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17 ビフォーアフター
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魔王城の正面――
本来は真っ白なはずの噴水が、いまや見るも無惨な姿をさらしていた。
たしかにここで洗濯をしても文句は言われないかもしれない。
しれないけど...
私は本当にいいの?
あとで不敬罪とかで訴えられない?と不安になる。
とはいえ、濁った水面には、謎のゴミがぷかぷか。
小川には紫の靄が立ち込め、ブンブンとうるさい虫が飛び交っている。
……もはや瘴気の沼地である。
それならば、掃除をしているふりをして絨毯を洗っても許されそうな気もする。
ただ.....
「これ??洗えますか?なんか噴水にあるの、もはや水じゃないんですけど」
台所と大概いい勝負だ。
紫に立ち昇るドロドロの紫の中に、黒紫のヘドロがたんまりとある。
どっちが汚いでショー
そんな一人ツッコミすら虚しい。
「こっちは任せて。あいつら、水が苦手みたいだから」
ウンディーネが水球をふわっと浮かべる。
それが一斉に虫たちへと飛んでいく。
何十、何百の水球が一斉に色んな方向に飛び交う
ーーーぎゅぎゃーピチピチ!!!
ん??
「虫の断末魔ですよね!? ぎゃぎゃピチピチって何の音ですか!?」
わたしは思わず叫ぶ。
なんか、リアルな人の雄叫びなんですけど!
ウンディーネは容赦なく水流が虫どもを処理し続ける
水球の中に、もれなく一匹ずつ虫がパッケージされる。
ひゃーー!
そんなパッケージいらない!!
ネズミもだけど、虫もいやだっ!
だが、そのまま水球は網に叩きつけられると、残ったのは昇天された虫たちの集合体だ。
うえっ!
その間に、ネズミイがモップを構えた。
わたしも急いでその横に立つ。
遅れを取ってはならない。
わたしは元勇者、現メイド!
「掃除はな、磨きが命!」
「はいっ、師匠!!」
モップとたわしを手に、私も気合い十分でネズミイに敬礼!
そして続く。
虫は見ない!虫はいない!虫は無視!
リンが、紫煙に包まれた噴水の床をこすれば、不思議と少しずつ霧が晴れていくようにむらさきが溶けていく。
「前回と同じだ。まるで綿菓子が溶けるかのような」
ゴシゴシ、ゴリゴリ、ふわふわ
その隣でネズミイは、汚れを職人技でゴリゴリと磨き上げた。
ピカピカ、キュッキュッ、つるん!ぴかっ!
「……ん?あれ?なんか光った?」
リンはしゃがみ込む。
裾を膝上まで捲って帯でぎゅっと結ぶが、元々長い。
もはやスカートの裾も袖もびしゃびしゃだ。
細い足があらわになるが、誰も見てはいない。
裾をぎゅっと結ぶ。
じゃぶじゃぶと噴水やその通路の中に入り、底に手を差し入れる。ずしりとした、冷たい感触がある。
「あっ!やっぱり何かあるよ」
手のひらサイズの透明な石が、光を反射してきらりと輝く。
「これ……台所にあった魔石?」
その瞬間。
――ゴウッ!!
リンの手元から、突風が噴き上がった。
「リンちゃん!」
「危ねぇっ!」
ウンディーネが水の壁を張る。
ネズミイが吹き飛ばされそうなリンの腕をつかむ。
バァシャーーーン
激しい水柱
そこから空中に立ちのぼる風の柱。
その風を浴びて全身再び水の壁をざぶんと被るのはわたし。
そして、その中心から、淡い光が差し――
「うあ~……やっと出られた~!」
ふわりと現れたのは、宙に浮かぶ女性だった。
長い髪を風になびかせる。
今まで無風だった魔王城の前に風が流れ始める。
女性は両手を上げて大きく伸びをする。
「エアリア!? こんなところにいたの!?」
「ウンディーネ?水、めっちゃ冷たかったんだけど~!」
ふわふわと漂う女性は、風そのもののような存在。
少女のような、私よりは年上かな?
