【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
17 / 70

17 ビフォーアフター

しおりを挟む
魔王城の正面――
本来は真っ白なはずの噴水が、いまや見るも無惨な姿をさらしていた。
たしかにここで洗濯をしても文句は言われないかもしれない。

しれないけど...


私は本当にいいの?
あとで不敬罪とかで訴えられない?と不安になる。

とはいえ、濁った水面には、謎のゴミがぷかぷか。
小川には紫の靄が立ち込め、ブンブンとうるさい虫が飛び交っている。

……もはや瘴気の沼地である。

それならば、掃除をしているふりをして絨毯を洗っても許されそうな気もする。

ただ.....

「これ??洗えますか?なんか噴水にあるの、もはや水じゃないんですけど」

台所と大概いい勝負だ。
紫に立ち昇るドロドロの紫の中に、黒紫のヘドロがたんまりとある。

どっちが汚いでショー

そんな一人ツッコミすら虚しい。

「こっちは任せて。あいつら、水が苦手みたいだから」

ウンディーネが水球をふわっと浮かべる。
それが一斉に虫たちへと飛んでいく。
何十、何百の水球が一斉に色んな方向に飛び交う

ーーーぎゅぎゃーピチピチ!!!

ん??

「虫の断末魔ですよね!? ぎゃぎゃピチピチって何の音ですか!?」

わたしは思わず叫ぶ。
なんか、リアルな人の雄叫びなんですけど!


ウンディーネは容赦なく水流が虫どもを処理し続ける
水球の中に、もれなく一匹ずつ虫がパッケージされる。

ひゃーー!
そんなパッケージいらない!!
ネズミもだけど、虫もいやだっ!

だが、そのまま水球は網に叩きつけられると、残ったのは昇天された虫たちの集合体だ。
うえっ!

その間に、ネズミイがモップを構えた。
わたしも急いでその横に立つ。
遅れを取ってはならない。
わたしは元勇者、現メイド!

「掃除はな、磨きが命!」
「はいっ、師匠!!」

モップとたわしを手に、私も気合い十分でネズミイに敬礼!
そして続く。

虫は見ない!虫はいない!虫は無視!


リンが、紫煙に包まれた噴水の床をこすれば、不思議と少しずつ霧が晴れていくようにむらさきが溶けていく。

「前回と同じだ。まるで綿菓子が溶けるかのような」

ゴシゴシ、ゴリゴリ、ふわふわ

その隣でネズミイは、汚れを職人技でゴリゴリと磨き上げた。

ピカピカ、キュッキュッ、つるん!ぴかっ!

「……ん?あれ?なんか光った?」

リンはしゃがみ込む。
裾を膝上まで捲って帯でぎゅっと結ぶが、元々長い。
もはやスカートの裾も袖もびしゃびしゃだ。

細い足があらわになるが、誰も見てはいない。
裾をぎゅっと結ぶ。

じゃぶじゃぶと噴水やその通路の中に入り、底に手を差し入れる。ずしりとした、冷たい感触がある。

「あっ!やっぱり何かあるよ」

手のひらサイズの透明な石が、光を反射してきらりと輝く。

「これ……台所にあった魔石?」

その瞬間。


――ゴウッ!!


リンの手元から、突風が噴き上がった。

「リンちゃん!」
「危ねぇっ!」

ウンディーネが水の壁を張る。
ネズミイが吹き飛ばされそうなリンの腕をつかむ。

バァシャーーーン

激しい水柱
そこから空中に立ちのぼる風の柱。
その風を浴びて全身再び水の壁をざぶんと被るのはわたし。

そして、その中心から、淡い光が差し――

「うあ~……やっと出られた~!」

ふわりと現れたのは、宙に浮かぶ女性だった。
長い髪を風になびかせる。
今まで無風だった魔王城の前に風が流れ始める。

女性は両手を上げて大きく伸びをする。

「エアリア!? こんなところにいたの!?」
「ウンディーネ?水、めっちゃ冷たかったんだけど~!」

ふわふわと漂う女性は、風そのもののような存在。
少女のような、私よりは年上かな?
ウンディーネさんよりは歳が下な気がする。

無邪気な笑みと抜けた雰囲気が、妙に場に馴染んでいる。

「ネズミイ、リンちゃん。この子はエアリア。風の精霊よ」

ウンディーネが呆れたようにエアリアを見て、自己紹介。
精霊が精霊を自己紹介ってシュールすぎる。

「よろしくね~。最近は人どころか水も来なくなったし、ここきったないし、瘴気は溜まるし、寝てたら出るに出られない汚さになってたのよー」

エアリアによれば、元々この噴水が自分の居場所らしい。
だが、瘴気がどんどんたまっていくにつれ、このあたりも人が来なくなってしまった。
その後、水も止まって長らく放置されていたらしい。

