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後編
「アウローラ・マリス公爵令嬢!あなたとの婚約は、レイティス・ジューダスの名において、今この場にて破棄する!」
「……まあ」
アウローラは、美しかった。結い上げた金髪はシャンデリアの光にキラキラと煌めき、透き通る程白い顔はうっすらと上気し、丹念な化粧が深い青の瞳を引き立てている。
身体を覆う青いドレスは露出の殆どないもので、僅かに開いた胸元には、大きなサファイアのネックレスがあしらわれている。身に付けているアクセサリーは、何故かそれだけだった。
「お待ちください!アウローラさまは、わたくしのために!」
「……リーリアさま、許可を得ずに口を挟んではなりませんわ」
「アウローラさま……!」
「アウローラ・マリス公爵令嬢……あなたは私の忠告に従わず、リーリアを酷く虐げていたね。何故……それを私にぶつけてくれなかったのか。リーリアに当たるのはやめて欲しい、と言った筈だ」
一瞬泣き出しそうな表情になったレイティスは、それでもすぐに立て直した。
「いくら私の婚約者とはいえ……公爵令嬢とはいえ、身分を笠に着る人に王妃は務まらない。……婚約は、破棄してもらう」
「ふふ……最後まで、罵ってはくださいませんのね。……わたくしは、レイさま。あなたのお嫁さまに……いえ」
ニッコリと。美しい微笑を浮かべ。
アウローラは、最期に見惚れる程のカーテシーをした。
「では、皆さま。ごきげんよう。悪役は、退場いたしますわ」
「待って!やめて!アウローラさま!!」
アウローラが胸元のサファイアから取り出したものを、リーリアは叩き落とした。
「リーリアさま?」
「やめてくださいませ……!あなたがこんな亡くなり方をしたら、わたくし、殿下を許せませんわ!!」
リーリアはアウローラを抱きしめ、その痩せ細った身体に涙しながら、レイティスを睨みつけた。
「わたくしは!申し上げましたよね!アウローラさまがわたくしの王妃教育をしてくださったのだ、と!靴がボロボロになる程、ドレスが擦り切れる程、わたくしに付き合ってくださったのだ、と!」
「リ……リア⁉︎」
「わたくしへの嫌がらせが酷くなったここ1ヶ月、アウローラさまは学園にいらしてないと、わたくし、言いましたよね⁉︎」
「……リーリアさま、お言葉と、お顔」
「はい、申し訳ございません。……申し上げましたわ、殿下」
ニッコリと、今度はリーリアが微笑んだ。穏やかな笑顔で、言葉遣いで、言っていることは王太子への文句だった。
「し……しかし……きみが、苛められていると」
「アウローラさまは、わたくしが泣いても、喚いても、王妃教育を叩き込んでくださいました。それは、わたくしの覚悟を促すため。……苛めにすら耐えられない女が、あなたの隣に立つことなど出来ませんわ」
「リーリアさま……わたくしがしたのはただの自己満足で、あなたのためではありません。わたくしは……何も残さず、死にたくなかった」
「……は?死ぬ?」
ポカンと口を開けたレイティスには構わず、リーリアはアウローラの両手を握りしめた。
「マリス公爵閣下に、すべてお聞きしました。あなたが、ここで華々しく最期を迎えようとしていたのも。ですが……」
殊更穏やかに微笑んで、リーリアは軽く首を傾げた。
「奥さまに、泣かれたのですって。娘のために泥をかぶる覚悟はしていたけれど、奥さまの涙には敵わなかったのですって。……ですから、アウローラさま」
「……はい」
「お母さまのため……何なら、利用したわたくしのためでもよろしいですわ。ご自分で最期をお決めにならないで……」
「リーリアさま……」
「殿下のこんな愚かな行為も、許してはならないでしょう?マリス公爵の後ろ盾を失った殿下がどんなに苦労するか、笑って見ていましょう?」
「リ……リーリアさまったら……」
「お願いですわ、アウローラさま。わたくしに、恩返しをさせてくださいませ」