ウンディーネさんよりは歳が下な気がする。
無邪気な笑みと抜けた雰囲気が、妙に場に馴染んでいる。
「ネズミイ、リンちゃん。この子はエアリア。風の精霊よ」
ウンディーネが呆れたようにエアリアを見て、自己紹介。
精霊が精霊を自己紹介ってシュールすぎる。
「よろしくね~。最近は人どころか水も来なくなったし、ここきったないし、瘴気は溜まるし、寝てたら出るに出られない汚さになってたのよー」
エアリアによれば、元々この噴水が自分の居場所らしい。
だが、瘴気がどんどんたまっていくにつれ、このあたりも人が来なくなってしまった。
その後、水も止まって長らく放置されていたらしい。
「私はそのパターンで台所の洗い場にいたのよ」
ウンディーネもゲンナリする。
ただ、あれは瘴気だけが原因じゃないけど。
わたしは、台所のカビと悪臭を思い出して、ぞわっとする。
「ウンディーネも洗い場に埋まってたなら、そりゃ噴水も止まるわね」
エアリアは納得したように頷いた。
わたしは、ふわふわ浮かぶエアリアを見上げたまま、目をぱちくりしていた。
なんか、目の前で美少女?
美人精霊二人が井戸端会議ならぬ噴水会議をしている。
神々の会議?
美しい......
「エアリアが協力してくれるなら、掃除も早く終わるわね」
ウンディーネが言うと、エアリアは嬉しそうにぴょんと跳ねる
「やるやる!なんか力が有り余ってるんですけど...」
絨毯の山を見下ろす。
「うわっ、ドロッドロ。えーっ、最初の仕事がコレかあ。力がダダ下がり。これ本当に洗うの?」
「はい! お願いします!」
わたしはエアリアを見つめる。
ダダ下がる前にお願いしたい!
「オッケー! お風呂みたいにしちゃうよ~!」
こうして――
水と風による、精霊スペシャル絨毯クリーニングが始まった。
エアリアの風で絨毯を噴水の通路までひゅんっ!と飛ばす。
私がそれをフミフミ。
ネズミイがモップでごしごし。
ウンディーネが水をバシャー!
黒や紫の汚れが、じわじわと踏めば踏むほど水の流れと共に落ちていく。
「ドロドロなのに、サラサラになるのが不思議」
どろっどろで溶けかけた絨毯は、りんの足でふみふみすると紫が溶け出て、絨毯本来の素材が戻っていく。
それをネズミイが押し出すと、黒は汚れの黒だったとわかる。
「どす黒……紫……薄紫……」
リンが呟いた。
そして。
「……透明!」
溶けていたはずの絨毯が、完全に元の姿に戻る。
まさかの綺麗な紅の絨毯。
だが、そのままでは水を含んで重すぎる
仕上げはエアリアの風。
洗い終えた絨毯が空をふわりと舞う。
ジャバジャバ
バタバタ
パタパタ
音を立てて乾いていく。
「すごい……本当に色が戻ってきてる……!」
私はその間に走って城に戻り、一斉に魔王城の窓を開けた!
「窓を開けて大掃除だ!」
ハタキでパタパタ!
「紫ぃ!紫ぃ!紫ぃ!」
ふわんふわん紫煙の溜まり場に突っ込んでいく!
「紫ぃ!紫ぃ!どんとこーーーい!」
なんだったら「紫、どんと来い」という名の歌を歌い続ける勢いで!
「紫ぃ!」
叫び続ける。
その紫がなくなったところで...
ネズミイの目がキラッと光る
「俺は職人!!」
ネズミイが、みるも驚きのネズミ足で廊下をピカピカに磨き上げると――
窓辺から、その廊下に!!
今まで一度も届かなかった、澄んだ光が。
そこには、ピッカー!!と
差し込む!!
キラキラキラキラ
「綺麗……!光ってる!輝いてます!」
紫を通り越して、白い廊下が日の光を受けて黄色く輝いている。
最後に私とエアリアが絨毯を敷き直す。
ネズミイが鼻をフンッと鳴らし
「完了だぜ!!」
というとそこには...まあ何ということでしょう!
あの汚かった魔王城がほらこんなに日差しが入る通路に変身した。懐かしいビフォーアフターのテーマが流れる。
こうして。
――魔王城、廊下完成!!
やり遂げた充実感が胸に広がる。
だが、この感動の中、ウンディーネが少し冷静な目でわたしを見つめていたことに気づかなかった。
やっぱり、この子....
