聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
16 / 44

16 瘴気の成分は?

しおりを挟む
「やっぱり、空気が澄んでると仕事がはかどるねぇ」

トミーさんが大きく伸びをしながら、鼻先に珈琲の香りを通す。
その手には猫マグ。隣では魔王さまが、ドクロ模様のマグを片手にドヤ顔でデスクワーク中だ。

……場所は、なぜか台所の作業台の上。

「リンが淹れてくれる珈琲、朝がしゃきっとするなぁ」

「ありがとうございます……」

狐の秘書官とツノつき魔王が、メイドが磨き上げた厨房でカフェごっこ。
ついでに私も、ノリノリでメイド、じゃなかった食堂のおばちゃんのようにコーヒーを注ぐ

なかなかにシュールな絵面だが、雰囲気だけは本格派である。

私が魔王城に来てから、ちょうど一週間。
あの婚約騒動の件で二人は人間が魔王城にいることと、婚約者と言ったことでお偉いさんたちからお叱りを受けているらしいけど――優しいから、わたしの前では何も言わない。

台所には清涼な空気が流れ、磨かれた床はぴかぴか。

……が、その快適さの中に顔をしかめる者も、いる。

「はあ~……やっと空気がマシになってきたのに」

その声はネズミイ。今日もモップ磨きを忘れない。
だが、拭ける範囲は限られている。

その理由はーー

「作業台占領すんなっての! モップかけできねーだろ!」

そう、先日から、なぜか魔王とトミーは、朝食からそのまま台所で執務をしていて、一日そこから全く離れないからだ。


「執務室でお仕事しないんですか?」

恐る恐る私が尋ねると、魔王さまがあっさり答える。

「廊下が瘴気まみれでね。向かう気力も削がれるんだ」
「従業員も、あれさえなければ出勤するんですけどね!」

トミーがバン!と机を叩いて悔しがる。

「魔界の門がこの城にあるせいで、この魔王城が一番瘴気が濃いのよ」

ウンディーネさんがため息混じりに説明する。

「瘴気かぁ...」

人間のリンにとってはそこまで深刻ではないけれど――
念のため様子を見に行ってみると......

廊下は人の目でも紫の霧に飲まれて視界ゼロ。
なんだったら奥まで歩いたら吸い込まれそうなお化け屋敷感満載。

さらに床を見れば...
絨毯は紫になり、ドロドロと溶けかけている。
もはや原型を留めていなかった。
本当の絨毯の色は何色なんだろう?

「うわ……蜘蛛の巣じゃなくて、コレが瘴気だったんだ。コレはちょっとやそっとじゃ無理そう……」

生活に支障が出るのも納得だ。
というか、このドロドロの成分はなんだろう?
瘴気っていってたけど、体には良くなさそうな感じ

ドロドロ絨毯に足跡をつけてみる。
しばらくは足跡が残る
10秒ぐらいするとじわーーーっと消える

結構、粘着系?
触ると濡れてるわけでもない。
不思議...

「……あの絨毯、洗える場所ってありますか?」

尋ねると、ウンディーネさんが顎に指を当てて考える。

「あるにはあるわ。洗う場所じゃなくて魔王城の前にある白い噴水と小川。物がデカい上に瘴気となると、クリーニングもできないしね。私の魔石を持って行けば、水で清められるはずよ」

魔王城の前にあるお城の象徴じゃないですか!
あの本来なら美しい庭園があってその中で、噴水が出てるアレですよね。
お貴族さまとかのおうちにあるアレでしょ。

いやいや、いくら汚れてても洗濯場には...
その瞬間――ガタン!

「オレも行くぜ!!」

ネズミイが椅子を蹴飛ばし、怒りのモップを肩に担いで立ち上がった。

「どうせこいつらが居座ってる限り、仕事なんてできねーしな!」

台所の守護神、怒りの掃除魂!!フル稼働である。
いや、まだそこで洗うとは...言ってないけどもう洗わないとは言えない

(……二人とも、本当に台所好きだよね)

私の内心も虚しく、彼らの圧力はますます高まっていく。

その一方――問題の二人はというと。

「ここにお布団持ってきて寝たいですね」

「目覚めたとき、料理の音が聞こえるって……なんか新婚さんっぽくない?」

……完全に現実逃避モードだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...