【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

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28 魔王会議

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魔王城 最上階会議室

魔王が窓を開ければ、薄靄に包まれた城下町が霞んで見えた。
ふわりと風が舞ったが、エアリアの気配はない。

──まあ、来るはずないか。
魔王はため息をつく。
こんな、腹黒魔族だらけの密室に、精霊が好き好んで来るわけがない。
エアリアもウンディーネも、あの子のそばにいるのは、俺がいつもリンに会いたくなるのは……あの空間が澄んで、邪心がない空間だからだ。

「それで魔王様──ご説明いただけますかな?」

会議室の空気を裂いたのは、狸谷りこく宰相の声。
丸い尻尾がピクリと揺れ、金縁の眼鏡がギラリと光る。

「人間の娘を、嫁候補にしたという噂。あれは……本当ですかな?」

出た!初手から爆撃!さすが狸谷様!

周囲の魔族重鎮たちは、ニヤニヤが止まらない。
こいつは大波乱の予感だ。

「説明も何もない。人間界に逃げた魔物回収に行ったとき、彼女に一目惚れした。それだけだ」

魔王はいつも通りの無表情で、平然と爆弾を投下した。
一瞬、静まり返る。

……そして、爆発。

「正妻という意味ですか!? 妾なら、まだ……!」

狸谷の目がカッと見開かれ、尻尾が逆立つ。

「おや? 私が愛した人を、妾にしろと?」

魔王の目が、きらりと光った。

周囲の空気が凍る。

「ま、魔族の血を絶やすおつもりかと……!」
「我が家の姫もお会い願えませんか!」
「抜け駆けはなしだ、うちの娘も──!」

堰を切ったように、各家の重役たちが口々に叫ぶ。
完全に婚活戦争である。

「静まりたまえ」

一喝したのは、トミーだった。
メガネをくいと直し、表情を崩さない。が──

……いやいやいや
いつ惚れて、いつ愛して、いつ求婚したんですか

トミーの手はぷるぷる震えていたが、周囲は「怒り」と勘違いしてくれたようで、場は静まり返る。

だが、狸谷宰相は引かない。

「魔王様。先日の瘴気事件。門の綻び。魔物の暴走。そろそろお体は……限界なのではありませんかな?」

魔王の目が、かすかに揺れる。

「……」

「我々は知っております。先代魔王の最期も。
瘴気を抱えすぎた魔王は理性を喪い、“次の魔王復活”となる

ざわり、と空気が動いた。

誰もが知っている事実。
魔王が、人間界から流れてくる瘴気を吸いすぎて体が耐えられなくなり、狂化し、完全に魔界の門が開く。
そうなれば、新しい魔王が前の魔王を討伐する。

そうしないと凶化した魔王が自我を無くし暴れてしまい、魔界は瘴気に包まれてしまうからだ。
瘴気につつまれたら魔物も魔族も生きられない。

それが魔王復活。
復活は、新しい魔王が誕生することを意味する。
そして、前の魔王を討つのは、息子の魔王であることも──

「だが魔王様、貴方には後継がいない。どうされるおつもりで?」
「まだ死ぬつもりはないが……。それとも宰相、私が倒れたら君が代行するかい?」

魔王は口元を緩める。
スネク式の教育のおかげで、表に出す感情は抑えられている。

……だが、リンの前では毎回だだ漏れだ。

「ご存知のはずです。魔王になれるのは、魔王の血を継ぐ者のみ!」

狸谷が叫ぶ。

「だから嫁を決めていただきたいのです!」
「わたくしどもの子供は、自身の犠牲など厭いませんぞ!」

ふん──
お前やお前の子は“名誉”がほしいだけだ。
だが、産まれてくる子供が、自身の犠牲を厭わないと思うな。

脳裏に、かつての父の最期がよぎる。
震える手。潰れる声。
あのときの絶望が、今も背後に張りついている。

(父さん……ごめん)

魔王はゆっくりと立ち上がる。

「私の後任の件は保留だ。瘴気は処理済み。体調に問題はない。そして──」

言葉を区切り、ゆっくりと一歩前に出た。

「私は、リンを嫁に迎える予定だ。以上だ」

どよめきすら起きない。
ただその背を、皆が無言で見送った。

唯一、表情を崩したのは──

「へぇ……言っちゃったな」

にやりと笑ったトミー。

(いよいよ、聖女が魔王の嫁になるか)

狐の目が、妖しく細められた。
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