その頃
あのふたりは、いまだにーー
台所で、リンの嫁問題について真剣に語り合っていた。
本来は真っ白なはずの噴水が、いまや見るも無惨な姿をさらしていた。
たしかにここで洗濯をしても文句は言われないかもしれない。
しれないけど...
私は本当にいいの?
あとで不敬罪とかで訴えられない?と不安になる。
とはいえ、濁った水面には、謎のゴミがぷかぷか。
小川には紫の靄が立ち込め、ブンブンとうるさい虫が飛び交っている。
……もはや瘴気の沼地である。
それならば、掃除をしているふりをして絨毯を洗っても許されそうな気もする。
ただ.....
「これ??洗えますか?なんか噴水にあるの、もはや水じゃないんですけど」
台所と大概いい勝負だ。
紫に立ち昇るドロドロの紫の中に、黒紫のヘドロがたんまりとある。
どっちが汚いでショー
そんな一人ツッコミすら虚しい。
「こっちは任せて。あいつら、水が苦手みたいだから」
ウンディーネが水球をふわっと浮かべる。
それが一斉に虫たちへと飛んでいく。
何十、何百の水球が一斉に色んな方向に飛び交う
ーーーぎゅぎゃーピチピチ!!!
ん??
「虫の断末魔ですよね!? ぎゃぎゃピチピチって何の音ですか!?」
わたしは思わず叫ぶ。
なんか、リアルな人の雄叫びなんですけど!
ウンディーネは容赦なく水流が虫どもを処理し続ける
水球の中に、もれなく一匹ずつ虫がパッケージされる。
ひゃーー!
そんなパッケージいらない!!
ネズミもだけど、虫もいやだっ!
だが、そのまま水球は網に叩きつけられると、残ったのは昇天された虫たちの集合体だ。
うえっ!
その間に、ネズミイがモップを構えた。
わたしも急いでその横に立つ。
遅れを取ってはならない。
わたしは元勇者、現メイド!
「掃除はな、磨きが命!」
「はいっ、師匠!!」
モップとたわしを手に、私も気合い十分でネズミイに敬礼!
そして続く。
虫は見ない!虫はいない!虫は無視!
リンが、紫煙に包まれた噴水の床をこすれば、不思議と少しずつ霧が晴れていくようにむらさきが溶けていく。
「前回と同じだ。まるで綿菓子が溶けるかのような」
ゴシゴシ、ゴリゴリ、ふわふわ
その隣でネズミイは、汚れを職人技でゴリゴリと磨き上げた。
ピカピカ、キュッキュッ、つるん!ぴかっ!
「……ん?あれ?なんか光った?」
リンはしゃがみ込む。
裾を膝上まで捲って帯でぎゅっと結ぶが、元々長い。
もはやスカートの裾も袖もびしゃびしゃだ。
細い足があらわになるが、誰も見てはいない。
裾をぎゅっと結ぶ。
じゃぶじゃぶと噴水やその通路の中に入り、底に手を差し入れる。ずしりとした、冷たい感触がある。
「あっ!やっぱり何かあるよ」
手のひらサイズの透明な石が、光を反射してきらりと輝く。
「これ……台所にあった魔石?」
その瞬間。
――ゴウッ!!
リンの手元から、突風が噴き上がった。
「リンちゃん!」
「危ねぇっ!」
ウンディーネが水の壁を張る。
ネズミイが吹き飛ばされそうなリンの腕をつかむ。
バァシャーーーン
激しい水柱
そこから空中に立ちのぼる風の柱。
その風を浴びて全身再び水の壁をざぶんと被るのはわたし。
そして、その中心から、淡い光が差し――
「うあ~……やっと出られた~!」
ふわりと現れたのは、宙に浮かぶ女性だった。
長い髪を風になびかせる。
今まで無風だった魔王城の前に風が流れ始める。
女性は両手を上げて大きく伸びをする。
「エアリア!? こんなところにいたの!?」
「ウンディーネ?水、めっちゃ冷たかったんだけど~!」
ふわふわと漂う女性は、風そのもののような存在。
少女のような、私よりは年上かな?
