて優雅で、美しい。
リーリアは、唇を噛み締めた。
「ほら、手を!」
「はい!」
「相手に頼ってはなりません!まず、自分でバランスを取るのです」
「はい!……こう、ですか?」
「今ので最低限ですわ。もう1度!」
「はい!」
アウローラに何度かパートナーを務めてもらい、ようやく納得するステップが踏めるようになる。
嬉しくなったリーリアは、通して踊ってみようとアウローラを振り返った。
「アウローラさま!始めから……アウローラさま⁉︎」
「お嬢さま!!」
アウローラは床に手をつき、蹲っていた。慌てた侍女が駆け寄り、もう1人は護衛を呼びに走り出す。
「アウローラさま……?」
恐る恐る声を掛けると、ギッと侍女に睨まれた。
「今日はこれで失礼します」
「は……はい。ありがとうございました」
護衛に抱き上げられたアウローラに向かって、カーテシーをする。
ただペコリと頭を下げていた頃と比べれば、格段に美しい仕草だ。
いつもなら少しだけ表情を緩めてくれるアウローラは、顔を見せなかった。
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