「私はそのパターンで台所の洗い場にいたのよ」
ウンディーネもゲンナリする。

ただ、あれは瘴気だけが原因じゃないけど。
わたしは、台所のカビと悪臭を思い出して、ぞわっとする。

「ウンディーネも洗い場に埋まってたなら、そりゃ噴水も止まるわね」

エアリアは納得したように頷いた。
わたしは、ふわふわ浮かぶエアリアを見上げたまま、目をぱちくりしていた。

なんか、目の前で美少女?
美人精霊二人が井戸端会議ならぬ噴水会議をしている。
神々の会議?
美しい......

「エアリアが協力してくれるなら、掃除も早く終わるわね」

ウンディーネが言うと、エアリアは嬉しそうにぴょんと跳ねる

「やるやる!なんか力が有り余ってるんですけど...」

絨毯の山を見下ろす。

「うわっ、ドロッドロ。えーっ、最初の仕事がコレかあ。力がダダ下がり。これ本当に洗うの?」
「はい! お願いします!」

わたしはエアリアを見つめる。
ダダ下がる前にお願いしたい!

「オッケー! お風呂みたいにしちゃうよ~!」

こうして――
水と風による、精霊スペシャル絨毯クリーニングが始まった。

エアリアの風で絨毯を噴水の通路までひゅんっ!と飛ばす。
私がそれをフミフミ。
ネズミイがモップでごしごし。
ウンディーネが水をバシャー!

黒や紫の汚れが、じわじわと踏めば踏むほど水の流れと共に落ちていく。

「ドロドロなのに、サラサラになるのが不思議」

どろっどろで溶けかけた絨毯は、りんの足でふみふみすると紫が溶け出て、絨毯本来の素材が戻っていく。
それをネズミイが押し出すと、黒は汚れの黒だったとわかる。


「どす黒……紫……薄紫……」

リンが呟いた。
そして。

「……透明!」

溶けていたはずの絨毯が、完全に元の姿に戻る。
まさかの綺麗な紅の絨毯。
だが、そのままでは水を含んで重すぎる

仕上げはエアリアの風。
洗い終えた絨毯が空をふわりと舞う。

ジャバジャバ
バタバタ
パタパタ

音を立てて乾いていく。

「すごい……本当に色が戻ってきてる……!」

私はその間に走って城に戻り、一斉に魔王城の窓を開けた!

「窓を開けて大掃除だ!」

ハタキでパタパタ!
「紫ぃ!紫ぃ!紫ぃ!」

ふわんふわん紫煙の溜まり場に突っ込んでいく!

「紫ぃ!紫ぃ!どんとこーーーい!」

なんだったら「紫、どんと来い」という名の歌を歌い続ける勢いで!

「紫ぃ!」

叫び続ける。 
その紫がなくなったところで...

ネズミイの目がキラッと光る

「俺は職人!!」

ネズミイが、みるも驚きのネズミ足で廊下をピカピカに磨き上げると――


窓辺から、その廊下に!!
今まで一度も届かなかった、澄んだ光が。
そこには、ピッカー!!と

差し込む!!

キラキラキラキラ

「綺麗……!光ってる!輝いてます!」

紫を通り越して、白い廊下が日の光を受けて黄色く輝いている。
最後に私とエアリアが絨毯を敷き直す。
ネズミイが鼻をフンッと鳴らし

「完了だぜ!!」

というとそこには...まあ何ということでしょう!

あの汚かった魔王城がほらこんなに日差しが入る通路に変身した。懐かしいビフォーアフターのテーマが流れる。

こうして。

――魔王城、廊下完成!!

やり遂げた充実感が胸に広がる。
だが、この感動の中、ウンディーネが少し冷静な目でわたしを見つめていたことに気づかなかった。

やっぱり、この子....

その頃
あのふたりは、いまだにーー
台所で、リンの嫁問題について真剣に語り合っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...