ウンディーネさんよりは歳が下な気がする。
無邪気な笑みと抜けた雰囲気が、妙に場に馴染んでいる。
「ネズミイ、リンちゃん。この子はエアリア。風の精霊よ」
ウンディーネが呆れたようにエアリアを見て、自己紹介。
精霊が精霊を自己紹介ってシュールすぎる。
「よろしくね~。最近は人どころか水も来なくなったし、ここきったないし、瘴気は溜まるし、寝てたら出るに出られない汚さになってたのよー」
エアリアによれば、元々この噴水が自分の居場所らしい。
だが、瘴気がどんどんたまっていくにつれ、このあたりも人が来なくなってしまった。
その後、水も止まって長らく放置されていたらしい。
「私はそのパターンで台所の洗い場にいたのよ」
ウンディーネもゲンナリする。
ただ、あれは瘴気だけが原因じゃないけど。
わたしは、台所のカビと悪臭を思い出して、ぞわっとする。
「ウンディーネも洗い場に埋まってたなら、そりゃ噴水も止まるわね」
エアリアは納得したように頷いた。
わたしは、ふわふわ浮かぶエアリアを見上げたまま、目をぱちくりしていた。
なんか、目の前で美少女?
美人精霊二人が井戸端会議ならぬ噴水会議をしている。
神々の会議?
美しい......
「エアリアが協力してくれるなら、掃除も早く終わるわね」
ウンディーネが言うと、エアリアは嬉しそうにぴょんと跳ねる
「やるやる!なんか力が有り余ってるんですけど...」
絨毯の山を見下ろす。
「うわっ、ドロッドロ。えーっ、最初の仕事がコレかあ。力がダダ下がり。これ本当に洗うの?」
「はい! お願いします!」
わたしはエアリアを見つめる。
ダダ下がる前にお願いしたい!
「オッケー! お風呂みたいにしちゃうよ~!」
こうして――
水と風による、精霊スペシャル絨毯クリーニングが始まった。
エアリアの風で絨毯を噴水の通路までひゅんっ!と飛ばす。
私がそれをフミフミ。
ネズミイがモップでごしごし。
ウンディーネが水をバシャー!
黒や紫の汚れが、じわじわと踏めば踏むほど水の流れと共に落ちていく。
「ドロドロなのに、サラサラになるのが不思議」
どろっどろで溶けかけた絨毯は、りんの足でふみふみすると紫が溶け出て、絨毯本来の素材が戻っていく。
それをネズミイが押し出すと、黒は汚れの黒だったとわかる。
「どす黒……紫……薄紫……」
リンが呟いた。
そして。
「……透明!」
溶けていたはずの絨毯が、完全に元の姿に戻る。
まさかの綺麗な紅の絨毯。
だが、そのままでは水を含んで重すぎる
仕上げはエアリアの風。
洗い終えた絨毯が空をふわりと舞う。
ジャバジャバ
バタバタ
パタパタ
音を立てて乾いていく。
「すごい……本当に色が戻ってきてる……!」
私はその間に走って城に戻り、一斉に魔王城の窓を開けた!
「窓を開けて大掃除だ!」
ハタキでパタパタ!
「紫ぃ!紫ぃ!紫ぃ!」
ふわんふわん紫煙の溜まり場に突っ込んでいく!
「紫ぃ!紫ぃ!どんとこーーーい!」
なんだったら「紫、どんと来い」という名の歌を歌い続ける勢いで!
「紫ぃ!」
叫び続ける。
その紫がなくなったところで...
ネズミイの目がキラッと光る
「俺は職人!!」
ネズミイが、みるも驚きのネズミ足で廊下をピカピカに磨き上げると――
窓辺から、その廊下に!!
今まで一度も届かなかった、澄んだ光が。
そこには、ピッカー!!と
差し込む!!
キラキラキラキラ
「綺麗……!光ってる!輝いてます!」
紫を通り越して、白い廊下が日の光を受けて黄色く輝いている。
最後に私とエアリアが絨毯を敷き直す。
ネズミイが鼻をフンッと鳴らし
「完了だぜ!!」
というとそこには...まあ何ということでしょう!
あの汚かった魔王城がほらこんなに日差しが入る通路に変身した。懐かしいビフォーアフターのテーマが流れる。
こうして。
――魔王城、廊下完成!!
やり遂げた充実感が胸に広がる。
だが、この感動の中、ウンディーネが少し冷静な目でわたしを見つめていたことに気づかなかった。
やっぱり、この子....
その頃
あのふたりは、いまだにーー
台所で、リンの嫁問題について真剣に語り合っていた。
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