リーリアのこの上なく美しいカーテシーに、アウローラは満足そうに微笑んだ。
▼△▼△
それから。
レイティス王太子は、今までのことをすべて聞かされ、己の不甲斐なさに涙した。何度もアウローラに会いに行ったが、リーリアががっちりガードして会わせてもらえず、ようやく顔が見られたのは2ヶ月も経ったあとだった。
「……色々と、すまない……」
謝るレイティスに微笑むだけで、アウローラは許すとは言わなかった。
リーリアは、マリス公爵家の養女になった。流石に子爵令嬢のままでは、レイティスの隣に立つのは難しかったので。
アウローラの居場所が無くなるようで、兄のラルクは泣いてまで反対したけれど、結局アウローラに押し切られた。
▼△▼△
「どうかして?アウローラ」
「わたくし……あなたに許されたくなかった。レイティス殿下に、許されたくなかった。……忘れないで欲しかった」
「忘れないわ。いつまででも覚えているわ。あなたがくれた知識も、ダンスも、……誇り高さも」
「……本当?」
「ええ。……だから子どもが生まれても、あなたの名前は付けないわ。アウローラは、あなただけだもの」
幸せそうに微笑んで……アウローラは、ゆっくりと目を閉じた。
「アウローラ?眠ったの?わたくしね、あなたのこと……」
答えがないのを承知で、リーリアは誰よりも美しく微笑んだ。
「……大好き」
「……まあ」
アウローラは、美しかった。結い上げた金髪はシャンデリアの光にキラキラと煌めき、透き通る程白い顔はうっすらと上気し、丹念な化粧が深い青の瞳を引き立てている。
身体を覆う青いドレスは露出の殆どないもので、僅かに開いた胸元には、大きなサファイアのネックレスがあしらわれている。身に付けているアクセサリーは、何故かそれだけだった。
「お待ちください!アウローラさまは、わたくしのために!」
「……リーリアさま、許可を得ずに口を挟んではなりませんわ」
「アウローラさま……!」
「アウローラ・マリス公爵令嬢……あなたは私の忠告に従わず、リーリアを酷く虐げていたね。何故……それを私にぶつけてくれなかったのか。リーリアに当たるのはやめて欲しい、と言った筈だ」
一瞬泣き出しそうな表情になったレイティスは、それでもすぐに立て直した。
「いくら私の婚約者とはいえ……公爵令嬢とはいえ、身分を笠に着る人に王妃は務まらない。……婚約は、破棄してもらう」
「ふふ……最後まで、罵ってはくださいませんのね。……わたくしは、レイさま。あなたのお嫁さまに……いえ」
ニッコリと。美しい微笑を浮かべ。
アウローラは、最期に見惚れる程のカーテシーをした。
「では、皆さま。ごきげんよう。悪役は、退場いたしますわ」
「待って!やめて!アウローラさま!!」
アウローラが胸元のサファイアから取り出したものを、リーリアは叩き落とした。
「リーリアさま?」
「やめてくださいませ……!あなたがこんな亡くなり方をしたら、わたくし、殿下を許せませんわ!!」
リーリアはアウローラを抱きしめ、その痩せ細った身体に涙しながら、レイティスを睨みつけた。
「わたくしは!申し上げましたよね!アウローラさまがわたくしの王妃教育をしてくださったのだ、と!靴がボロボロになる程、ドレスが擦り切れる程、わたくしに付き合ってくださったのだ、と!」
「リ……リア⁉︎」
「わたくしへの嫌がらせが酷くなったここ1ヶ月、アウローラさまは学園にいらしてないと、わたくし、言いましたよね⁉︎」
「……リーリアさま、お言葉と、お顔」
「はい、申し訳ございません。……申し上げましたわ、殿下」
ニッコリと、今度はリーリアが微笑んだ。穏やかな笑顔で、言葉遣いで、言っていることは王太子への文句だった。
「し……しかし……きみが、苛められていると」
「アウローラさまは、わたくしが泣いても、喚いても、王妃教育を叩き込んでくださいました。それは、わたくしの覚悟を促すため。……苛めにすら耐えられない女が、あなたの隣に立つことなど出来ませんわ」
「リーリアさま……わたくしがしたのはただの自己満足で、あなたのためではありません。わたくしは……何も残さず、死にたくなかった」
「……は?死ぬ?」
ポカンと口を開けたレイティスには構わず、リーリアはアウローラの両手を握りしめた。
「マリス公爵閣下に、すべてお聞きしました。あなたが、ここで華々しく最期を迎えようとしていたのも。ですが……」
殊更穏やかに微笑んで、リーリアは軽く首を傾げた。
「奥さまに、泣かれたのですって。娘のために泥をかぶる覚悟はしていたけれど、奥さまの涙には敵わなかったのですって。……ですから、アウローラさま」
「……はい」
「お母さまのため……何なら、利用したわたくしのためでもよろしいですわ。ご自分で最期をお決めにならないで……」
「リーリアさま……」
「殿下のこんな愚かな行為も、許してはならないでしょう?マリス公爵の後ろ盾を失った殿下がどんなに苦労するか、笑って見ていましょう?」
「リ……リーリアさまったら……」
「お願いですわ、アウローラさま。わたくしに、恩返しをさせてくださいませ」
リーリアのこの上なく美しいカーテシーに、アウローラは満足そうに微笑んだ。
▼△▼△
それから。
レイティス王太子は、今までのことをすべて聞かされ、己の不甲斐なさに涙した。何度もアウローラに会いに行ったが、リーリアががっちりガードして会わせてもらえず、ようやく顔が見られたのは2ヶ月も経ったあとだった。
「……色々と、すまない……」
謝るレイティスに微笑むだけで、アウローラは許すとは言わなかった。
リーリアは、マリス公爵家の養女になった。流石に子爵令嬢のままでは、レイティスの隣に立つのは難しかったので。
アウローラの居場所が無くなるようで、兄のラルクは泣いてまで反対したけれど、結局アウローラに押し切られた。
▼△▼△
「どうかして?アウローラ」
「わたくし……あなたに許されたくなかった。レイティス殿下に、許されたくなかった。……忘れないで欲しかった」
「忘れないわ。いつまででも覚えているわ。あなたがくれた知識も、ダンスも、……誇り高さも」
「……本当?」
「ええ。……だから子どもが生まれても、あなたの名前は付けないわ。アウローラは、あなただけだもの」
幸せそうに微笑んで……アウローラは、ゆっくりと目を閉じた。
「アウローラ?眠ったの?わたくしね、あなたのこと……」
答えがないのを承知で、リーリアは誰よりも美しく微笑んだ。
「……大好き」
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素敵なお話しを読ませて頂いてありがとうございます。
感想ありがとうございます😊
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2人の素晴らしい女性に愛されたバカ⋯(๑°̧̧̧ㅿ°̧̧̧๑)
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あとはアウローラに教育され認められたリーリアに躾けてもらいなさい(* ˘꒳˘ )*ᴗ_ᴗ)* ˘꒳˘ )*ᴗ_ᴗ)⁾⁾ゥンゥン
子供が産まれてもアウローラの名前はつけない⋯⋯だってアウローラがどんなに素晴らしい女性だったかを語る相手が同じ名前だとプレッシャーになっちゃうしね(* ̄꒳ ̄)
で、子供達は思うわけだ⋯『アウローラさまってすごいひとだったんだね(๑꒪ㅿ꒪๑) おかあさまもそんなひとにみとめてもらってすごいしおとおさまもそんなひとにあいされてすごい⋯(๑꒪ㅿ꒪๑) ぼく(わたし)もアウローラさまがみとめてくれるようなりっぱなひとになります!(* ̄꒳ ̄)』
この国は安泰ですね(* ̄꒳ ̄)←妄想暴走中w
感想ありがとうございます♪
先々のことまで想像していただけて嬉しい☺️
アウローラはきっと、自分のしたいようにしただけだ、とツンとするのでしょうね。
あうろーらが、けなげすぎるうぅ
感想ありがとうございますm(_ _)m